第4話 救世主様⁉

 異世界に送り込まれて早速、獣人がこの世界で置かれている立場を目の当たりにしてしまい、更に成り行き上とはいえ人間を殺しちまった。

 最も、これが俺のやるべき事なのだと腹を決めたのだし、結果オーライという事で。


「ところでメナスさん……でしたか、此処が何という場所なのか教えていただけますか? 正直言って、此処が何処なのかさっぱり分からないものでして」


「はい。此処ら一帯はバーガストと言い、猫獣人族と兎獣人族、そして羊獣人族が身を寄せている地です。西のセサンと東のアダルの丁度中程といった所になります」


 彼等が猫獣人族なのは見て分かる。他に兎獣人に羊獣人かぁ、めっちゃ和み系の集まりじゃねぇか。

 それで、此処ら一帯がバーガストという地域で、西にセサン。東にアダルって場所があって、その中間地点が此処で……って、まったくワカラン。


「確か……アダルという所へ向かってると言ってましたよね?」


「はい、その通りで」


「アダルというのは、どんな場所なのですか?」


「アダルは兎獣人族が主体の土地です。農業が盛んで他の種族とも農作物を多く取引しております。我々もアダルから農作物を購入しておりまして、いつもはセサンに来る行商から買っているのですが、今回は我々の狩猟した野獣肉が多く出ましたので、こちらから行商に向かう所でした」


 なるほど。行商人の一行だったってわけか。


「しかし、行商っていつもこんなに危険を伴っているのですか?」


「いえいえ、この周辺でこのような目に遭う事など以前はありませんでした。どうして聖王国騎士団がこんな辺境までやって来たのか……」


「ああ、その聖王国騎士団っていうのは?」


「トラバンスト聖王国という人間族の国の騎士です。聖王国は人間族国家の中でも特に亜人種族への差別が激しく、人間中心主義を掲げて亜人種族国家や亜人種族を擁護する国への侵攻を繰り返していまして、最近は魔族国への侵攻に力を注いでいると聞いていましたが……」


 魔族……やっぱり魔王とかいるんだろうな。

 

「魔族ってのは、やはり強い種族なのですか?」


「う~ん、どうでしょう。魔族は唯一魔法を使える種族ではありますが、人間族も強力な魔術を使いますし、何より人間族は数が多いですから。魔族も最近は、魔族国への人間の侵攻を防ぐので手一杯だと聞いております」


 異世界ありがちな「魔族恐るべし!」なんてのは無いのか。

 やはりラダリンスさんの言う通り、魔族と言っても迫害対象にされるくらい人間の勢力の方が上のようだけど、魔族の魔法より人間の魔術の方が強力?

 魔族だけが唯一魔法を使えるから、俺を魔族だと思ったって事なんだな。


 とにかく、まずはこの世界の事を把握しておく必要がある。


「メナスさん、私もアダルまで同行させてもらえますか?」


「よ、よろしいので? 我らとしてもターナス様のような強いお方が一緒であれば、大変心強いです。是非こちらからもお願い致します」


 この世界で人間から迫害されている種族を救って『人間至上主義』をぶっ壊す。その一歩を既に踏み出しちまったようだし、もう後には引けないもんな。


 さてと、まずはこの倒れてしまった幌馬車をどうにかするか。

 幸い、馬の方は多少怯えているようだけれども、特に怪我もしていないようだし。

 

 幌馬車に近付いて破損していそうな箇所を見て周ると、前後とも車軸が折れたり車輪が破損していたりする。こいつを直さないことには馬車として使い物にならない。

 想像した力を具現化する能力ってのは、物理的に壊れた物を直す事も出来るのだろうか。


 ――想像する。

 折れた車軸が、歪んだ車輪が、破れた幌が、それぞれ修復していく様を。


パキパキ、メキメキ、シュルシュル……と、横転していた幌馬車が“勝手に”起き上がるり、小さな音を立てながらみるみる元の姿に復元していった。


「「おおぉ~!」」


「ターナス様ッ!!」


 獣人たちが感極まっているような声を上げる中、一際大きく名前を呼ぶ声がした。

 見るとそこには、あの御者台にいた猫獣人の女の子の姿があった。


「ターナス様、ありがとうございます。この荷馬車は私の家の唯一の財産なんです。壊れてしまって……どうしようかと……本当に、うぅっ……」


 どうやらこの女の子の家の持ち物だったようだ。だから彼女が御者をしていたのか。


「そっか。まぁ、直って良かったな。だから泣くなって」


 つい、泣き崩れる彼女の頭を撫でてしまった。


 なんだこれ! めっちゃ気持ちイイッ!!

 途轍もなく柔らかく触り心地の良い毛並み!!

 猫獣人スゲェ!


「ターナス様、本当に、本当にありがとうございます。私はハースと言います。どうぞ何でもお申し付けください。ターナス様のためなら何でもします!」


「あ、ありがとう。でもまぁ、そんなに大層な事じゃないから、ね。そんなに気にしなくていいよ」


「いいえ。ターナス様は救世主様です。一生ターナス様にお仕え致します!」


 いや……ちょっと何言ってんの、この子?

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