第44話 変化はいつでも突然やってくる

「…失礼するわ」

「やっほー優斗くん、日和ちゃん!あれれ、胡桃ちゃんまでいるー!!おおー!クールな千楓ちゃんまで横にいい!これは面白い事になってきたぞおおお」

「おいおい、あまり一年生の前で騒ぐなよ加奈。一緒にいる俺の身にもなれ」


 次の日の昼休み。俺のクラスは物凄い人だかりで飽和状態になっていた。


「…ん…あ…先輩だ…」

「やっほー加奈ちゃん先輩!」

「なんだ三年生か?騒がしいな」


 ただでさえ日和がいて胡桃先輩、獅堂が遊びに来ている事で注目を集めていた。そこに会長達三人組が来た事でさらに何事かと野次馬が集まってきたのである。


 しかも一番注目を集めているのは俺。日和達が俺の席を囲うように集まっているせいだ。太一達もすぐそばで何事かと様子を見守っている。


 大丈夫かなあ俺。伊集院の件で結構同情されてたから、最近他の生徒達皆が俺に優しかったのに。うう…皆の視線が刺々しいぜ。

 

 そんな不安をお構いなしにまず最初に注目を物ともせず堂々と教室に入ってきたのは篠宮先輩だ。


 彼女はこっちに来た途端、ウインクしながらわざと大声でとんでもない事を言い出した。


「流石モテ男!噂通りの性獣ぶり!よっ、歩く生殖器!今日もやってんねえ優斗くうん!」

「ちょ、冗談でもわざと煽るにやめてください!マジで殺されますって!!」


 先輩のせいで皆、特に野郎どもの殺意のこもった視線が鋭くなってきちゃったよ!マジで闇討ちに遭ったりしねえよなあ!?


「あはは!ごめんごめんっ。ほら若葉っ!そんな所で恥ずかしがってないで、早くこっちに来なよー。優斗くんに用があるんでしょ?」

「そうだけど…でも…やっぱりこんなに見られてる中で…」

「見られてる中でするから意味があるんでしょ?昨日の夜、散々話したよね?ただでさえ遅れを取ってるんだから、責めないと若葉に勝ち目なんてないよ?もう仕方ないわねぇ。誠司!お願い!」

「はいはい。すまん若葉。攻めた方がいいという加奈の意見には俺も同意なんだ。まあ、これもお前が卒業前に後悔しない為だ。悪く思うなよ?」

「もうっ、誠司まで…ま、待ってちょうだい…まだ心の準備が…」


  雲雀副会長が、お顔真っ赤の会長の背中を押しながら会長を連れて来たぞ!?何どういう状況!?一体何が起ころうとしてるんだ…?


 モジモジしながら時折上目遣いでこちらをチラチラ見る会長を、この場にいる誰もが見守っていた。そしてようやくその重い口を開こうとした時――


「お?会長サマ、早くも優斗に愛の告白か?気合入ってんな!いいぞおお!行けええ!」

「「「空気読めやああああああ!」」」

「うお!?何だよ!?!?」


 阿久津先輩!?いつの間にそこに…。咄嗟に俺も勢いで叫んだものの、会長に注目していたせいで全く気づかなかったぜ。


 この場にいる全員から総ツッコミを受けた阿久津先輩は、昨日の漢らしい姿が嘘みたいにタジタジだ。それにしてもこういう時のこの学校の奴らの連帯感は凄えな!相手が阿久津先輩でも容赦ねえわ。


「怜ちゃん!若葉が頑張ってるんだから、こんな時くらい大人しくしてなさいっ!」

「阿久津…。お前、マジで空気読めよ?」

「わあったって!俺が悪かったよ!ったくうるせえなあ!」


 会長はというと、そんな彼らにこめかみをピクピクさせて今にも爆発しそうである。


「あなた達…もう…面白がっちゃって…」

 

 はあ、と会長は大きくため息を吐く。上手い具合に緊張が解けたのか、どこか清々しい顔をしていた。


「もうこうなったら私も覚悟を決めるわ。言葉にしないと何も始まらないもの」


 覚悟?何を始めようというんだ!?置いてけぼりすぎるって!


 顔が真っ赤でこちらまでどうにかなりそうだった会長はもういない。目の前にいるのはいつもの誰もがよく知る凛とした会長だった。


 みんなの注目を浴びる中、会長は真剣な眼差しで俺を見つめて言った。


「…影山くん。私、貴方に恋したみたい。私と付き合ってくれないかしら?」

「「「えええええええええええええ」」」


 教室中に大絶叫が響き渡る。


 ………






 え?




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