第50話:畏怖と交渉

 朝早くから開拓村の衆全員と、行商人も家族全員に集まってもらった。

 生れてそれほど経っていない赤ちゃんを抱いている開拓村の女性までいる。

 

「朝早くからよく集まってくれた、これからケーンの神与スキルの一部を見せる。

 新しく分かった事だが、木属性魔術に含まれる眷属を成長させるスキルだ。

 これまで見た事がある樹木を成長させるのと同じだから、おかしな事ではない」


 お父さんが大声で説明してくれるが、村の衆も行商人たちも凄く驚いている。

 やはり木属性魔術に眷属成長が含まれるのを誰も知らないのだ。

 風や雷を含む木属性が特別なのか、他の属性にも眷属成長が有るのか?


「その証拠に、今からケーンの眷属となった鶏を見てもらう」


 緊張感に包まれていたのが一気に緩んだ。

 鶏と聞いて『なぁ~んだ、たかが鶏か』という雰囲気になった。


「昨日の海の魚や塩は、その眷属鶏が運んでくれた物だ」


 お父さんがここで言葉を切って村の衆や行商人たちに目をやった。

 半分以上の人が、お父さんの言っている事が分からないようだ。

 でも、行商人たちは何が言いたいのか分かったのか、驚いている。


「これだけの海の魚と塩を運べる鶏が、普通の鶏な訳がないだろう。

 とてつもなく大きな鶏が、ケーンの眷属なのだ。

 父親の俺と母親のオリビアが、秘密にしているよりも話した方がケーンが安全に暮らせると思うくらい、大きくて強い鶏なんだ」


「……一体どれくらいの大きさなのだ?」


 行商隊のジョセフ代表が質問した。

 

「はっきり言う、伝説の怪鳥、ロック鳥と同じくらいの大きさだ」


「馬鹿言え、いくらなんでも大げさすぎるぞ」

「ロック鳥だと、世界中の冒険者が血眼になって探している怪鳥だぞ」

「世界中に名前が知られている冒険者パーティーが歯が立たずに殺されたと聞くぞ」

「鶏にしては大きくて強いかもしれないが、いくらなんでも大げさすぎる」


 お父さんの言う事を信用できない人たちがブツブツ言っている。

 でも、一緒に行商した人たちは真剣な表情になっている。

 

「証拠を見せよう、これからケーンの眷属、ロック鶏を呼ぶ。

 実は、1羽ではなく10羽いるんだが、10羽も呼ぶのは恐ろし過ぎる。

 子供や年寄りの心臓が止まるとシャレにならないから、1羽だけ呼ぶ。

 いいか、本当にでかくて大きいぞ、里山くらい大きいと思っておけ」


 お父さんも大げさすぎる、いくらなんでも里山ほど大きくはない。

 でも、それくらい言っておかないと、誰かの心臓が止まるのだけは絶対に嫌だ!


「ケーン、呼んでくれ」


 僕はお父さんの指示取り指笛でロック鶏を呼んだ。

 魔力を乗せた指笛の音はかなり遠くまで届く。

 西奥山で待ってくれているロック鶏には確実に届く。


「コケコッコー」


 開拓村の衆や行商人たちを驚かさないように、ゆっくりと優雅に来てくれた。

 あまり強く羽ばたくと、体重の軽い女子供は吹き飛ばされてしまう。

 ロック鶏の羽ばたきはそれくらい強力なのだ。


「「「「「キャアアアアア!」」」」」


 あれほどお父さんが言っていたのに、全然分かっていなかったようだ。

 女たちが大声で叫んでいる、これは何とかしないといけない。


「大丈夫だから、僕の眷属だから、何もしないから!」


 僕はそう言うと身体強化をしない全力でロック鶏の所に走って行った。

 そしてロック鶏が僕に甘える所を見せた。

 僕の全身よりも大きな頭をすり寄せてくるのを、身体強化をして受け止める。


「コケコッコー」


 可愛く甘えるロック鶏を受け入れて欲しかったけど、駄目なようだ。

 背中に感じる雰囲気が凍り付いたままだ。


「これで分かっただろう、これだけ巨大な眷属がいるから、海の魚も塩も軽々と運んで来られるし、ケーンが誰にも害されないと信じられたのだ。

 それも、同じ大きさのロック鶏が10羽もいる。

 信じられないと言うのなら、残りの9羽も呼ぶが、どうする?!」


「もういい、分かった、もう十分だ、呼ばなくていい。

 それで、ケーンの強さを見せつけてどうする気だ、何がしたいんだ?」


 行商隊のジョセフ代表がお父さんに聞いています。


「あんたも長年行商隊を率いていたんだ、この力がどれほどの物か分かるだろう?」


「そうだな、大国の騎士団や軍が押し寄せてきても軽く撃退できる。

 ケーンの神与スキルがどれほど魅力的でも、誰も手出しできない。

 優し過ぎて誰も傷つけられないケーンだが、こんな守りがあるなら大丈夫だ」


「そうだ、だからこうしてケーンが怖がられるのを覚悟して明かしたのだ」


「それでいい、父親ならそれくらいやってでも愛する子供を守るべきだ。

 だが、儂にもケーンを預かった責任と権利がある。

 そう簡単にケーンを手放す気はない!」


 お父さんとジョセフ代表が駆け引きを始めた。

 ジョセフ代表は、行商隊を辞めたいのなら利益を寄こせと言っているのだ。

 

「分かっている、何もタダで行商隊を辞めさせてくれと言っている訳じゃない。

 昨日決めた生の海魚と干した海魚の値段、あれで欲しいだけ売ってやる。

 怖くないのなら、行商人を海まで運んでやっても良い」


「やはりそうか、商品だけじゃなく、人間も海まで運べるのだな!」

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