勇者パーティーの料理番〜理不尽に追放されたので、スキル【食育】で新しい仲間のレベルをカンストさせて流刑地でスローライフを送ります。一方、勇者たちは魔王討伐に苦戦中らしい〜

もえかすのトマト

裏切り

「え、俺がクビ……?」



俺は唐突に仲間よりクビを宣告されていた。



「悪いなスザク、みんなで話し合った結果なんだ」



神妙な面持ちで語るのは勇者パーティーでリーダーを務めるリュートだ。



「……スザク、俺たち五人は一年前、勇者としてベオルディ王国に召喚された。最初は魔王討伐の話を聞いてワクワクしたものだよな」



人にクビの話を振っておきながら思い出話か……。




俺は突っ込みたい気持ちを我慢しつつ、






「まあな。でもすぐに元の世界に戻る方法がないことを知らされた……」




「あぁ……俺たちが白金高校二年F組の教室に戻ることは恐らくもうない」








俺たち五人は同級生だ。




といっても、他の四人はクラスカースト上位に位置するリア充で元々仲が良い。




対して俺はクラスでぼっちの日陰者。




初めはよりによってなんでこの四人と、と思ったものだけど受け入れるしかなかった。








「リュート、前置きはいい。なんで俺がクビなんだ?」






「…………ククク。お前でもそんな目をするんだな」




リュートの顔が、他の四人が知らない酷く歪んだものへと変わる。






「スザクも知っての通り、王が俺たちに用意している報酬金には限りがある。無事に魔王を倒せば、報酬は五人で山分け……だがスザク、お前にその権利があると思うか?」




「あると、思うんだが……」




「ハッ、馬鹿が……ないに決まってるだろう!!!」




鞘から抜かれた鈍色が俺の喉元に突きつけられていた。






はぁ……有無を言わせるつもりはないってわけか。




俺はうんざりしつつ両手を挙げる。






「いいかスザク、戦闘スキル皆無で戦う術が無いお前は今日まで何をやってきた? いつも安全な後方で、俺たちの食事を用意してただけだろうが!」




言いたいことはわかるけど、食事は体を作る上で重要だぞ?




糖分やタンパク質が足りないとエネルギー不足でまともに戦えなくなるし、塩分不足を招けば色々な身体機能を低下させるので注意が必要だったりする。




勇者という大役を担う彼等の活動量を考え、栄養や分量を細かく調整してきたのは料理番である俺だ。




それに俺のスキルを考えれば、パーティーに貢献していないとは口が裂けても言えないはずだった。






でもまぁ、リュートのことだ。


何が何でもそういうことにしたいんだろうなぁ……。




とりあえず話を進める。






「俺は役立たずだから、ここいらで離脱しろ。リュートはそう言いたいんだよな?」




「ふん、そうだ。お前がここで下りれば、報酬は俺たち四人で分配できる。元の世界には帰れないんだ。なら、安心して暮らすためにも金はあればあるほどいいだろう?」




そのためなら友達じゃない俺はどうなってもいいと。




なるほど、こいつクズだ。




もちろん知ってたけど。








学校でリュートは誰にでも分け隔てなく接する優しいイケメンとしてみんなから人気だった。




けど、クラスカースト最下位の俺には人権はないと思ったのか、同じクラスになってからというもの、周囲にバレないよう虐げてきた。




やられたことは主に恐喝だ。




自分の嗜好品を買うお金だったり趣味に費やす資金が必要な時、必ずと言っていいほど俺の元に来た。




欲しいもののためなら弱者から絞りとることさえ厭わない。




欲にまみれたどうしようもない人間、それがリュートだ。




もちろん、こっちも病気の母がいたりで余裕があるわけじゃないので拒絶することの方が多かったけど、その場合は徹底的に痛めつけられた。






リュートは陰湿で狡猾なので、あとで面倒なことにならないよう人目につかない腹部を執拗に殴ってきた。




ちなみに、召喚後はその行動がもっとエスカレートしたんだよな。もちろん、自分のイメージを守るため他の四人にはばれないようにだけど。




まあ、突然異世界に送られてストレスがすごかったんだろう。








あー、ていうか色々と思い出すだけで落ちるなぁ……。




とりあえず過去の話はおいておくとして、一応聞くべきことを聞いておくか。








「俺をクビにするのはわかったけど食事はどうするんだ? それにレベル上げの観点から見ても、俺がいた方がいいと思うんだけど」




「はははははっ。自惚れるなよ雑用が。今から踏み込むのは魔王の居城がある直轄領だ。あと数日ですべてが終わる。その間くらい食事なんてどうにでもなる」




さいですか。




「まあしかし、お前のスキル【食育】には助けられた。なにせお前が作った料理を食べるだけでレベルが上がるんだからな。おかげで楽に旅ができた……だが、俺たち四人は先日の悪魔幹部との戦闘でレベル99に到達して既にカンスト済み。つまり、お前はもう完全に用済みってわけだ」




「……どうあがいてもクビってわけか」




正直、まだ交渉材料はあったけど、報酬をなるべく多くもらいたいってことなら、きっと取り付く島もないんだろう。




剣先を突きつけたまま、リュートが下卑た笑みを浮かべて言う。




「あまり肩を落とすなスザク。俺だって鬼じゃない。お前のことは、王宛てにしたためた手紙に書いておいた。きっと悪いようにはしないはずだ」




手紙にはこう書いてあると言う。




これより踏み入る直轄領はかなり危険なため、非戦闘員であり功績のある料理番スザクを連れて行くわけにはいかない。よって彼が王国に帰還した折には、どうか手厚く労を労ってほしいと。




「ふくく……ま、せいぜい逞しく生きることだな。それじゃあ、お疲れさん。料理番の勇者、スザクくん。今までたっぷり搾り取らせてくれてありがとう」




リュートは自分が勝ち組であることを誇るように嘲笑いながら去っていった。




ふと、他の四人は本当にこの件に賛同しているんだろうか、なんて都合のいい考えが頭をよぎったけど、それはないなとすぐに断言できた。






恐らく四人がこの場にいたならこう言っただろう。






「クビで妥当妥当〜。だってこいつだけ命張ってなかったじゃん? いくら荷物持ちさせようが、雑用諸々やらせようが、結局オレらの不満は解消されなかったわけだしね〜」


「わかるー。つかオタクくんさぁ、すごいあたしのこと見てたじゃん? 一年そんな感じだったんだから、サービス料としてあんたの取り分もらうのは妥当だと思うんだよねー。きゃはは!」


「わたし、オタクって人種がそもそもアレルギーだからいなくなってくれるならなんでもいい。むしろさ、あたしらが今まであんたの手料理食べてあげたことに感謝しなよ。ほらお礼。はやく言えって」








「…………」








〜〜〜〜〜〜!!!!!




よくよく考えてみたけど、


俺ってこの一年ほんとがんばってきた!!!!!!




誰かが褒めてくれないんだとしても、


マジで自分を褒めてあげたい!!!!!!!!!!




挙句の果てに報酬だってもらえないんだろうし、こんなことあっていいのか!!!?




今日までクソみたいな人間関係に耐えてきたのは、魔王討伐後の生活を考えてのことだ。




元の世界に戻れないわけだし、知らない世界を生きていく上でまとまったお金は必要になる。




だから我慢して頑張ってきたっていうのに……!




「くっ−–」




自分でも驚くほど叫びたい感情にかられるも、きっと叫んだところでむなしいに違いない。




しばらく経った後、俺は立ち上がっていた。




「……王国に帰ろう」




家がない俺にとってそれしか選択の余地はない。




リュートは人間のクズだけど、なけなしの慈悲で王に手紙を送ってくれてるようだし、もしかしたら多少は報酬をもらえるかもしれない。




ていうかもらえないとおかしい。




言うなれば直轄領は終焉の地。


ラスボスステージのようなもの。




最後まで頑張ったに等しいわけだから、何かしら褒美はもらえるはずだ。




俺は前向きに考え、ベオルディ王国へと帰還した。








◆ ◆








結末を言うと、俺の願いは叶わなかった。




なぜなら俺は国に足を踏み入れると同時に、待ち構えていた様子の近衛兵たちに捕縛されてしまったのだから。




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