運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全

第1章

第1話:プロローグ

 痛い、痛い、胸が痛い、心臓が痛い!

 苦しい、苦しい、胸が苦しい、息が、息が苦しい!

 怖い、怖い、眠るのが怖い、眠ったまま目が覚めないのが怖い!

 死にたくない、死にたくない、病院から出た事もなく死ぬのは嫌だ!


 このまま死ぬのは嫌だ、絶対に嫌だ!

 生まれてから1度も病院から出た事がない!

 病院どころか、病室から出たのも車椅子に乗って数度だけ!

 走りたい、動画で見た事しかない草原を自分の足で駆けまわりたい!


 ずっとベッドで寝て過ごしているだけ。

 僕に許されているのは、スマホで遊ぶ事だけ。

 極まれに調子の良い時に、車椅子で病院内にある屋上庭園に出るだけ。

 本当は自分の足で歩いて植物園に行きたい、動物園に行って象さんを見たい!


 何時も心臓が痛くて辛い。

 どれだけ息をしても胸の苦しさがなくならない。

 手足に血が届かないので、何時壊死してしまうのと思うくらい痛くなる。

 看護師さんが気をつけてくれいるけれど、浮腫んだ身体にできる床ずれが痛い!


「健人、死んじゃダメ」

「健人、頑張れ、お父さんが必ずドナーを見つけてやる」

「健人ちゃん、負けないで」

「死ぬな、死ぬんじゃない」

「健人君、死なないで、お願い」

「健人、もう少しだ、もう少し大きくなったら爺ちゃんの心臓をやる」


 お母さん、お父さん、布施のお婆ちゃんとお爺ちゃん、長瀬のお婆ちゃんとお爺ちゃん、ありがとう。


 こんな心配と迷惑しかかけない子を愛してくれて。

 長瀬のお爺ちゃん、心臓をくれると言ってくれてありがとう。

 

 もう、いい、もうこれ以上痛くて苦しいのは嫌だ。

 死ぬのは怖いけれど、これ以上に痛くて苦しいのは嫌なんだ。


 でも、1度くらいは思いっきり走りたかったな。

 ううん、そんな贅沢は言わない、車椅子で良いから病院の外に出たかったな。

 うっ、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い!


「先生!」


「心臓マッサージだ!」


「はい、先生!」


 ★★★★★★


「次の発作が起きたらかなり危険です、覚悟しておいてください」


「先生、儂が死んだら健人に心臓を移植してくれますか?!」


「お爺さん、体の大きさが合わないのです。

 それに、健人君は病歴が長く、肺高血圧になっています。

 お爺さんの心臓を移植しても、心不全になる確率がとても高いのです。

 この状態でお爺さんが自殺されても、心臓はもっと助かる確率の高い人に移植されます」


「なんだと、儂の心臓だ、儂の命だ、儂が渡す相手を決めて当然だろう!」


「お爺さん、そんな事を認めてしまったら、病気の子供を持つご両親や祖父母の方に、子供のために死ねという、目に見えない圧力がかかってしまうのです。

 お気持ちは痛いほどわかりますが、認める訳にはいきません」


「くそ、クソ、糞!

 健人にために死んでやることもできないのか?!

 保険金が確実にもらえるのなら、もっと早く死んでやったのに!」


「お爺さん、冷静になられてください。

 健人君はとても心優しいお子さんなのですよ。

 そんな事をしてもらったら、命の重みに耐えられなくなります」


「分かっている、そんな事は先生に言われなくても分かっている。

 だから今日まで生き長らえて来たんだ。

 くそ、くそ、くそ、神も仏も無いのか!」


「本当ですよ、家も布施さんところも、氏神様や菩提寺はもちろん、霊験あらたかと評判の寺社仏閣は全部廻って来たのに、全く効果なかったわ!」


★★★★★★


 そんな事を言われても、氏神にもやれる事とやれないことができるのです。

 神代の時代なら融通が利きましたが、今は神々の協定があるのです。

 我が子同然の可愛い氏子とはいえ、運命を変える訳にはいかないのです。


 ですが、死んだ後なら多少は融通が利きます。

 まだ神々間の協定が結ばれていない星になら、転生させてあげられます。


 今生の苦しい記憶と残すのは可愛そうな気もしますが、健康の尊さを覚えていた方が、次の人生を大切にしてくれるでしょう。


 今生の記憶がなくて、万が一にも悪党になってしまったら、次の転生まで地獄で苦しむ事になります。


 可愛い氏子がそんな運命になるのは嫌なので、健康と命を大切にする記憶は残しておきましょう。


 あとは、少しは依怙贔屓しても許されますよね。

 妾ていどの氏神が与える力なら、星に与える影響など微々たるものです。


 次の星に住む人たちよりも少し健康な身体を与えてあげましょう。

 妾は元々健康と寿命を司る神なのですから。

 ……ちょっとくらいチートな能力を与えても良いですよね?


 あの星は普通に神与のスキルや魔術がある世界です。

 他の神々も自分が気に入った人間にスキルを与えているのです。

 妾が、我が子同然の氏子にありふれたスキルを与えても許されるはずです。


 ★★★★★★


「うっ、ううううう、うわぁああああ」

「健人、今日までよく頑張った、良く生きてくれた」

「健人ちゃん、次は健康な身体に生まれてくるのよ」

「何もしてやれなくてすまん」

「健人君、婆ちゃんも直ぐに行くからね」

「健人、次は爺ちゃんの身体と取り換えてやる。

 神や仏が邪魔するようなら、神も仏をぶち殺してやる!」


「布施健人様の御出棺でございます。

 皆様、最後のお別れをなされてください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る