第10話:大行商隊

「お父さん、凄い数の牛だよ」


「そうだな、行商隊の本隊が来てくれたようだ」


 最初2頭の牛だけで行商に来ていたのに、こちらが新しい商品を出すと50頭もの牛を率いた大行商隊がやってきた。


 来るまで10日も間があったので、その間にも多くの薬草を作り商品を増やしたから、最初考えていたよりも多くのお金になるとお母さんが言っていた。


 ただ、お金でもらうのではなく、無くなるのが心配な塩と、自給自足のできない鉄の道具を買い置きしたいと言っていた。


 特に魔獣と戦う時に必要な武器と、農作業を楽にする鉄製の農機具を沢山買っておきたいとも言っていた。


「今回もケーンと一緒に参加してくれ。

 ケーンにはこの村を背負って立つ人間になってもらいたい」


 フィンリー神官にそう言われたので、お父さんはまた僕を交渉の場に連れて行ってくれましたが、よく分かりません。


 前世での経験なんて、スマホを観ていただけです。

 病院の先生と看護師さん、家族以外に話した事なんかありません。

 行商人さんとのやり取りは、1から勉強するしかありません。


 目の前で行われている、フィンリー神官と行商人隊代表との交渉を見て勉強する事が、僕に与えられた仕事です。


 1人前になるためには頑張らないといけません。

 最低でもフィンリー神官と同じくらい交渉できるようにならないと、村を背負って立つ人間にはなれません。


「まずは薬草を見せていただきたい。

 出来が良いと聞いたドライフルーツにも興味はあるが、商品としては薬草の方が上だから、その品質によって買えるドライフルーツの量が変わってくる。

 薬草の種類と品質によったら、相場よりも高値で買わせてもらう」


「高値で買ってもらえれば、何時もより多くの塩と鉄器を買えるので助かる」


「それは、売った分をお金ではなく商品に替えると言う事かな?」


「こんな辺境では金を幾ら持っていても何の役にも立たない。

 良い鉄器があれば全部買い取りたいと思っている」


「そういう事ならこちらもできるだけ頑張って高く買わせてらおう。

 さっそくだが、薬草を見せてもらおうか」


「薬草を持って来てくれ」


 フィンリー神官がそう言うと、隣の部屋で待っていた女の人たちが、種類別に薬草のサンプルを運んできました。


 村で使う薬草を別にしても、結構な量の薬草があるのです。

 全てを交渉の場に運ぶことができないくらいの量です。

 お母さんの話では、同じ重さの金や銀と交換できるくらい貴重な薬草だそうです。


「ほう、これはこれは、先に来させてもらった者たちから話は聞いていたが、これほど上質な薬草だとは思っていなかった。

 率直に聞かせてもらうが、この薬草は1度きりの取引になるのか?

 それとも、村の周りにある薬草園で毎年収穫できるのか?」


「流石良い目をしている、もう見つけてしまったのか」


「猛獣や魔獣に喰われないようにするためだろうが、村の周りで作っておいて、目が良いも何もないぞ」


「それもそうだな、では正直に言おう、これから毎年同じ量の薬草が作れる。

 それを前提に値段をつけてくれ。

 あまり低いようだと、こちらから都市に売りに行かなければならなくなる。

 或いは、教会を通じて売る事もありえる」


「そうだな、これだけの品質の薬草を、毎年大量に用意できるのなら、薬種商会や教会はもちろん、冒険者組合も直接取引したがるだろう。

 分かった、それを前提に値段をつけさせてもらおう」


「そう言ってくれると助かるよ。

 この開拓村を作った時から、こんな辺境まで行商に来てくれていた、貴方たちに不義理はしたくないのだ。

 互いに納得できる値段で売買できればそれが1番だ」


「そうだな、こちらとしても商売相手を失うのは嫌だし、利益もないのにこんな辺境まで来るのも嫌だ。

 ドライフルーツと酒も合わせて、売買両方で利益が出るように組み合わせる」


「ああ、売買の両方で必要な利益は確保してくれ。

 だが、あまりに暴利を貪るのは許さない」


「分かっているよ、ドライフルーツの試食と酒の試飲をさせてもらう。

 運んできた商品は、全部教会の礼拝室に広げさせてもらっている。

 必要な順に選んでくれたら、薬草の代金でどこまで買えるか教えられる」


「そうか、妻が必要な物の優先順位をまとめている。

 向こうに行けば分かるようになっているのだな?」


「ああ、村人個人の買い物もあるだろうから、先に必要な物を確保しておいた方が良いのではないか?」


「今回は共有財産の薬草が良い値で売れると分かっているから、村の者は買い物をしないのだ。

 個人で買い物をしなくても、村で買った塩や鉄器を分け与える事になっている」


「やれやれ、それでは商売にならないじゃないか」


「元々ここは商売にならない村だったろ、今更困る事もないだろう」


「その商売にならない辺境の村に手を貸して、商売になるようにするのが私たちの仕事なのだよ。

 商売になるようにしたら、長く利益が出るようにするのも大切なのだ。

 ようやく商売になるようになったのだ、少しは儲けさせてくれ」


「今回は薬草とドライフルーツの買いと、塩と鉄器の売りから出してくれ。

 村人からは次回以降の商売で利益を出すようにしてくれ」


「分かったよ、今回は共有財産からだけ利益を出させてもらう。

 見させてもらった薬草の単価だが、これでどうだ?」


「クコとゲンノショウコはこの値段では売れない、最低でも2倍にしてくれ」


 フィンリー神官と行商隊代表の交渉は凄く激しかったです。

 僕に同じ事ができるとはとても思えませんでした。

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