第56話:国王との交渉
ジョセフ代表の決断で、他の3つの行商隊が村に戻る事になった。
中には強硬に引き留めようとする領主もいたが、そんな領主は欲深いので、必ず行商人村に脅しの使者を送って来る。
「ケーン、悪いがちょっと脅かして来てくれ」
「何度も言いますが、僕は人を殺せません、傷つけるのも苦手です」
「分かっている、傷つけなくていい、脅すだけでいい」
「いいかげん僕が人を傷つけられないのがバレているのではありませんか?」
「バレていてもかまわない、傷つけられなくてもできる事はある」
「代表がそこまで言われるのなら、行ってきます」
僕は、行商村に戻って来ようとする、3つの行商隊を人質にした貴族の領都に行き、城門を封鎖して脅かした。
人を傷つけないようにしながら、領都に出入りできないようにするのだ。
街や村、特に都市の外側にある城壁は、猛獣や魔獣、他の人間から自分たちを守るための物なので、出来るだけ少人数で守れるように狭く造られる。
当然だが、城壁の中で農業などできないし、燃料に使う樹木もない。
毎日の生活に必要な物は、城壁の外にある畑で作られるか、周囲の森から集めてくるかだ。
大きな都市なら商人が隊列を組んで必要な物を運んでくる。
特に短い間隔で運ばなければいけないのが、新鮮な野菜や果物だ。
塩などの保存の利くものは別だが、直ぐに腐る物は毎日城壁の外から集める。
僕のロック鶏に城門を封鎖された場所ではそれができない。
僕が人を傷つけられないと気がついた者がいたのか、ロック鶏が邪魔する城門を強行突破しようとした者がいた。
だけど、羽ばたき1つで吹き飛ばされて終りだった。
剣で斬り付ける者も、槍で突く者も、矢を放つ者も、魔術を放つ者も同じ。
羽ばたき1つで城門の中に吹き戻される。
僕が城門の出入りを邪魔するのは、行商人たちを人質にした領主だけではない。
愚かな領主のいる国の首都、王のいる王都も同じ目にあわせている。
食糧を始めとした備蓄の多い王都だから、簡単に兵糧攻めできるはずがない。
ジョセフ行商隊代表は、兵糧攻めで王家を屈服させる気はないそうだ。
戦争をしている訳ではないので、勝った負けたでもないそうだ。
王家王国の面目さえ潰せればいいそうだ。
行商人は、多くの国で低く扱われていたそうだ。
土地も店も持たない行商人は、人に使われる使用人と同じように、いや、限りなく奴隷に近い低く身分として扱われていた。
教会主導の開拓村では公平に扱われ、行商人が来なければ生きて行けない辺境の村では、警戒されると同時に頼られてもいたが、都市では差別されていた。
神々のスキルが与えられる世界なのに、人間に差があるなんておかしい。
そう思ったが、現実には王侯貴族がいて、王侯貴族に仕えて戦う士族がいて、奴隷までいるのだ。
そんな身分の低い行商人が操るロック鶏に手も足も出ないで、ひたすら城に籠って隠れているというのは、王侯貴族には大きな恥になるそうだ。
少しでも早くロック鶏の包囲を解かないと、他国の王家はもちろん、国内の貴族にも舐められてしまうそうだ。
実力、戦闘力でロック鶏を追い返さない場合はどうすれば良いのか?
誰にも分からないように裏で行商人と交渉して、実力でロック鶏を追い払ったように見せかけるしかない。
王都の軍や騎士団は、30日間毎日ロック鶏の戦いを挑んだ。
だけど、全く歯が立たず、負け続けた。
31日目の夜に、密かに王からの使者がやって来た。
使者は一方的に話しかけるが、僕は王都ではなく愚かな貴族の領都にいる。
話を聞いたロック鶏が教えてくれるまで分からない。
それに、ロック鶏が教えてくれても、僕には交渉などできなので、ジョセフ代表にやってもらう。
ただ、将来のために交渉の場にはついて行く。
直接交渉はジョセフ代表がやるが、護衛の者や将来の勉強をする者がいて、僕とウィロウも加わっている。
普通の交渉だと、僕たちは身を低くして王城内の謁見室に入る。
だけど今回は僕たちの方が立場が上だ、国王の方を城門の前まで呼びつける。
何故そんな事をするかというと、ロック鶏の守りがない所には行けないと思わせるためだそうだ。
僕が一緒なら、石畳みの上でも蔦壁を造る事ができる。
王城内の謁見の間であろうと、誰にもウィロウを傷つけさせない。
でも、その力はできるだけ明かさない方が良いらしい。
身体強化も含めて、僕の能力は開拓村と行商人村の人たちに知られている。
今さら隠しても意味がないと思うのだが、そうではないと代表に言われた。
孤立した開拓村から情報が流れる事はないと言うし、結束の固い行商人たちから情報が流れる事もないと言う。
有るとすれば、以前村を追い出された人たちからか、教会に報告するフィンリー神官からだそうだが、人伝の情報は信じられない事が多いらしい。
特に僕のような常識外れのスキルは、よほど心の強い人間以外は、自分に都合の良いように捻じ曲げて考えるそうだ。
多くの人間が、自分たちでは絶対に勝てない人間がいるとは考えないそうだ。
目の前でやって見せない限り、どんな噂が流れても大丈夫だと言われた。
だから、最悪の場合は蔦壁で身を守らなければいけない王城内での交渉を拒否して、国王たちを城門前に呼びつけたのだ。
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