第4話 創世神って苦労人ですか?無気力ですみません
「ここは…」
気が付けば王城でも森の中でも草原でもどちらでも無かった。時折読む異世界ラノベでは大抵はそのどれかに転生してウワアアってパターンだったのに。
気が付くと洞窟の中だし、素っ裸だし、明らかにヤバそうな獣の骨はあるし、で戸惑ったっけ。それもこれも僕があまりにやる気がなかった故の事故かな、と少し後悔してみる。そして神様との出会いを思い返しはじめた。
「ここは…」
白い壁にかこまれた広い部屋。楕円形のドーム、と言えばよいだろうか。壁には沢山のモニターがぎっしりと並べて掛けられており、部屋の真ん中には不釣り合いなパラソル付きテーブルにアフタヌーンセットが用意されている。椅子は二脚。
椅子の片割れに僕は腰を下していた。向かいの椅子は空っぽだ。紅茶のポットはわずかに湯気をたて、良い香りが周りに満ちている。
「僕は死んだはずじゃ…夢?まだ僕は生きてて…」
『残念ながら、貴方は一つの生を終えられました』
その声に視線をやや上向かせると、先程居なかったはずの椅子に穏やかそうな老人が座っている。白くて豊富な顎髭を蓄えて伸ばし、髪も白髪で長い。まるで魔法魔術学院の長を任せられている偉大な人物のような、磔にされて復活した奇跡の人のような。悪い人ではなさそうだ、と僕の直感が告げる。
「そうですか…僕は死んだんですね…」
『そうですね。命の尽きる瞬間、一際輝く無垢な魂に私は導かれ、そして貴方を導こうと決めました。私の創造した惑星、世界で、生きて頂きます。貴方の意思を聞かずに申し訳ありませんが』
そうか、僕はこの人…神様かな?だいたいラノベでは神様だよな。…に導かれ転生するって場面なのだろう。
「ありがとうございます…転生…ですか?また生きられるのなら嬉しい…です…でも…」
『なんでも質問してください。それと何か希望はありますか?』
「僕は…何の能力もありませんので、魔王を倒せ、とか、勇者になれ、とかはちょっと無理です」
『私の世界には魔王は存在しませんよ。魔獣なら其処かしこに闊歩しておりますが』
「魔獣?!それって!!!もふもふしてますか?!!!!!」
魔獣という言葉に食い気味に椅子から立ち上がって顔を寄せると、ポーカーフェイスの神様が瞳を見開いて驚いた表情を見せている。
『おるにはおる…貴方の魂からは無償の動物への愛が満ちていますが、本当に動物が好きなのですね…そこで一つお尋ねしたいのですが』
僕はコクコク、と頭を上下させている。そうか、もふもふがいるんだな。どんなもふもふだろう?楽しみだ。
「はい、なんでしょう?」
『あなたは毛深い…貴方の言うもふもふの獣になりたいですか?それとも…』
僕は神様の言葉途中で大声をあげる。
「もふもふにはなりたくありません!僕がもふもふしたいんですよ!!!!」
『そうですか…もふもふでなければ良い、と…そうですね貴方なら…任せられます。その輝く無垢な魂ならば…』
神様の眼前に何かボードのようなものが浮かび、神は何やらボードにむかい指先を動かしている。タブレットにメモでもしているかのようだな。
『転生特典として、私の加護を与えますが、他にも何か希望がありましたらできる限りの事は致しましょう』
何やら加護とやらを頂けるようだ。加護が何かはしらないけれど。分からないときはこの言葉しかない。
「よくわかりませんので神様に一任します!!」
『く、苦情は後々受け付けません…よ?』
「もふもふと暮らせるなら…あ、一つだけ能力を授けてください!」
初めての僕からの要求に神様は一瞬驚きの表情を見せた後、柔和な表情を浮かべ、うんうん、と頷きを返す。
『なんでしょう?できる限り応じます』
そういわれ僕が出した希望はただ一つ。
「もふもふと安寧に暮らせるスキルが欲しいです!」
しかし、縁も所縁もない僕をただ『無垢な魂だから』と拾ってくださった神様には申し訳ないと思うけれど、僕には何か含む所があると感じて止まない。これは直接訪ねてみるべきか?僕が為すべき事を。少なくとも『魔王と戦え』などの事では無いらしいので胸を撫でおろす次第だけれども。
僕の『お任せ』の要求に時に悩むのか眉間に僅かな皺を寄せ、時には笑みを浮かべる神様は暫く一人百面相を演じた後、ニコリ、と笑顔の表情で固まった。ボードが消えたのであらかた僕に関する設定?が終わったのであろう。
『さぁ終わった。希望なる使役魔法を付与しておきましたよ。これは’生きているモノ’を自分の意の儘に支配したり、使役したりできるスキルです。貴方が望む’もふもふ’を使役し配下にする事ができますよ』
「おおおおっ!」
異世界でもふもふと暮らしてみた、野望の礎となるスキルに僕は舞い上がった。舞い上がりつつも一つだけ確認は怠らない。
「ありがとうございます。でも一つだけ聞いておかねばならない事がありまして…」
神様の顔色を窺いつつ、僕はぽつりぽつりと本音を小出しにする。
「魔王は…いないんですよね?」
『はい。存在致しません』
「では勇者、も必要ありませんよね」
『勇者という概念が魔王を屠る者だと仮定すれば、必要ありませんし、存在致しません』
「じゃあ…僕の存在意義は?何か僕に望んでいる事がおありでは?」
『…そうですね…』
神様が少し困った表情を浮かべる。でも僕にとっては大事な事だ。確認しないという選択肢は無い。僕がこれから神様の作る世界の中で、どのような立ち位置に据えられるのか。それを知ると知らないとでは今後の生き方に関わってくる。
もし仮に’魔物から人々を守れ’という事ならば膂力を増強し、肉体的にも精神的にも強くなる努力が必要だろう。もし’貴族として人々を導け’というならば膂力系だけに全振りする事は悪手だろうし…神様は僕に何を求めているのだろう?
『ただ生きて世界を巡り、ただ生きて楽しみ、ただ生きて悲しみ、ただ生きて憤り、ただ生きて喜んでほしいのです。そして時折で良いですのでその感情を私に伝えて下さい。感情を整理し、ただ’思う’だけで構いません。貴方の伝えるピースを私が受領します』
「へっ?…それだけ?」
『はい、それだけです。ほかには何かありますか?』
ただ僕に’生きろ’という。使命などはなく、時折神様に感想を祈って伝えれば良いのか随分曖昧だけれど僕には頷く事しかできない。
「ありません。本当に拾って下さいましてありがとうございます。生きる事を謳歌します」
僕は深々と頭を下げた。
『この無垢の魂に幸あれ』
刹那、物凄い光の粒が僕を囲み、神様の姿が光の粒の向こうへと遠ざかり、薄く、薄くなる。そして一切の白い光が視界を埋め尽くし、僕は意識が彼方へと向かうのを感じながら瞳を閉じた。
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