1月24日 Side涼19
「ダメだよ」
なにがダメなんだろう?交際1ヶ月記念にプレゼントを渡すのがそんなにダメだったの?
私は凪沙の言葉の真意がわからずただ戸惑った。
「ダメって?なにがダメなの?」
「涼ちゃん毎月こうやってプレゼントを渡すつもりなの?」
「あ、いや……それはわからないけど……でも、凪沙と付き合えて1ヶ月経って嬉しくて……」
「うん。私も涼ちゃんと付き合えて嬉しいよ?こうやって記念日を覚えててくれるのも嬉しい」
「じゃあ、なにがダメなの?」
「わざわざプレゼント用意してくれなくてもいい」
「なんで?だって記念日だよ?」
「1ヶ月記念日でしょ?わかってる。でも、1ヶ月記念日でわざわざ用意しなくてもいいの」
騒がしい店内にはそれほど響かないだろうけど、徐々に声が大きくなっていく。
「用意しなくていいってなんで?」
「毎回こうやってプレゼント用意するの大変でしょ」
「大変じゃないよ?」
「でも、プレゼントしなくていいから」
「なんでプレゼント渡したらダメなの?」
凪沙が額に手を当てて眉を更に寄せている。
少し怒っているような様子をしていて、こんな凪沙を見るのが初めてだった。
「だから、1ヶ月記念日で用意しなくてもいいの」
「それじゃ、わからないよ!!」
少し大きな声が出てしまって、驚いたように凪沙がビクッとして私を見つめてくる。
「あ、ご、ごめん……」
「ううん。ごめんね。……もう出よっか」
凪沙は半分くらい残っているカフェオレとプレゼントをそのままにして席を立った。
店を出ると、外は暗くなってきていて寒さがより際立っていた。
風が吹いて寒く、ポケットに手を突っ込んでできるだけ肌が出ないように防御する。
少し先を歩いている凪沙がはぁと白い息を吐いた。
無言の時間が過ぎていて、気づけば凪沙は駅の改札を通っていく。
本当なら私の家に誘う予定で電車に乗ることはなかったはずが、凪沙はそのまま帰るつもりのようでなにも言わないで電車に乗り込んだ。
私は静かに凪沙の後をついていくだけだった。1人で家に帰せないし、この雰囲気のまま別れるのも嫌でなんとか話しかけようと思うけれど、なんて声をかけたら良いかわからなかった。
「じゃあ、またね。送ってくれてありがとう」
「え……」
いつの間にか凪沙の家に到着していて凪沙が微笑んでから振り返り家に向かって歩いていく。
「あ、あの……凪沙……」
足を止めてくれてた凪沙は私に振り返って笑う。
「ごめんね涼ちゃん。私のワガママなんだけど、プレゼントは用意しなくてもいいからね?」
私が勝手にプレゼントを渡そうとしただけなのに、凪沙の方が謝ってくる。受け取ってくれるだけでいいのになんで……
「凪沙が謝ることじゃないから!私の方がごめん……」
わかった。それだけ言って凪沙は家に入って行った。
プレゼントを渡そうと思っただけ、それだけなのにあんなに拒絶されるとは思わなかった。
初めての喧嘩になるのかな。
謝ったし、私の謝罪も凪沙は受け取ってはくれたけど、それでも別れ際のお互いの空気は微妙なまま。
私のモヤモヤは晴れていないし、なんでダメだったのかもわからない。口先だけで謝ったところでお互いが納得していなければ意味がない。
「え?涼?何してるの?」
ずっと凪沙のことを考えていて、声をかけられるまで母さんの帰宅に気づかなかった。時計を見れば0時を過ぎているし、私は凪沙に渡す予定だったプレゼントを握り込んで、ずっとソファに座り込んでいたらしい。体がところどころ痛くなっていた。
「なんでもない」
「いやいや、なんでもないなんて顔してないからね?凪沙ちゃんと何かあったの?あんなに記念日だって浮かれてたじゃない」
「………」
「何があったの?」
母さんの口調は優しくなって心配そうに顔を覗き込んできた。
私は今日あったことを話した。
パンケーキを食べに行った事、お店にパンケーキのメニューを入れたらどうだろうって凪沙が嬉しそうに話していた事、記念日だからプレゼントを渡そうとした事、それを凪沙が拒絶した事。でも、私は何故プレゼントを渡したらダメなのかわからなかった事をできるだけ伝わるように母さんには話した。
「なるほどね」
母さんは思い当たる節があるのかわかったように頷いた。
「1ヶ月記念日にプレゼントは渡さなくていいって言ってたんでしょ?」
「うん」
「あなたたち“まだ“1ヶ月しか付き合ってないのよ?」
「……うん?」
「涼はちょっと落ち着いて凪沙ちゃんと付き合いなさい」
「……うん??」
「凪沙ちゃんと付き合えたのが嬉しいのはわかるけど、ちょっと浮かれすぎなのよ」
母さんは私の頭をポンポンと撫でて「ちゃんと2人で話し合いなさい」と言ってさっさとお風呂に入りに行ってしまった。
“まだ“1ヶ月?浮かれ過ぎ?
それが凪沙がプレゼントを受け取ってくれなかった理由……?
そういえば凪沙は“毎月プレゼントを渡すつもりなのか“とも言っていた。
この日、私は眠れないままずっとそのことについて考えた。
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