第45話 勝負の一戦目
俺はとりあえずいつも通りの過疎地に降りた。
だいぶ前から決めていた固定場所だ。
漁り方も大体同じにしている。
幸い敵は見当たらなかったということもあり、ムーブが崩れることはなかった。
「安全地帯は結構寄ってるな」
開始1分後に安全地帯の場所が示される。
今回はすでに範囲内に入っていたので無理に動く必要もなかった。
「とりあえずこの家に隠れるか……」
無理に攻めて、初動落ちは結構響く。
より生き残ることで、人はどんどん集まってくる。
終盤にキルを稼げばいい。
現に武器はそろっているので無理に外を走る必要もなかった。
「さて、待機するか」
家の階段裏に隠れた。
最悪家に敵が入ってきても不意を打ちやすいだろう。
だが、ここでふと思い浮かんだ。
この今も主催者側の配信では俺らのプレイが流れてくる。
もし、俺が写された時階段裏だったら、批判を食らってもおかしくない。
「いや、もう少し強気に行くか」
初戦から引いていても面白くない。
こういうのは最終手段にしよう。
俺は階段を駆け上り、窓のつく部屋に入った。
これなら視聴者に批判を食らうこともなく、
敵が見えたらすぐに撃てる。
そして近くの街にたくさん人が降りていたのでもしかしたら倒せるかもしれない。
そんな色んな希望を背負ってここにしたというわけだ。
いつもならこの待機時間にコメントを読んだりするのだが、
今回は、見てはいけない。
まあ敵情報が分かってしまうといろいろと規約に引っかかるからだろう。
ただ視聴者には俺の配信画面は見えているので、
独り言をつぶやく。
「初戦1位取りたいな」
「でも、やっぱり春陽さんとか居るしなあ……」
彼女らの実力を俺は見ていない。
氷さんのプレイは少なくとすごかった。
だが、やはり一人ひとりのプレイスタイルは違うので
彼女たちがどんな感じで戦うのか分からないのだ。
「あ、敵来たかも」
色々呟いていたら、足音が聞こえてきた。
だが俺が窓をのぞいていた方向とは真逆だったので、
気が付くのが少し遅れてしまったのだ。
まだ敵は1階に居るような感じだった。
なので俺は階段を死守した。
上から撃つことで有利な立場が保てるというのもある。
そして俺は足音を鳴らさないようにゆっくり歩いたということもあって、
相手にはまだ気が付かれていなかった。
「頼む」
結局は祈ることが重要だ。
本番でどれだけ緊張に打ち勝って、
どれだけエイムが合うかが重要なのだった。
少し待っていると、敵がどうやら2階に上がるような挙動を感じた。
俺は頭の中でシミュ―レーションした。
「来た!」
とりあえず先手のために1発入れる。
しっかりと頭に当たり、相手は大ダメージを食らう。
相手は少し身を引こうとするが、ここで隙を与えるわけにはいかない。
俺は階段を駆け下りて、すぐに狙いに行く。
相手が逃げ腰だったたということもあり、背後からもう一発撃つ。
しっかりとその弾は当たり、ようやく1キル目が獲得できた。
「よしよし。」
FPSは本当に何があるか分からない。
最後に逆転されることもあれば、
ピンチからの大逆転勝利などもある。
だからこそ最後まであきらめず、油断せずにやりきるのが重要だった。
「また来たか?」
どうやら銃声の音を聞きつけたのか、足音がまた1つ聞こえた。
俺はおそらく、家のドアから入ってくるだろうと待ち構えた。
案の定は相手はドアを開けて入ってきたのでそのまま撃ち込んだ。
相手はまさか待ち構えているとは思っていなかったのか、
そのままやられていった。
「2キル目いいね」
初戦ということもあり相手も油断していたのだろうか。
少なくとも最終戦などになってくると皆警戒心高くなるので、
この技も通用しなさそうだ。
いつもならもう残り10人という頃合いなんだが、
大会ということもありまだ20人以上残っていた。
おそらく上位勢は結構生き残っているのだろう。
俺は次の安全地帯も範囲に入っていたので移動することなく同じ家に居る。
「あそこ戦ってるなあ」
俺は窓の奥で戦っている敵を見つけた。
なんとなくでスナイパーに切り替えて、
当たれば良いなと思い撃ったそれは、そのまま相手の頭に当たった。
「え?」
1キルできるとは思わず一瞬思考が停止する。
だが、相手もおそらく瀕死だろうと思い、詰めに行く。
家の外に出ると一気に恐怖感が増すが、それでもチャンスを逃すわけにはいかない。
敵は建物の裏側で回復をしていた。
俺は躊躇なくスナイパーを撃って4キル目を獲得する。
「よし」
相手は俺に気が付いていなかったのかすぐにやられた。
少しだけ戦利品を漁るとすぐに元々いた場所に戻る。
「いいね。4キルは幸先良い」
初戦から4キルは悪くないだろう。
まだ残り人数が20人残っているので、もう少しキルが伸ばせそうだ。
「うわ」
そう思っていたところで、安全地帯の更新があった。
場所は俺の居る家から離れていたので移動するしかない。
「とりあえず行くかあ……」
人によって安全地帯の移動方法は変わる。
すぐ移動する人もいれば、ぎりぎりで動く人も居る。
ちなみに俺は前者だ。
あとからくる人たちをキルしたいというのもある。
敵と出会わないように走って安全地帯に入る。
すぐそばに小屋があったのでそこに避難だ。
都合のいいことに移動してくる人たちが狙いやすいように窓が置かれていた。
俺は、スナイパーを構えてずっと待つ。
もう居ないかなと思ったくらいの時に、やはり敵が現れた。
相手は小屋にまさか人が居ると思わず無防備でこちらに向かってくる。
俺はそれを見逃すほどお人よしではない。
「しゃあ。5キル目」
しっかりスナイパーで頭を狙った。
緊張に負けることもなく、そのまま5キル目を取った。
まあ、初戦にしては上出来だろう。
そう思い、次の安全地帯も移動する。
普段ならこのまま移動できるほどには正確な立ち回りだと思った。
でも、やはり1人のプレイヤーが立ちふさがったのだ。
「え?」
まさかルート上に敵が居るとは思わなかった。
俺は敵が居ないであろう今の安全地帯の端っこの谷を通っていたのだ。
しかも相手が居る場所は明らかに有利な立場だった。
俺はどうすることも出来ないのでこの勝負に賭けた。
「つよすぎ」
まったく弾が当たらない。
というよりは読まれていた。
しかも俺は圧倒的に不利な立場だ。
周りには物影が少なく、そして谷の合間だった。
それに対して相手は上に居る。
「これきつくね」
おそらく読まれていたのだろう。
じゃないとここまで狙ってこない。
「先読みされてたか…」
相手の完璧な行動に勝てるはずもなく、
ダメージは稼げたものの、負けってしまった。
《プレイヤー名 氷 にキルされました。》
「ん?」
どうやら氷さんにキルされたらしい。
「まじか」
トッププレイヤーはやはり先読みしていたのだろうか。
試合を眺めつつ、コメント欄を配信画面に映す。
ー悪くないんじゃない?
ー出だしよし
ー最初だから
ー初戦は良いと思う
ーがんばった。
その後観戦していると、やはりマッチ1位になったのは氷さんだった。
優勝候補ということもあり、プレイは圧巻の連続だった。
「こんなん勝てるか?」
少し弱気になった部分もあった。
ーいける
ーあと5試合ある
ー諦めるのはやい
試合結果を待っている間、少しでも調子を整えるために、深呼吸をする。
「ふぅ」
俺が深呼吸し終えたくらいに、結果が発表された。
top5はこうなった。
1位 風山氷
2位 春陽のゲーム部屋
3位 プリーム・アラモート
4位 清城 ひな
5位 白海ネスイ
4位の清城 ひなさんは確か3期生だ。
まったく絡みがなかったのだが、HESKAL杯で上位を占めている一人でもあったので名前は覚えていた。
「やっぱすげえな」
ー5位はすげえけどな
ーやっぱ1位は氷か
ー今年も顔ぶれは一緒だな
ーネスイが荒らしに行くかな
初戦から飛ばしている人もやはりいる。
やはり目標は1位だ。
まずはこの壁をどう乗り越えるかが勝負のカギとなりそうだ。
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