第39話:恩着せ
僕が入れてもらった行商隊は、この世界でも大きなモノらしい。
しかも先祖代々行商隊をやっていて、ほとんどが同じ一族だそうだ。
違うのは嫁に来た女の人か婿に来た男の人だけだそうだ。
信用できる村や街に家族の住む家を買い、足腰が弱くなって行商できなくなった年寄りや、妊婦や子供が安心して暮らせるようにする。
以前は一族だけの村を作った事もあるそうだが、戦える年代の男や女が行商でいないのに、他の村よりはるかに豊かだから、盗賊の襲われてしまったらしい。
同時に1番近くにあった村の住民が急にいなくなったから、彼らが盗賊になったのかもしれないと、代表が哀しそうに言っていた。
今回の行商では、そういう信用できる村や街に点在している家族を集めるそうだ。
どうしても同行できない病人や妊婦以外は、俺が造った村に移住するのだ。
心から信用してもらえたのはうれしいが、とても怖くもある。
僕の造った蔦壁家の護りが弱いと、行商人たちの家族が死ぬ事になる。
「うっげえええええ」
単に血や死を想ったから吐いたのではなく、責任が重くて吐いてしまった。
前世の病院でお世話になった先生や看護師さんは、あんな命を預かる仕事をして平気だったのだろうか?
村に戻ったらもう1つ蔦壁を造ろう。
不安になったり心配したりするたびに吐くのは嫌だ
「私も行きたいけれど、子供たちを歩かせられないわ。
特に1番下の子はまだ3歳よ、とてもじゃなけどついて行けないわ」
ある行商人の奥さんが哀しそうに言う。
旦那さんの行商人も仕方なさそうにしている。
家族が望んでもいないのに離れ離れになるなんて、絶対に駄目だ。
「どうにかできないの?」
僕はウィロウに聞いてみた。
「あの人、最近商売が上手く行っていないのよ。
隊商全体は儲かっているんだけど、あの人の目利きで選んだ宝石が偽物で、とんでもない損をしてしまったの」
行商人は経験と能力によって役割と権限があるそうだ。
食事が与えられるだけの者から、自分で商売していい者までいる。
ウィロウや僕のように特別な神与スキルが有る者は、最初から特別待遇だそうだ。
哀しい会話をしている行商人は、1番大きな権限と責任があるらしい。
でも、悪い商人に騙されて、品物の代金に偽物の宝石を受け取ってしまい、これまでの利益を失ったそうだ。
本当なら馬や牛を買って家族を連れて行けるくらいの利益があったらしい。
このまま見過ごしたら、お父さんが良く言っている『男が廃る』
「じゃあ僕が馬と牛を買うよ。
僕の買った馬や牛にあの人の奥さんと子供を乗せるのなら文句ないだろう?」
つい大きな声になってしまったから、奥さんや子供たちはもちろん、哀しい別れをしようとしていた行商人も驚いた顔をしている。
「私たちだけで勝手な事は決められないわよ、族長に相談しないと」
「僕が買った物を僕の勝手にしちゃいけないの?」
「ケーンが買った牛や馬を暴れさせずに歩かせるのなら良いわよ。
でも、猛獣や魔獣が襲ってきた時に暴れさせたりしたら、行商人の人が巻き込まれて死んでしまう事もあるのよ!」
「うっげえええええ」
「もう、かっこいい事を言ったと思ったら直ぐに吐くなんて!」
「え、何か言った?」
「何でもないわよ、外にいる族長に許可をもらいに行くわよ」
今回僕たちが立ち寄った街は、2000人くらい住んでいる大きな町だったが、それでも6人6頭しか1度に街に入れてもらえなかった。
ただ、そういう慎重な街だからこそ、大切な家族を暮らす場所に選んだのだと、一緒に街に入った行商人の1人が言っていた。
ウィロウと僕以外の4人は、この街に家族を置いて行商しているのだ。
「仕方がない奴だな、そんな事をしてお前に何の得があるんだ?」
ウィロウが僕の言った事をジョセフ代表に話してくれた。
僕は自分で話す心算だったのだが、いつの間にかウィロウにやってもらっていた。
行商隊に入ってから徐々にウィロウを頼るようになっているが、ここは自分で答えないといけない、男らしい所を見せないと!
「僕はまだ行商隊に入れてもらったばかりで、あまり役に立っていません。
でも、代表が僕の作った物を買ってくれるのでお金があります。
お金は貯めるのではなく上手く使えと代表が教えてくれました。
今回は行商仲間の信用を得るのにお金を使った方が良いと思いました」
「ふむ、悪くはないが、理由が少な過ぎる。
それだけだと不合格だ、牛馬を買う事も行商隊に加える事も許せない」
「他の理由もあります、自分の村に牛や馬を連れて戻るためです。
牛や馬がいれば、畑仕事が楽になります、麦の収穫量も増えます」
「ぎりぎり合格点をやる、だが、ケーンだけでは買った牛や馬を扱えない。
他の行商人に話をして預かってもらう確約をもらってこい。
預かってくれる行商人の数だけ買っていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
「次からは預かってくれる奴を見つけてから話に来い」
「はい!」
僕は、ウィロウと一緒に馬や牛を預かってくれる行商人を探した。
残念だが、思ったよりも数が少なかった。
誰もが自分の家族を乗せる馬や牛を扱う心算だったからだ。
ジョセフ代表は、これが分かっていたからなかなか許可をくれなかったんだ!
「そうだ、私たちの牛は黙っていても隊商と一緒に歩いてくれるから、あの子たちに奥さんと子供乗せればいいのよ!」
「そうか、僕たちが新しく買った馬や牛に荷物を載せるんだね!」
ウィロウが良い考えを思いついてくれたから、僕たちは離れ離れになる家族を救う事ができた。
偽物の宝石をつかまされたという行商人も自分の牛に家族を乗せたので、子沢山の一家の誰も歩かずにすんだ。
ただ、僕が買った8頭のロバはとても食い意地が張っていて、美味しい果物を食べさせてあげないと言う事を聞いてくれない。
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