第4話:禁止

「駄目です、神与のスキルを授かっても、魔境は危険なのです。

 私たちが一緒でも危険なのに、1人でなんて絶対に行かせません!」


 どれほど頼んでも、魔境に行かせてもらえませんでした。

 いえ、魔境どころか、家が管理している里山にも行かせてもらえません。


 無理矢理行こうかと思いましたが、厳しく止めるのも、僕を愛してくれているからだと分かっているので、行くに行けなくなりました。


「ジョイ神から神与のスキルを試しなさいと言われたのです。

 試さないと神様のお言葉に逆らう事になります」


「神様は本当に魔境に行って確かめなさいと言ったのですか?」


「え~と、確か、森に行って確かめなさいと言われました……」


「そうしょう、そうでしょう、神様が魔境に行きなさいなんて、危険な事を言われるわけがないのです。

 里山ならそれほど危なくはないので、神様は里山で魔術を確かめるように言われたのです」


「……里山なら1人で行っても良いの?」


「お父さんの手が空いたら、お父さんとお母さんがついて行ってあげます。

 里山だからと油断していたら、何時魔獣が現れるか分からないのです。

 絶対に1人で行ってはいけません。

 神様が1人で行きなさいと言われたのですか?!」


「……森に行って確かめなさいと言われただけです」


「それは、私たちが付き添う事を前提に言っておられるのです。

 絶対に1人で行ってはいけませんよ、分かりましたね」


「はい、分かりました」


 お父さんは春まきの畑を耕しておられるので、なかなか戻られません。

 授かった木属性魔術を使えない、イライラして大声を出してしまいそうです。

 森で魔術を放って大暴れしたかったのに!


 森、里山に行けないのなら、ここで使える魔術を試せばいい。

 何もしないよりもずっと良い!


 僕に木属性の魔術を授けてくださったジョイ神は、穀物、鳥、花、木などの生長と成長を司っておられるそうです。


 攻撃や守りの魔術も授かりましたが、ジョイ神が得意なのは産み育てる事なので、畑の作物を生長させる魔術から試してみても良いですね。


「お母さん、ジョイ神から授かったスキルには、木や草花を生長させる魔術があるので、柿の木で試してもいい?」


 家の周りには四季それぞれに実の成る樹木、果樹が植えてあります。

 畑の外側、里山にも果樹はありますが、多くは人が食べる前に鳥や獣に食べられてしまいます。


 大切な食糧である果物を鳥や獣に食べられるわけにはいきません。

 里山や内山に生えている果樹で移植できるものを、家の直ぐ外側に植え替えて、鳥や獣に食べられないようにしたのです。


 柿、柘榴、山栗、山葡萄、李、林檎、金柑、木通などが植えられています。

 その中で1番甘くて、お母さんが好きなのが、柿なのです。

 どうせ試すのなら、お母さんが1番好きな果物で試したいのです。


「ええ、良いわよ、でも無理をしては駄目よ。

 それと、柿の木はとても大切な財産なの。

 間違っても枯れさせては駄目よ、分かった?」


「うん、分かっているよ、気をつけてやるよ。

 メイク・ザ・パーシモン・ツリー・ベア・フルーツ」

 

「え、なに、なんで、こんなの初めて!」


 お母さんが驚くのも無理はありません。

 こんな急速に実が生る魔術を見るのは、僕も生まれて初めてです。


 8年という短い期間ですが、僕もこの世界で生きてきました。

 村人が神与のスキルを使うのも見てきました。


 開拓村ですから、草木の生長に関係する木属性魔術を、神与のスキルとして授かっている村人も多いのです。


 そんな村人が草木を生長させる神与のスキルを使っても、僅かな範囲で1日分早く生長させるのが精一杯なのです。


 とてもではありませんが、大きな柿の木を一瞬で実らせる事などできません。

 それだけのことができる魔力量など誰も持っていません。

 幼い頃から8年間、毎日魔力を増やし続けている僕だからできるのです。


「お母さん、柿の実を取って良い?」


「え、ええ、ええ良いわよ、でも大丈夫?」


「任せてよ、僕の身体は丈夫だからね」


「そうね、ケーンは生まれてから1度も風邪1つひいた事がないものね」


 僕はお母さんと話ながら、猿のように素早く柿の木に登りました。

 枝が折れそうなほどたわわに実った柿の木を集めました。

 両手一杯に柿の実を取って地上に飛び降りました。


「あぶない、そんな高さから飛び降りちゃ駄目!」


「大丈夫だよ、僕は丈夫なんだから」


「駄目よ、丈夫だからと油断した時にケガをするの。

 私が下で受け止めるから、取った柿は投げなさい」


 お母さんと一緒に何かするのは大好きだけど、固い柿を投げるのは嫌だ。

 万が一お母さんが受け取り損ねてケガでもしたら、僕の心が耐えられない。


「お母さんに物を投げつけるなんて絶対に嫌だ。

 それより、この柿で膾を作ってよ。

 エヴィーたちも甘い柿で作った膾が大好きでしょう?」


「仕方のない子ね、分かったわ、柿と大根の膾を作ってあげる。

 でも、私が見ていないからと言って飛び降りちゃ駄目よ。

 時間がかかってもいいし、柿が痛んでもかまわないから、下に投げ落としなさい」

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