第九話 型破りな戦い方
太刀を構えた賊と見合う。
怖いがやるしかないっ!
「死に体の義平の前にお前の首を取ってやる」
物騒なことを言ってきおった。
何か言い返した方がいいのだろうか?
「それは
「何言ってんだこいつ……」
と、賊は呆れ気味だった。
「ま、まぁいい! 俺は
いきなり名乗り出した茂八は果敢に突っ込んできた。
そういえば武士の間では戦場で名乗りを上げる決まりがあるだとか……これは使える。
「ま、待てい。某はまだ名乗っておらん」
太刀を振りかぶっている賊に手のひらを向けて静止させる。
「っ! そういえばそうだったたな」
茂八は太刀を振るのをやめて一歩下がる。
やはり、こやつは武士気取りの賊。
確か名乗り口上中は攻撃してはならんという決まりがある、それを逆手に取れば……!
「某は平安京生まれの大貴族!」
適当なことを言うと茂八は「何っ⁉」と、目を見開いた。さらに言葉を紡ぎ。
「名は……おりゃあああああああああ!」
名乗るフリをして刀の刃を上に向けて、左下から右上へと得物を振り上げて斬りかかった。
「ぬわっ!」
茂八は咄嗟に太刀を縦に構えて某の刀を受け止めたが、体勢が整っていないせいで太刀が弾き返された上に茂八自身はたたらを踏んでいた。
しめた! 好機!
前に詰めて刀の切っ先で相手の腹部を突き刺そうとするが、
「うわぁぁぁぁぁ‼」
「うお、なんだこやつは⁉」
茂八は太刀を持ったままその場で絶叫しながら、その場で回転しだした。
相手の太刀と某の刀が衝突すると今度はこちらが後ろによろめいた。
「はぁはぁ……」
賊は息を切らしていた。
突き刺される寸前になんとかしようと行動した結果、回転したに違いない、生への執着というやつか?
「お前に誇りはないのか! 不意打ちとは許せん!」
賊の癖に誇りとか抜かしてきおった。
「恥さらしめがっ」
背後で休憩している義平もそんなことを言ってきた。
誰が助けてやってると思ってるんだ。
全く……いくら武士の決まりを守ってないとはいえこれぐらい大目に見ておくれ。
「分かった。茂八とやらここから真剣勝負だ」
刀を構えてみせる。対して茂八も得物を構えて、
「誰が信用するかァ!」
と、言って一歩踏み込んできた。
それに応じてこちらも一歩踏み込む。
これからお互いの得物がぶつかり合うと、他者はそう思うだろうが、某は踏み込んだ瞬間に後方へと跳ぶ。
そして地面に着地する前に刀を投げると――
「ぐっ!」
茂八の腹部に刀が突き刺さる!
刀を真っ直ぐ投げる技術は無いが、これだけ至近距離ならば多少は刺さるだろう。
「よくもォ!」
「
怒気を放っている茂八は腹部に刺さった刀を引き抜こうとするが某は柄の頭を右拳で殴りつけた!
「……っ!」
深々と刀は茂八に食い込み、彼は声をあげる暇もなく仰向けに倒れた。
「な、なんだ、そちのその戦い方は……き、奇怪が過ぎるぞ……」
義平は驚嘆していた。
これで見直してくれたことだろう。
それから義平に近づくと、
「くっくっ、はーはっは!」
彼は急に吹き出していた。
「
さすがに心配なので呼びかけてみた。
「いやなに、最初はそちの戦い方を見て呆れてな、あれで勝つと思ってなかった。たが結果はどうだ、そちは無傷で敵を討った。こんな強さもあるのかと思ってついつい笑っただけだ」
「は、はぁ……」
えらい評価されてしまった。
ただ死にたくない一心で咄嗟に思いついたことをやっただけなのだが。
「それと十郎」
「は、はい。なんでしょうか」
「おかげで助かった。礼を言おう、そちさえよければ名字を授けてやらんこともない、源氏を名乗るか?」
本当ならば金銭や物品を渡してきたのかもしれないが持ち合わせがないからといって、武家の名字を授けてくれるとは思わなかった。これは名誉なことなのだろうが。
「今は平家が朝廷側なんで源氏になって目をつけられたくないので嫌です」
「そ、そうか」
名誉より命が大事な某は冷たくあしらったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます