白猫賢者は黒騎士様のひざの上
@ayaka_bloom
第1話 白の賢者 レナ
とある世界のとある大陸、その真ん中に存在する王国が私の故郷です。
大陸最大国家でもある“アルシア王国”では、“最高峰”と分類される称号を持った人物がいます。
かつて魔族と戦い、魔王を倒した者“勇者”。
全ての聖女を率い、聖なる力の頂点に君臨する者“大聖女”。
騎士の中でも一際強く、単騎で王国騎士すべてに匹敵する実力者“剣聖
その他にも色々ありますが、かくいう私もその1人。
全ての魔法使いの頂点。あらゆる知識を網羅し、こと魔術において世界で最強とも言われる称号“賢者”。
それを持つのが私。若干16歳にして、次代の“賢者”を担う少女。
『白の賢者 レナ』とは私のことです。
半年前、先代の後を継いで『賢者』に抜擢された少女、それが私“レナ·ヴァールデウス”。
家名を持ってはいますが、私は貴族ではありません。どちらかというと、平民の出なのです。
透き通る白銀の長い髪にカラナートルマリンのような金色の瞳。よくお人形のようだと言われる容姿をしています。
年齢は16歳、身長は少し低くて155cmです。
幼少期を孤児院で過ごし、魔力量とその知識への貪欲さから見初められた私は先代賢者様に引き取られました。
先代の賢者様が行方不明となる前に見つかった手紙で、私は彼女の実家でもあるヴァールデウス公爵家に養子として迎え入れられた....というのが経緯です。
何故こんなことを説明するのか?その答えはすぐに分かります。
***
王宮の中を歩く。綺麗に掃除の行き届いた王宮はとても過ごしやすく、そんな中を私が普通に歩けるのは今までを考えたらびっくりだ。
手に持った資料を落とさないよう、慎重になりながら私は自室へと向かう。
すると、目の前から歩いてくる集団が目に入った。複数人の男たちは、横目でちらりと私を見ると「チッ」と舌打ちをして去って行く。
彼らは魔法研究所の人達でしょうね。聞こえていないとでも思っているのでしょうか?
私が自身の身の上話をした理由がこれです。
彼らは階級は低くとも貴族出身。私は現在は貴族位とはいえ元は平民、それも孤児です。
先代賢者様の手紙があったが故誰も文句は言えませんが、一定数の貴族位の魔法使いは私を嫌っています。
『師匠のおこぼれ』と。
「はぁ....憂鬱です」
だがため息ばかりついてもいられない。賢者としての仕事は意外にも多く、魔法の研究に魔導士の管理、魔導書の解読に魔獣の討伐任務etc....
賢者になってわかった。これだけのものをこなしながら、
まだ賢者になって半年だからとか言い訳はできない。今日も今日とて賢者として動こうと思う。
「ため息ついてどうしたんですか?」
執務室に入ると、私の手に持った資料を受け取った少女が尋ねてくる。彼女は私の助手で、仕事を手伝ってくれる人です。
名前はシエンナ。魔導士の中では2級魔術師の位にいる方です。
「いや、先ほど魔術研究員の方々に舌打ちをされまして。やはりまだよく思ってない方はいるんだなぁ....と」
それを聞いて、少女が驚いた顔で怒り出す。
「そんな呑気に言ってる場合じゃないですよ!レナ様はもっと怒ることを覚えた方がいいです!先代賢者様でしたら、減給処分+研究所に殴りこんでいましたよ、それ!」
「いや、さすがに
「そうですよ。セレナ様がそんなことするはずがありません」
奥の部屋からもう一人女性が出てくる。私の助手の一人で、師匠が賢者だった時代からのお付き人でもあるエリシアさんです。
少し年上の女性で、とてもしっかりとした方なので安心できます。
「レナ様、こちら先ほど研究所より届きました研究資料とレポートです。それとこちらは冒険者協会より魔獣討伐の協力要請と該当魔獣の一覧です」
「ありがとうございます。シエンナに渡した資料から必要部を抜粋してこの研究レポートの添削をお願いします。私が少し見ただけでも分かるミスがあったので、真っ赤っかにして返すことになりそうですが....」
「了解いたしました。シエンナ、あなたは私と一緒にレポート添削しますよ。資料を持ってきてください」
「は~い....よっと。意外と重いなこれ」
2人が消えていった扉を見ながら、私はもう一度ため息をつく。
机の上に飾ってある写真立てには、私を幼くしたような少女と黒髪の女性が写っていた。
「もう1年か....」
師匠が消えてすでに1年。新たな賢者に選ばれたのはいいものの、私も学ばなければならないことは山ほどある。
(セレナ先生....私はちゃんとやれてるんでしょうか?)
そんな答えのない質問を考え、すぐに考えを打ち消した。
「さて、やりますか」
今日も今日とて、私は執務室で机に向かって資料を開いた。
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