第45話:初飛行

 行商隊は5日経っても村から出発しなかった。

 親孝行はできているし、家族で幸せな時間も過ごせている。

 毎日昼も夜も思いっきり駆け回れている。


 でも、世界中を旅したいと言う夢には程遠い。

 お父さんとお母さんを心配させないように、弱い自分のままでもやれる範囲で、行商隊に加わって旅をしていたのに、それすらできないでいる。


 行商隊以外で、お父さんとお母さんを心配させる事なく、弱い僕でも旅をする方法がないかと考えて、ようやく思いついた。

 ロック鶏に連れて行ってもらえばいいのだと!


 お父さんとお母さん、妹たちを逃げす方法として伝えるかどうか迷ったロック鶏。

 その足に蔦壁の籠をつけたら、空を飛んでどこまでも行ける!

 この世界が地球のように丸いのかも確かめられる。


 そうだ、海だ、海を見たい!

 行商隊との旅で、山や畑はたくさん見た。

 それほど大きくはないけれど、川と池は見た。


 だけど、海はまだ見た事がない、スマホで動画を見ただけだ。

 どれほど遠くても、ロック鶏に運んでもらったら行けるはずだ!


 昼間に思いついたけれど、ロック鶏を昼に呼び出したら大騒動になる。

 呼び出したい気持ちを我慢して、夜まで待った。

 夜ロック鶏に餌をあげた後でお願いしてみた。


「ピーちゃん、お願い、僕を海に連れて行って」


「「「「「コケコッコー」」」」」


 僕は1羽のロック鶏の足に蔦壁の籠をつけた。

 落ちるのは嫌なので、しっかりと足にも自分にも巻きつけた。

 寒くないように蔦を何重にもして葉もたくさん繁らせた。


「父さんとお母さんを心配させたくないから、時間がかかるようなら引き返して」


 思い付きで海を見に行こうとしたけれど、準備ができたら心配になってきた。

 僕が急にいなくなったら、お父さんとお母さんは必ず心配する。

 海を見に行ける方法を思いついたのだから、急ぐ事はないのだ。


 急ぐ事はないのだが、やっぱり今日試したい。

 心配はかけたくないけれど、行きたい気持ちはどうしようもない。

 ちょっとだけ、心配されない時間だけ連れて行ってもらう事にした。


 ロック鶏が力強く羽ばたいたら、フワッとした感じになった。

 最初は真っ暗でどこにいるのか分からなかったけれど、籠の隙間から光が見える。

 上も横も星で一杯だけど、下だと思う方だけが真っ黒だ。


 風がビュービューを鳴っているけれど、思っていたほど寒くない。

 籠を厚く造ったのが良かったのかもしれない。

 それとも、冬用の服を重ね着してきたのが良かったのかな?


 1時間くらい飛んでいたけれど、ロック鶏は地上に下りようとしない。

 僕の言うことが分かっているはずだから、夜の間に海に行けるはず。

 それとも、行けるだけ行って引き返すのかな?


 2時間くらいは大丈夫だったけれど、3時間経つと心配になってきた。

 このまま飛び続けたら朝までに戻れなくなる。

 それとも、もう引き返しているのかな?


 僕の心配が伝わったのか、急にロック鶏が速くなった。

 蔦壁に押し付けられるような感じになった。

 その直ぐ後で上下左右に振り回されるような感じになった。


「「「「「コケコッコー」」」」」


 海です、ロック鶏が海に連れて来てくれた!

 何故だか分からないけれど、海についたのだと分かった!

 でも、真っ暗で何も分からない……


 ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん。


 何か音が聞こえる。

 昼なら、スマホで見たような海を見る事ができたのに、音が聞こえるだけだ。

 月の有る日なら良かったのに、今日は朝からずっと曇っていたから……


 ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん、ざっぱ~ん。


 変な臭いがする、これまで1度も嗅いだことのない変な臭いだ。

 便所の臭いでもなければ、牛や馬の臭いでもない。

 魔獣が発する独特の臭いでもない、何とも言えない臭いだ。


 本当はこのまま陽が昇るまでここにいて海が見たい。

 だけど、そんな事をしたら、明日の夜までも戻れなくなる。

 昼間にロック鶏と一緒に村には戻れないからです。


 もう少しここにいたら、雲の間から月が顔を出すかもしれない。

 そんな事を考えて1時間くらい波の音を聞いていた。

 でも、月は1度も顔を出してくれませんでした。


 「「「「「コケコッコー」」」」」


「わかったよ、今日は諦めるよ。

 でも、明日時間を作るから、どんな事をしても時間を作るから。

 昼間にもう1度ここに連れて来て、お願い」


 「「「「「コケコッコー」」」」」


 僕の勝手なお願いを、ロック鶏は快く引き受けてくれた。

 後は僕がお父さんとお母さんにお願いして時間を作るだけだ。

 できるだけ一緒にいて親孝行すると約束していたのに……


 僕は、わがままですね、自分のしたいことばかりしている。

 親孝行すると誓ったばかりなのに、もう約束を破る事を考えている。

 やりたい事と約束を守る事、両方できる方法はないのかな?


 そんな事を考えているうちに眠ってしまっていた。

 毎夜走ってロック鶏に餌をあげているから、それより少し遅くなっても平気だと思っていたけれど、思っている以上に疲れていたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る