1-7 桃色 クロノスタシス
スチャッ
少女は腰のフリルの下から銃を取り出し構える。白い外装に金の装飾、通常の銃ではない少し大きい単発装填の装飾銃だった。
「今日は贅沢フル装備だけど、そうね、3発でいいでしょ」
それを見て男は笑う。
「何だァ、ソイツは! オモチャでも持って来たのか!?」
言われる少女の目は暗く、鋭い。
「行くよ、パレットバレット」
ゾクッ 男は背筋をツーっと冷たい物がなぞるのを感じた。
「もう1度ぶっ飛ばしてやるよ!今度は手加減なしだ!次は人の形も残らないようにしてやるよ!!」
悪寒を振り切るように叫び男は一瞬で少女への距離を詰める。
右腕の鎧殻、“ヘカトンケイル” この武装の肩部に搭載されているブースターによって巨体にあるまじき高速移動を実現していた。
「オウラァ!!」
右腕を振りかぶったその刹那、少女の姿は消えた。
そして自分の左、その耳元で声が聞こえた。
「さっきのお返し、いくわよ」
目を声の方へ向けると自分の脳天に向いている銃口と鋭く光る赤い眼光があった。
「白の
ズガアァァァン
銃の大きさからは考えられない程の轟音が鳴り響き
2mを超える巨体は吹き飛ばされた。
「ガァッ!」
20m以上吹き飛びなんとか体制を整える。
(今、確実に右腕でガードしたはず・・・あんなオモチャで、ガードごと吹っ飛ばされた!?)
「このガキ・・!」
吹き飛ばされた先に少女はまだ立っている。男は片膝をつき右腕の指先を少女に向けた。
「ヘヘッ、ガキ1人に大人気ないかもなぁ!」
鉄の右腕の5本の指から火花が散った。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
指1本1本がマシンガンと化した、その先にいる少女は持っていた銃をナイフに持ち替え、そしてそのまま男へ向かって走り出す。
ガガガガキンッガガガガガガキンッキンッガガガ
銃声に混ざり金属のぶつかり合う音が響く。
「おいおい、マジか・・・」
男は冷や汗を流しながら呟いた。
銃弾の雨の中、前進しながら少女は自分に当たる弾だけをナイフで弾き飛ばしていた。
「バケモンが、出し惜しみしてる場合じゃねえなァ!」
男が叫ぶと銃弾の雨が止まった。そして次は掌を少女に向ける、その中心には人の頭程の穴が空いている。
「こいつはどうかなァ!ぶっ飛んじまいな!!」
ズドォォン
掌から先程より遥かに大きい火花が散る、少女の顔程ある炸裂弾が放たれた。
巨大な炸裂弾が自分に向かって来ているというのに少女は落ち着いていた。彼女には放たれるタイミングも弾道も全てスローに見えている。彼女はキャンディを舐めている間、身体能力が向上するが“フレーバー”付きの物は更に彼女に別の能力を発現させる。現在あるのは3種類、それぞれ特化した異なる力を発現させる。
今の彼女は“フレーバー クロノスタシス”によって感覚が極限まで強化され、世界の全てがスローに見え、その世界の速度に対応出来る。
そして走り続ける少女はなんてことはなく、浮いている風船を避けるような最小の動きで巨大な砲弾を躱した。
避けられた炸裂弾が倉庫の壁で爆発する。そしてその爆炎を背にして、少女は男の前にたどり着いた。
「クソッタレ・・・弾丸が見えてんのかコイツは・・・ 」
「ノロマなのよ、私以外が」
ナイフを腰に仕舞い込み少女再び銃を手にする。男は発射の体制から立ち上がり右腕を前に構えた。
静寂、2人は次の攻撃で戦いが終わるであろう事を感じていた。
「終わりにしましょうか」
先に動いたのは男、豪腕のグレゴリオ。右腕をブースタを使い加速させ少女を掴みにかかる、狙うのは左腕。あの時の一撃の傷、包帯を肩から指先まで巻いている、そしてこの戦闘中1度も動かしていないその左腕。
「動きが見えても動かなかったら意味無えよなァ!!」
少女は身を捻りながらバックステップでかわそうとするがその時、男の手首から先が伸びた。太いワイヤーで腕と繋がったまま右の掌自体が発射された。
「捕まえちまえばコッチのもんだぜえ!」
しかし掴もうとした掌はガンッと言う音に弾かれた。
少女は包帯の巻かれた左腕で鉄の掌を殴り飛ばした。
「残念、ついさっき完治した」
「はっ?」
捻った体を舞うように正面に向け銃を構える。
「狙えるタイミングで“そこ”開くの待ってたのよね」
「蒼の
ズドン!放たれた弾丸はワイヤーの繋がっている鉄の腕の中へ命中する。そして男の全身に凄まじい電撃が流れる。
「ガァァアアアァア!」
「中からならいくら鎧殻でも壊れちゃうでしょ」
「ガッ ガァッ、コノクソガキガァ!!」
黒焦げになりながら悪あがきの様に男は少女に飛び掛かった。
「うん、3発ぴったりだね、ラスト! “赤の爆撃”《エクスブレッド》」
笑顔で少女は自分より遥かにデカイ大男の脳天に銃を向け、引き金を引いた。
バァン!という爆発音と同時に男の頭は爆炎と共に弾けとんだ。
飛び散った血と肉片が彼女の白い髪を紅く染める。
「痛ーい! 治ったとはいえ鉄塊にパンチは流石に痛いわ」
左の拳を擦って、取れかかっていた包帯を外す。
「さて、後はモヤシ狩りね」
首から上が無くなり首元が燃えている死体を跨ぎ
血の水溜りを渡って、血濡れの少女は次のターゲットへ向かった。
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