―02― 鑑定結果、難易度はF級です
俺はダンジョンに関する知識が妙に欠けている。
というのも昔適正ランクがFだとわかったせいで、ダンジョンそのものを毛嫌いしてしまい情報とかも見ないようにしていたからだ。
それでも、この目の前にある小さな穴がダンジョンの入り口だってことはわかった。
「どうしよう……」
ダンジョンが見つかった場合、どうするのか俺はなにも知らない。
てか、庭のダンジョンができるなんて、滅多にあることではないと思うが。
少しだけダンジョンの中に入ってみたいという好奇心が湧く。
でも、流石に危険すぎるか。
俺なんて適正ランクFだし。
「鑑定スキル、このダンジョンの難易度を鑑定できたりしないかな?」
流石にそんなことまでは鑑定できないかな? と、思いつつも口に出してみる。
『鑑定結果、このダンジョンの難易度はF級。最も攻略が簡単なダンジョンです。最弱なご主人様でも上層ならなんとかなるかもしれません』
「マジか」
ダンジョンのことまで鑑定できることも驚きだが、このダンジョンが俺でも攻略できるぐらい簡単だって事実も驚きだ。
「じゃあ、このダンジョンに入って素材をたくさん回収すれば、金持ちになることができるんじゃね?」
そして、金持ちになればアイドルと結婚できるかもしれない!
グヘヘ……そう思うと、興奮してきたな。
とはいえ、最低限の武器は必要だよな。
というわけで、家からサバイバル用のナイフを持ってくる。一応探索者をしている父親のお古を勝手に持ち出したのだ。
ちなみに、両親は今、出張で遠くに引っ越ししたため、今は一人暮らしだ。
そのナイフを手にして、俺はダンジョンの入り口に飛び込んだ。
中は狭い通路のような通路になっていた。
閉鎖された通路の中だが、どこかに光源があるのか周囲は明るい。
しばらく歩くと早速、モンスターが現れた。
鶏の頭にトカゲの体を持ったモンスターが目の前にいたのだ。
なんかめっちゃ強そうなんだけど!? え!? 大丈夫? ここ本当にF級ダンジョンなんだよね?
「なぁ、鑑定スキル、本当にこのモンスターは俺でも勝てるぐらい弱いんだよな!?」
『鑑定結果、モンスター名〈コカトリス〉。討伐ランクは最弱のF。一般的な探索者なら、一瞬で倒すことができるぐらい弱いモンスターです』
「マジ!?」
このコカトリスってモンスターってこんなに弱いんだ。
確かに、コカトリスは俺の胸辺りまでの大きさしかない。強いモンスターってもっと大きいイメージがあるから、このコカトリスは鑑定スキルが言う通り、あまり強くないんだろう。
なら、あんまり緊張しなくてもいいか。
『あぁ、でも最弱のご主人さまだと、死ぬ可能性は十分ありますが』
「え――?」
驚いた次の瞬間、コカトリスが突撃してきた。
慌てて俺は横に飛んでよける。すると、さっきまでいた場所に突撃したコカトリスは地面を盛大に踏む。すると、あまりの衝撃に地面が割れていた。
その衝撃の強さに戦慄する。
これって避けるのミスっていたら、間違いなく死んでたやつだよな。
このコカトリスがF級だとしても、俺よりずっと強いのは間違いない。
え? このモンスターを一般的な探索者なら一撃で倒せるって言ってたよな。もしかして、探索者って俺が思っている以上に厳しい世界なのかも。
衝撃の事実に恐れおののく。
でも、諦めたくない。
俺はこのダンジョンで金持ちになってアイドルと結婚するんだ!
そう思って、前を向く。
すると、コカトリスが唾を飛ばしてきた。
反射的にナイフを持っていない左手を突き出して、唾から身を守る。
「って、腕が溶け出したんだけど!?」
なんか腕から煙がでてきて、めっちゃ変色してる。熱いし、めちゃくちゃ痛い!
『慌てないでください。非常に弱い毒です。無視して構いません。探索者なら、よくあることです。放っておけばそのうち治ります』
マジか。こんな毒でも弱いのか。
しかも、よくあることって、探索者ってすごいんだな!?
「てか、鑑定スキルってなんでも教えくれるんだな!」
『はい、ワタクシはご主人さまの鑑定スキルですので』
そっか、鑑定スキルってすごいんだな。
最初手に入れたときはハズレスキルだと思っていたけど、意外とそうでもないのかもな。
痛みに我慢しつつ使い物にならなくなった左腕はいったん無視して、ナイフを持った右腕に集中する。
「なぁ、弱点とか鑑定できないのか?」
『鑑定結果、ナイフで左腕を刺して毒を付着させてください。そのナイフでコカトリスの目を刺してください』
「コカトリス自身の毒がコカトリスに効くのか……?」
『コカトリスの目だけは、自身の毒に耐えることができません』
なるほど、そういうことか。
よしっ、気合いを入れて実行に移す。
ナイフでまず左腕を刺しては毒がべったり付くよう切り裂く。
めちゃくちゃ痛いはずだけど、アドレナリンがでているせいか我慢できた。
「コカトリス、決着をつけようじゃないか」
そう言うと、再びコカトリスは唾を飛ばしてきた。
それをすでに変色して使い物にならなくなっている左腕で防ぎつつ、前に突撃すする。
唾をとばした直後は隙が大きいらしく、これなら狙うことができそうだ。
「死ねッッ!!」
そう言って、目を突き刺すと、コカトリスが苦しそうに叫び声をあげた。
追撃しないと。
そう思って、俺は何度もナイフをコカトリスに突き刺す。
何度も何度も夢中になって刺し続けた。
そして、気がつけばコカトリスは動かなくなっていた。
勝てた。
あまりかっこよくない戦い方だったけど、初めての戦闘に勝つことができたからか妙に達成感がある。
毒を受けた左腕はもう見るも無惨な姿になってしまったけど。
これって本当に治るんだよな。
「そうだ、素材ってどうやって回収するんだっけ」
確かに、倒した魔物を解体すれば魔石という鉱物がでてくるはず。
この魔石が非常に高価で売ったら大金になるらしい。最低でも10万とかで売れるんじゃないだろうか。
「あった―――ーっ!!」
魔石を取り出し歓声をあげる。左腕が使えないせいでけっこう苦労した。
俺はこれのためにダンジョンを潜ったのだから。
「なぁ、この魔石とかも鑑定できるか?」
試しに鑑定スキルにそう語りかける。
『鑑定結果、魔石のランクは最弱のF。市場価値は20円です』
「は――?」
えっ、この魔石ってたったの20円なの? あれだけ苦労して手に入れたのに。
『魔石の価値は倒した魔物の強さに比例します。コカトリスは弱いモンスターのため、手に入る魔石も価値が低いのです』
困惑が伝わったようで、鑑定スキルが解説してくれる。
そっか、そうなのか。
さっきまでの嬉しさがいっきに失せてしまった。ものすごくがっかり。
『がっかりするのはまだ早いかと。魔石を飲み込むことで、能力を向上させることが可能です。どんな探索者も魔石を飲み込むことで自身の強化を図っています。まぁ、20円の魔石なので、少ししか強化はできませんが』
鑑定スキルの言葉を顔をあげる。
今よりも強くなって、コカトリスよりも強い魔物を倒せばお金を稼げるようになるはずだ。
強くなってお金も稼げれば、ランキング一位の武藤健吾みたいにアイドルと結婚できるかもしれない。
いや、調子のるな、俺。
所詮俺は適正ランクF。
Fが強くなったとしても、FはFのままだ。
武藤健吾みたいになれるはずがない。
「なぁ、鑑定スキル、適正ランクFの俺でも魔石を飲み込めば強くなれるのか?」
しばらく待ったが鑑定スキルはなにも答えてくれなかった。
けど、俺は満足だった。
否定しないってことは、強くなれるってことだと前向きに捉えよう。
それにモンスターに勝ったとき、俺は高揚感を覚えたんだ。
その高揚感をもう一度味わいたい。だからもっと強くなりたい。俺は探索者を楽しんでいた。
適正ランクFだろうが、このダンジョンで誰よりも努力して強くなってやる。
そして、目指せアイドルと結婚。
そう決意した俺は、コカトリスから手に入れた魔石を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます