10月14日(体育)

幼馴染の亜紀は体育の授業中でもどさくさに紛れて触ってくる。


球技大会の種目は無事に3人同じバレーボールに決まって、次の体育からは球技大会に向けた練習に変わった。


体育の授業は隣のクラスと合同で男女分かれて行われる。球技大会では女子はソフトボールチームとバレーボールチームに分かれるため、体育館では男子がバスケ、女子がバレーと半分ずつにして使うことになっている。


準備体操も終えて「チーム毎に分かれて練習はじめてー授業後半は試合しまーす」というすらっとしたジャージを着たアラサーのせっちゃん先生(名前がせつこなのでみんなからせっちゃんと呼ばれている)の声と共にコートの半分にチームが集まった。


隣のクラスのチームはバスケ部の悠木涼(ゆうき りょう)がいるのか…バスケはできてもバレーはどうなんだろうか。


身長的にも相手チームの方が全体的に高そうにみえる。


こっちのチームは亜紀と凪沙とあたしとあとは、山野さんと寺田さんと杉本さんでこちらも仲良し3人組の人達で仲良し3人組が二組集まってバレーチームが出来た。


「バレー経験者の人っているの?」


あたしはボールを片手でポンポンとしながら集まった5人に話しかける。亜紀は経験者ではないのはわかっているけど一応全員に向けた問いかけだ。


「私一応中学でバレー部だったよ」


そう答えたのは山野さんで残りの人達は未経験者みたいだった。


「それは心強いね!じゃぁ、山野さんがリーダーって事でいい?」


他の人たちは異論はないみたいで頷いていたり、亜紀は終始無言で凪沙は「いいよぉ」って言っていた。


「他に経験者がいないんだったら、わかった!がんばるね!」


山野さんの指示で2人ずつに分かれてトス練習から始めることになった。


「寺田さんよろしくね」


私は寺田さんとペアで凪沙は亜紀とペアで山野さんは杉本さんとトス練習を始めた。


ポーンと上に上げたボールをお互いに打ち返す。時折レシーブも混ぜつつラリーを続けていくと寺田さんのボールがあたしの頭上を超えて体育館の中央に張られたネットに向かって飛んでいった。


ボールを拾いに行くとコロコロともう一個ボールが転がってきた。転がってきたボールも拾い上げる。


「ありがとう。ちさき」

「亜紀のボールか」


遠くで凪沙が「ごめんねぇ!」と言っていた。亜紀にボールを片手で手渡そうとすると両手で受け取ろうとする亜紀の手があたしに触れた。


ちょっとドキッとした…


え?なんで?ドキッてした!?手が触れるくらい普通だよ!ドキッなんてしてない!


おかしくなった思考を元に戻す。戻れ!


「ちさき腕赤くなってる…」


そう言って手渡そうとしているボールを持った腕に亜紀が触れてきた。


おかしくなった思考を戻してるのにまたおかしな思考にいっちゃうだろ!!ヤメテ!


「そりゃバレーやってたらみんな赤くなるでしょ」


亜紀が触れているあたしの腕を優しく撫でる。

ちょっと顔が熱を持ち始めてるような気がするけど…あと腕がくすぐったい…


亜紀を見るとあたしの腕をじっと見ながら腕を優しく撫でているようだった。


真剣に撫ですぎでしょ!


「亜紀、くすぐったいから…あと早く戻らないと」

「あ、そうだね」


たまらず腕を引いて亜紀にボールを無理やり持たせた。おかしな方向にいきそうだった思考は元に戻せたようだ。戻る途中凪沙の方を見るとニヤニヤしてたので睨み返しといた。全く効果はなさそうだったけど…


練習を再開してしばらくするとさらに腕は赤くなってきていた。隣を見ると亜紀がいつの間にか1人でボールを上に上げてトス練習をしていた。


「凪沙は?」


練習を中断して亜紀に話かける。


「涼さんに呼ばれたみたいで…」


コートの方を見ると凪沙は隣のチームの悠木涼と何か話をしているみたいだった。


「それじゃ、練習試合始めるから集まってー」


ちょうど先生の号令もあり先生のところに集まる。何故か凪沙は隣のチームの人たちと混ざって集まっていた。


いつの間に悠木涼と仲良くなったんだ…敵チームになるつもりなのか?


亜紀はあたしの隣にやってきてあたしの腕を見る。


「ちさき腕赤くなって内出血してる」

「あーほんとだ」


腕を見ると赤く斑点が出て内出血しているようだった。

隣の亜紀の腕をみると亜紀も赤くはなっていたが内出血まではしてはいないみたいで綺麗だった。

そんな亜紀の腕が伸びてきて私の腕を掴んだ。


「〜!?」


せっちゃん先生が練習試合について説明を始めている最中…みんながせっちゃん先生を見ている中あたしは亜紀の方を見ていた。


亜紀はさっきもしたように腕を優しく撫でてくる。危うく声が出てしまいそうで口を固く結んだ。


「痛くない?」

「別にこれくらいバレーやってたら普通だって。亜紀だって腕赤くなってるじゃん」

「ちさきほど酷くないよ」


お互いできるだけ小声で会話する。亜紀はずっとあたしの腕を見て撫でていた。

正直くすぐったいからやめてほしいけど…少し痛みが和らいだ気がする…


「さっきからなんで撫でてるの?」

「おまじない?痛いの痛いの飛んでいけみたいなこと」


そう言って「痛いの痛いの飛んでいけ〜」と小さく呟いた。そんな小さい子にやるような事を亜紀がやってくれたことにクスッと笑ってしまった。せっかく亜紀がやってくれたんだからあたしもやってあげようと、あたしの腕を撫でている亜紀の腕を掴んで優しく撫でた。


「痛いの痛いの飛んでいけ〜」


あたしも小さな声で優しく腕を撫でながら呟いた。


「………」


何も言ってこない亜紀の方を向くと亜紀は顔を赤くしていて口をぱくぱくさせていた。


さっき自分がしたことをお返ししただけなのになんでそんな反応をするのか…


不思議に思って見つめていると、急に顔がキリッとした。


「ギュッてしてもいい??」

「……はぁ??」


せっちゃん先生がバレーのルールやら色々説明をしている最中に何を言っているんだ。授業中だしみんないるんだぞ。


以前、亜紀の家であった事を思い出して顔がちょっと熱くなるけど授業中だから……


「ギュッてしたらもっと痛みなくなるんだよ」

「今授業中だからダメだって」


できるだけ声を小さくして亜紀を窘めるが、眉をハの字にしてお願いって言って諦めてくれないみたいだ。


「今はダメだってちゃんとせっちゃん先生の説明聞かないと!」


まぁ、全然聞いてはいないんだけど…


ちょっと拗ねたような顔をした亜紀は「じゃあ、いい」と言ってくれて、やっと諦めたかと安堵した。


せっちゃん先生の説明をちゃんと聞こうと前に顔を向けると急に横から腕が伸びてきて反射的に体を引いて亜紀の方を見た。


諦めてなかったのか!腕を伸ばす亜紀につい声が大きくなった。


「だからダメだって!!」


瞬間一斉にみんなの視線があたしに集まった気配がする。亜紀も腕を伸ばした状態からすぐに姿勢を正していた。


視界の端っこでは凪沙が悠木涼と一緒にクスクス笑っているのが見えた。あとで凪沙に八つ当たりしてやる!


「東雲亜紀、高坂ちさき授業終了後の片付けよろしくなー」

『はい』


せっちゃん先生から普段聞かないような平坦な声で罰当番という役割をいただいた。

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