第99話 クランの方針

「きょ、今日からここに住むのか……!?」

「でっけぇー!」


 クランハウスに着くとルードやレオがその大きさにびっくりしていた。弟分たちはもう目を輝かせてその屋敷に見入っている。


「前のオーナーから貰い受けたんだ。書類上の名義は俺になってるよ」

「サルヴァン! 私と付き合わない!?」


 ミラが興奮して鼻息を荒くしている。目にお金マークでも浮いてそうだ。


「露骨過ぎだろ」

「あいたっ!」


 それをフィンがチョップで諌める。頭にもろだ。


「ははっ、俺なんか相手にしなくてもそのうち稼げるようになるさ」


 サルヴァンも当然本気にはしておらず、軽く流す。うずくまりながらもミラは目を釣りあげてフィンを睨んでいた。


「それより中へ入ろうよ。部屋割りとか決めないといけないし」

「そうだな。みんな、入ってくれ。まずは会議室に集まろう」


 話が進まないのでサルヴァンを促し、中へ入るように誘導する。これからの方針の説明とか色々やることが多いのだ。


「おかえりなさいませ」


 中へ入るとメイドさん達が出迎えてくれた。その様子が余程衝撃的だったのか、ルードたちが呆気にとられている。


「うお、すっげー! メイドさんだ!」


 レオはマイペースのようだけど。


「今日からクランに入る子達だ。よろしく頼むよ」

「はい、かしこまりましたご主人様」

「すっげー! 様付けだ!」


 メイドさんが淑やかに頭を下げると、その様子にレオが目を輝かせていた。雇い主はサルヴァンになるのでサルヴァンがご主人様だったりする。僕らは普通に名前呼びだ。彼女らの中には下級とはいえ貴族様の令嬢もいたりする。後で下手に手を出さないよう釘を刺しておこう。


「会議室を使う。お茶の用意を頼むよ」

「はい、かしこまりました」

「じゃあ行こうか。こっちだ」


 サルヴァンがお茶を頼み、会議室へと皆を集める。とりあえず僕らが固まって奥の方に座り、リーネの隣にルカを座らせた。後は適当に座ってもらう。


「いい椅子使ってんな……」


 使っている椅子もそれなりにいいものだ。会議室の配置は一番奥の8席が元々勇猛や神撃の使っていた席で、奥から入口が見えるように配置されている。他の席は全て向かい合うように横4列に12席ずつあるのだ。


「うっわー、広いなぁ」


 子供たちが広い会議室を見渡しながら前の方に詰めて座っていく。ルード達とヘタイロスは前の方だ。


「みんな座ったな。じゃあ今から俺たちのクラン、セフィロトの家についての話をする。が、その前にみんなに紹介したい子がいる」


 みんなが座ったことを確認し、サルヴァンが話を進めていく。先ずはみんなに改めてルカのことを説明しないといけない。


「えーっと、この子はルカ。私と同じ歳の子で、滅ぼされた村の生き残りなの。高い魔法の資質があるし、本人の希望もあってこのセフィロトの家の冒険者になる予定。先ずは読み書きを覚えて魔法と戦い方を覚えてからだけどね」

「ルカです。よろしくお願いします」


 リーネに紹介され、ルカが立ち上がってお辞儀をする。ルカは少し儚げな感じのする子だけど、強い意思を持った子だ。背は僕より少し高いくらいか。


 ルカが自己紹介すると、皆が拍手を贈る。皆気のいい奴ばかりだし、ルカの事情は前もって説明してある。


 しばらくは泣いて暮らしていたけど、ある日強くなりたいとライミスさん達に願い出たらしい。目的は恐らく復讐だ。


 村を滅ぼしたアマラに対し、強い憎しみを持っているだろうことは予想できている。皮肉にもそれが彼女の生きる糧になってしまっているため、今は本人の希望を叶えてやる方がいいだろうということになったのだ。後はここでの生活で復讐以外の生きる糧を見い出してくれたらいいと思う。


「じゃあ次は今後の予定な。今ルウがみんなが効率良く勉強出来るための道具を開発中でな。一応試作もできているし、すぐに人数分作れると思う。これが結構画期的でな。魔道具だけどルウの技術なら安く作れるし、これを量産できれば商売になるんじゃないかと考えている」

「もしかして商会を作るつもりか?」


 サルヴァンの説明にフィンが質問する。


「いや、すぐには無理だろう。まずノウハウがない。へタイロスが商人希望なのは知っているよな? そこでヘタイロスにはベルナール商会会頭のマルタンさんの元で働いてもらうことになった。ゆくゆくはヘタイロスが会頭になって商会を立ち上げる予定だ」

「これは俺としてもいい話だったからな。やがて俺の商会が資金源となり、セフィロトの家を支えていくことになる」


 これが僕の考えた構想だ。資金を自分たちの手で作り、セフィロトの家は商会と冒険者を同時に有する組織となるわけだ。そしてそのための人員をこのクランの中で育てる。教育さえしっかり受けられれば、ストリートチルドレンだって一人前の仕事ができるのだ。


 そしてここでは僕の魔道具作成技術をある程度使える人材も育て上げる。これにより僕たちが居なくなっても機能できる環境が生まれれば最高だと思うな。


「そのための会談が7日後にあるんだ。これにはなんと第1王子のエリオット殿下やライミスさんも参加されることになっている」

「で、殿下ぁっ!?」

「ライミスさんって、あの勇者様か!」


 サルヴァンの説明にルード達が驚きの声をあげる。普通に考えて庶民の、それも孤児である僕らが王族と会談なんて普通は有り得ないことだ。おまけに勇者様までいるし。この人脈がこのクランの強みだろう。


「ああ。俺らの後ろ盾はそのライミスさんだからな」

「……俺らとんでもないクランに入ったな」

「いいじゃんいいじゃん! なんかワクワクしてきた!」


 ルードがちょっと不安げに腕を組む。ミラは楽しそうだけど、多分何も考えていないと思うな。いやぁ、これから忙しくなりそ。冒険はしばらくお預けになりそうだ。



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