2月14日 Side涼27

手には今日貰ったチョコが入った袋を持ち、特別教室で森が来るのを待っていた。


「…………」

「…………」


「ちさき。チョコ食べる?」

「いや、今日はもういい……食べ過ぎた。口の中が一日中甘くて胸焼けがしそうだ」


凪沙は椅子に座って窓の外を眺めていて、高坂と東雲は隣同士で座って東雲がチョコを食べさせようと高坂の口に持って行き、断られてシュンと悲しそうな顔をしたかと思えば、口を開けた高坂が東雲の持っていたチョコを一口で食べた。


イチャイチャしやがって、カップルかよ……


少し遠い距離でいる私たちが付き合っているカップルなのに、2人の方が側からみたらカップルに見える。凪沙が教室に入ってきてから、まだ目も合わせてくれないしやっぱり怒ってるのかな……勝手に凪沙を賭けたこと……


あとは結果だけだから、もう距離を置くこともしなくて良いと思うんだけど、近寄り難いオーラを出されてなかなか凪沙に話しかけられずにいる。


「はぁ………」


口から息が溢れた。



ガラガラガラガラ



「悪ぃ!悪ぃ!掃除当番でさ遅れた!」


メッセージで事前に遅れることは知っていたけど、森はここまで急いで来たみたいで少し息を切らしていた。


森はみんな揃っているか確認するかのように見渡して、教室の中央にある机にドカッとリュックを置いた。


「それじゃ、結果発表といきますか!」


私も手に持っていた袋を机に置いた。

去年は私も森も同じくらいの数だったが、今年は後輩から貰うチョコが多くて去年よりも倍くらいには増えている。この数ならもしかしたら森にも勝てるのではないかと思っている。


余裕そうに腕組みをして私を見つめる森はチョコらしきものを持ってはいない。リュックの中に隠されているってことか、見た目からではどのくらいの量か判断がつかない。


「じゃ、もう出てる悠木涼からのチョコから数えるか。個数の勝負で良かったんだよな?」

「あぁ」


窓際で座っていた高坂が私たちのいる中央の机まで近寄ってきて、2人の間に立った。二つ向かい合うように置かれた机にはリュックともう片方には私が置いたチョコの入った袋。


高坂が袋から一つずつ机にチョコを並べていく。


綺麗に包装されたチョコの中には大容量の大袋で売られているようなチョコも何個か混ざっている。いわゆるみんなに配るようの友チョコというやつだ。


貰ったチョコの数なら大容量パックの小さいチョコ1つも数えて良いはずだ。


机に並べ終わった高坂が数え終わったらしく口を開いた。


「18個だな」


去年より8個増えている。小さいチョコは3個ほど、ほとんどがきちんと包装されたチョコで手作りっぽいものもある。凪沙と付き合っていると噂が流れていても、増えているってことは……凪沙ほどではなくともモテていると言っても良いんじゃないかな。


これなら森にも勝てるかもしれないと、口元がニヤリと弧を描いたが、森を見てすぐに元に戻った。


個数を聞いても余裕そうな態度は全く崩れていなかった。


「じゃあ、次はあたしだね」


そう言って森はリュックを開けてコンビニ袋を取り出して、机にチョコを無造作に袋をひっくり返してバラバラと広げた。


「えっ……」

「あーぁ」


私は驚きの声と高坂は数えるまでもなく、結果がわかり呆れたような声が出ている。


机に広げられたチョコは大袋で売られているチョコや、小さいチョコ系が多い。市販で売られているようなものが大多数を占めていて、綺麗に包装された箱のものは2個ほど手作りっぽい包装が数個あるくらい。どう見ても友チョコの数が多かった。


高坂は結果は見ればわかるが一応なのか、個数を一個一個数えている。


「32個」

「あたしの勝ちだね」


勝ち誇ったように顎を上げて見下ろして、私の横を通り過ぎて凪沙の方に向かった。


「修学旅行二日目よろしくね?」

「………」


「ちょっ!ちょ、ちょっと待って!!」


きちんと包装された本命チョコの数では私の方が多い。バレンタインと言えば好きな人にチョコを渡すという日本の文化に則れば私の方が勝ちと言えるのではないだろうか!?


友チョコの数も含めて良いなどと考えていた自分のことは棚に上げた。


「なんだよ悠木。チョコの数だからな?チョコの数」

「ほ、本命チョコでは私の方が……」


「誰も本命チョコの数なんて言ってないだろ?自分だって友チョコも個数に含めてあたしに負けてるんだからさ。天城さんもチョコありがとう。美味しかったよ」

「食べたんですか?」


「うん。もう食べちゃった。だから数には含まれてないんだけどさ」


「え……凪沙。森にチョコあげたの?」

「うん……」


「私貰ってないのに!!!」


「ブハッ!!おま、貰ってないの!?」

「だ、だって……凪沙と、会えてなかったし……」


なんで森が凪沙のチョコもらってるんだよ……おかしいでしょ……恋人の私がチョコもらえてないの……

凪沙の方を見るとちょっと申し訳なさそうに眉を八の字にしている。


「森さんからチョコもらったから、お返しにあげただけだよ?」

「チョコ?」


「うん。みんなにチョコ配りまくってた。で、みんなからもチョコもらった」


森が平然と言ってのける。


「それずるくない!?!?!?」


そんな……友チョコを送り合うなんてしたら当然あげた分お返しでチョコをもらうことも増えるのは当然だ。私だってそうしていたら友チョコをたくさんもらえていただろうし……


「作戦勝ちってことで」


森が口元がいやらしく笑った。とても憎らしい笑顔だ。そんなんで負けるだなんて……凪沙の修学旅行二日目が森に取られるなんて悔しすぎる。


私が悔しく森を睨みつけていると、特別教室の扉が開く音が響いた。


みんながそちらに視線を向ける。




そこには小柄な女の子が立っていた。


「げっ……」

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