第5話 新座郡・依頼完了
「
「どうかした?」
「う、うん……深玖里さんって、
「そうだけど、なんで?」
「あ……見たことがない
「ふうん……でもアタシも自分が使う符術以外のことは知らないし、みんな、そんなもんなんじゃあないの?」
縁はブルブルと首を振った。
「そ、そんなことはないよ。みんな、
どの家も自分の符術を一番だと思うほど自信を持っている。
それでも、少しでも他所の術で強そうなものがあると、どうにかして自分に取り入れられないかと、試行錯誤しているという。
「ボクは
「へえ……全然知らない。アタシ習っただけだし」
深玖里の符術も、他所の符術を取り入れて強くなったんだろうか?
あの父親が、自分の術だけで満足するとは思えない。
縁のいうように、どこかの符術と組み合わせているだろう。
「それに……その使い魔、そ、それの使いかたも変わってる。そんな小さな
「これ……? これはアタシに符術を教えてくれた人が、こうしたほうが使いやすいだろうって……」
「それならたくさん持てるだろ? 一体ってことはないよな?」
「まあ……そうだけど……」
三人並んで
深玖里はこれまで、そんなことにまるで興味がなかったけれど、さっき縁が使っていた
「でもさ、縁の家は岩代でも有名な家柄なんでしょ? なんで
「だ、だってボクは四男だから……跡目は継げないし……」
――そういうことか。
「櫻龍会は、そういう人たちばかりだ。でもみんな、腕は確かなんだよ」
駿人はそういって縁を褒める。
確かに縁は符術を使うだけじゃあないし、あの
「ただ、ね。武蔵国だけは、ぜ、全然情報の出てこない一門があるんだ」
「ふうん。強いの? そこ」
「まったくわからない。秩父の奥山らしいんだけど……し、
「内村翔太が気にしてるの?」
深玖里が聞くと、縁と駿人は顔を見合わせて苦笑いをした。
「総領に、三人の息子がいるらしいってことは、わ、わかったんだって」
「それが三人そろって、なかなかの美少年らしいって噂」
「美少年……なによ、それ。符術と関係ないじゃないの」
「そいつらが出てきたら、自分の存在が危ぶまれるって思ってるんだろ」
「や、山からおりて来なければいいのに、って、ぼ、ぼやいてた」
呆れるほど馬鹿な男だ。
そんなことで存在価値を図っているのか。
「まあ、翔太のやつもあれで符術師としての腕は確かだけどな」
「う、うん。翔太は表には出さないけど、努力家だから……」
「深玖里ちゃんも口説かれただろ?」
「口説かれ……ってほどじゃあないけどね」
駿人は大声で笑った。
「そういうところは変わらないヤツだよな。でもアイツ、本命がちゃんといるんだよ」
深玖里は開いた口がふさがらなかった。
本命とやらがいて、なぜほかの女にちょっかいをかけるのか。
「し、翔太は……ボクもだけど……跡目が継げないから、じ、自分の存在価値をどこかで見いだしたいんだと思う」
モテるとか人気があるとか、必要とされていることを感じたいんじゃあないかと、縁はいった。
「それにしたって、方向性がおかしいじゃない。案件こなして、みんなに喜んでもらえたら満足できるでしょうよ」
「ぼ、ボクはそう思っているよ!」
縁は慌てたように翔太みたいにはなれない、といって、その行動を否定している。
その頭を、駿人がワシワシと撫でた。
「このあいだ、あいつら高額の依頼をこなしたらしいから、本命に会いにいくんじゃないか?」
「高額の依頼って……金狐?」
「み、深玖里さん、櫻龍会じゃないのに、その情報知ってるの?」
「知ってるもなにも、アタシその場にいたもん! 戦ったのよ! あいつと」
「ああ、それじゃあ巻き込んじゃった一般人って、深玖里ちゃんのことか。符術も使い魔も、あんなに使えるのにやられちゃったんだ?」
グッと言葉に詰まる。
油断していてうまく
「まあ、そんなこともあるよ。怪我は? もういいの?」
「うん、白いほう……
「金狐、毒があったらしいからな。大事にならなくてよかった」
「良くないわよ! だって百八十よ? もっと早く符術を使えてたらアタシが……」
「そう落ち込むなよ。それより、本気で櫻龍会に入るの、考えてみなよ。額、デカいよ」
額がデカい、その響きはどこまでも魅力的だ。
それでも、今はまだ首を縦には振れない。
「……そのうち、ね」
気づけばもう請負所の前まで戻ってきていて、早々に依頼の申請を済ませると、約束通り懸賞金を折半にして、宿へと戻った。
――翌朝。
宿を出て平林寺の総門を通りすぎたとき、縁の声が追ってきた。
「お、おはよう! 昨日はありがとう」
「別に気にしなくていいのに。アタシも助かったし」
「今度はどこに行くの? オレたちはここから
「アタシは
「そ、そうなんだ……それじゃあ、ここでお別れだね」
「まあ、この仕事をしてればまた会うだろうけど」
確かに、その可能性はある。
とはいえ世の中、思うより広い。
そんなにすぐに会うことはないだろう。
「それじゃあ、いつかまた」
二人と手を振って別れた。
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