第8話 洗濯も回復《ヒール》でばっちり?

「でもさすがにこの格好はないわよね。返り血そのままだし」


「川へ行って水浴びをしましょう」



アレサが自分の浴びた血を気にしている。そりゃそうか。僕たちだって身綺麗にしないとお店に対しても迷惑がかかる。リーネの提案に皆賛成し、川へと向かった。



川は街中を流れており、意外と浅くて流れも緩やかだ。ここから桶で水をすくい、陰に隠れて身体を拭くのが一般的なやり方だ。中に入って身体を直接洗ってもいいけど、素っ裸はこの歳だとさすがに恥ずかしいです、はい。



川に着くと、特に人目につくこともなさそうだった。ここには小屋があり、老夫婦が住んでいる。僕たちの場合はこの老夫婦に頼んで桶と場所を借りて身体を洗うのだ。



「おばちゃーん、こんにちは!」


「あら、サルヴァン君たちいらっしゃい。身体を洗ってくのかい?」


「うん、頼むよ」


「あいよ、ちょっと待っとくれよ」



おばちゃんは奥から桶とタオルを4枚持ってきてくれた。僕たちはお礼を言って銅貨を4枚払う。この料金は宿屋に比べると破格に安く、普通は1人銀貨2枚取られる。実質これはここの老夫婦の親切なのだ。



早速アレサが水を汲みに行き、リーネと奥へ行った。当然後を付いていくと生命はない。



「ルウ坊、調子はどうでぇ」


「うん、ぼちぼちかな。今日はね、僕とサルヴァンが神殿で恩恵ギフトをもらったんだ。それでね、それでね…」



ここの老夫婦の楽しみはここに来た子供たちと話をすることだ。それがわかっているから、ここを利用する子達は皆話し相手になったり、相談したりする。本当に辛いときには助けてくれることもあった。僕たちストリートチルドレンにとって、この老夫婦は保護者同然でもある。だからみんなに好かれているし、この老夫婦のおかげでストリートチルドレン同士の争いも少ないのだ。


実はストリートチルドレンにも縄張りというものがある。でもこの老夫婦の住む小屋周辺だけはケンカ禁止でどこの縄張りにも属さない、というのが暗黙のルールになっているんだよね。


「終わったよ、次はあんたらね」


「お先~」



アレサとリーネが身体を洗い終わり、桶を受け取る。身体は綺麗にしたし、服も着替えた。安っぽい服だけど服だって安くはないのだ。汚れた服も洗うのだが、血はなかなか落ちない。水洗いだから仕方ないよね。そのせいで今2人が着ている服だって汚れは残っている。



「そうだ、回復ヒールで服洗えないかな?」


「どんな解釈だよそれ」


「服の状態を回復ヒール?」


「まぁ、試してもいいんじゃない? 実質使いたい放題なんだし」



うん、アレサの言う通りだ。実質使いたい放題なのだから思いついたら試せばいい。



「じゃあ、その服とかまとめて回復ヒール!」



僕が回復ヒールを使うと、本当に汚れが消えていった。これで商売できるんじゃないだろうか……?



「凄い! 服が新品みたい!」



リーネが大喜びで飛び跳ねると、アレサはもじもじとし始めた。



「な、なぁルウ。その、わ、私とリーネの肌荒れとか治せないかな…?」


「やってみよう!」



そうだ、2人とも女の子なんだし、綺麗な肌でいたいよね。こんなことに気がつかないなんて。


僕は早速2人の肌の状態を回復ヒールした。すると肌荒れやカサつきがものの見事に治っていく。それどころか、ツルツルスベスベで潤いのある肌に早変わりだ。



「ありがとうルウ! あは、お肌つるつるだー」


「おお、こんなにも綺麗に……。ありがとうルウ!」



リーネは眩しいくらいの笑顔で目を輝かせ、アレサも苦しんでいた肌荒れが治り涙する。僕も役に立てて嬉しい。



その後、僕とサルヴァンも身体を洗い、衣服を綺麗にした。そして老夫婦に礼を述べて初めての定食屋へと赴くのだった。

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