第28話 野宿

それからも平原を歩き、川の近くまで来た。ここの川は水も綺麗で魚も釣れるらしい。木々も生えているので枝を集めて火をつけることもできそうだ。今日はここで野宿をするらしく、筋肉の誓いの人達が野営の話を始める。



「ここは川も近いから水を求めて魔物や動物が来ることもある。まぁ、ここには俺たち以外にも沢山のチームがいるが、見張りはできれば2人1組がいい。片方が眠くなった時に声をかけられるからな。まぁ、慣れてしまえば1人でも大丈夫だ」


「今回はコミュニケーションも兼ねて俺たちとお前らから1人ずつ出して見張りを行なうからそのつもりでな」


「はい、わかりました!」



 アニキータとノーキンさんの説明に頷きずつ僕らは元気に返事をする。確かに僕達では途中で寝てしまいそうだ。



「んじゃ先ずは魚でも取るか。幸いここの川は流れも緩やかだからな。中に入ることができるなら……」



 ゴリマさんが大きめの石を持ち上げ、川から顔を出している石に近づく。そしてその大きめの石で思いっきり川の石を叩きつけた。


 するとぷかーっ、と魚が一匹浮かび上がり、それを慣れた手つきですくい上げると腰に下げたびくに放り込む。



「どよ、こういう捕り方もあるんだぜ」


「おおー、勉強になります」



 うん、知ってたけど知らないふり。ストリートチルドレンなので魚は大事な栄養源でしたからね。ここは大げさに拍手もしておきましょう。



「よし、じゃあ俺たちも捕ろうぜ」



 サルヴァンも靴を脱いで川に入り、魚を捕まえ始める。では僕も行きますか。魚を捕まえる罠は持っている。隠れる習性を利用すれば餌も要らないのだ。


 そうやって僕たちも魚を捕まえる班と枝を拾って火を焚べる班に分かれた。火はリーネので簡単に着く。威力を間違えると大惨事だがそんなミスをするリーネではないだろう。






 焚き火の遠火で魚を焼き、皆で食べる。うん、美味い。味付けは軽く塩のみだが、それがいい。



「うーん、魚もいいが、やはり肉が欲しいな。筋肉には肉だ」


「肉ありますよ? オークをですね、丸めて焼いた後タレに漬け込んであるので結構日持ちするんです」



 これが実にオーク2匹分あるのだ。元々それなりに日持ちする料理なので、これなら収納魔法に時間経過がないことも誤魔化せるだろうとクランのメイドさんたちに作り方を習ったんだよね。



 僕は防壁プロテクションを物置き代わりに設置し、煮込みオークを5本取り出して大皿に乗せる。1本あたりの長さは人の顔くらいのサイズだ。温めると柔らかくなるので調理用の刺叉に刺して焚き火に近づける。軽く温めたらお皿に戻す。太さは僕の握りこぶしより少し大きいのでナイフで切り分け、別のお皿に盛り付けていく。筋肉の誓いの人達はたくさん食べられるだろうから多めに盛り付けた。



「どうぞ食べてみてください」


「悪いな、んじゃいただくぜ」



 ゴリマさんがひょいと1枚つまんで口に放り込む。



「お、こりゃ美味い。いい味してるじゃねーか」


「ありがとうございます」



 僕は次々とオーク肉を温め直してはナイフで切ってお皿に盛り付けていく。もちろん自分たちの分もある。他のチームがこちらを見てるけどあげない。数はあるけど、そんなこと言ってたらすぐに無くなってしまう。非常時ならともかく、食糧は各自で用意が原則なので。



 筋肉の誓いの人たちは煮込みオークに満足し、お代だよと銀貨20枚くれた。なかなか太っ腹な人達だ。ありがたく頂戴しておこう。






 そして夜も深け、僕たちは焚き火を囲んで順に見張りをしていた。僕の番は3番目で相方はゴリマさんだ。僕個人は戦闘力が低いので戦闘力の高い相方はありがたい。



「廃村まではあとどのくらいでしょうか」


「明日には着くが、実際の戦闘は明後日だな。お前らはオークはもう余裕だろ?」


「数匹程度でしたら。でも僕もリーネも一撃もらったら命取りですからね、オーク1匹でも僕らにとっては油断できない相手なんです」



 オークは標準でもボクの体重の5倍以上だ。捕まれば殺されてしまうだろう。だからこそ僕らは確実に安全マージンをとる戦い方しかしない。


 ただこれは僕らに限った話ではなくほぼ全ての冒険者がそうだろう。身体が資本なのだから怪我などしても何もいいことがない。どんなに屈強な男でもオーガに殴られたら大怪我をするはずだし、刃物で斬られれば出血するのだから。



「いい心がけだ。EランクだとDに上がりそうなパーティほどゴブリンやオークを舐めて取り返しのつかないことになることが多いからな。その気持ちを忘れるなよ」


「はい」



 ゴリマさんは僕の話にニカッと笑う。確かに作ったような笑顔から来るいびつさはあったが、これはきっと他者を怖がらせないように、と自然に身についたものなのだろう。もうすっかり慣れて怖くはない。



 その後も僕はゴリマさん達の冒険譚を聞かせてもらった。そのパワフルな戦い方は驚嘆もので、オークを殴り殺したりオーガを投げ飛ばすという耳を疑うレベルの話もあったが、あの筋肉の持つ説得力は凄い。下手するとゴリマさん1人に僕ら全員やられるんじゃないかと思えてしまうほどだった。



 そして交代の時間になり僕はアレサと交代して眠りにつくのだった。

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