12月29日 Side涼5

バッシュがキュッキュッと立てる音が鳴り響く。


ボールがゴールネットを揺らし体育館の端で見ている生徒たちの歓声が大きくなった。


すぐさまチームメイトがボールをコートに戻し、ボールを受け取った結が相手コートに切り込んで行く。ボールをパスしながら相手ゴールにチームメイトがボールを入れた。


第2クォーターも後半に差し掛かり、38−34となんとか勝ち越しているような状況。結と私の得点も結が6点私が8点と僅差だ。


相手チームにマークされているみたいでずっと私の近くには同じ人がへばりついている。ボールをもらいに行こうにも体で抑えられ振り切るにはなかなか面倒だ。


それに、結はあからさまに私にボールをパスしてこない。練習試合とはいえ試合中なのに、パスを渡すのは他のチームメイトばかり。結は持ち前の脚力とスピードでパスを受けやすい位置に動き回る。ボールを受け取ってはパスを回して得点に繋げたり、シュートを打って得点を取る。


私に回してくれたらもう少しは点差も広げられるかもしれないのに……


悔しい気持ち、ヤキモキした気持ちを表に出さないよう、今はプレイに集中しなければいけない。もっとボールを受け取りやすい位置に動き回らなければ……私はまた走り出す。


そろそろ第2クォーターも終わりを迎えそうな時、結が動いてボールを受け取った。

私はその動きを見てハッとした。3ポイントラインの外側にいる結がボールを頭上に上げ、軽くジャンプをした。


結が放ったボールは誰にも邪魔をされることなくゴールネットを揺らし、第2クォーター終了のホイッスルが鳴り響いた。


結の視線が私に向けられ、目を細めて睨みつけるような視線を受けた。



10分間のハーフタイムに入る。飲み物を受け取って、椅子に腰をかけた。冬だというのに汗が垂れてくる。熱く火照った体から湯気が出てるんじゃないかと思うほどだ。


「9対8。前半は私の勝ちだね」


結が隣の椅子に座って口の端を上げながら笑いかけてくる。

憎らしい表情に私の片眉がピクリと上がった。


「まだ後半があるんだからこれからでしょ」

「相手チームにマークされて動きにくそうじゃん」


「私にわざとボール渡さないようにしてるでしょ。そこまでして勝ちたい?試合中だよ?」

「マークされてるんだからボール渡せないでしょ」


結が飲み物を口に含む。コクコクと喉が上下してペットボトルを口から離した。


マークされていると言ってもボールをパスできるタイミングはあったはずだ。合図を送ってもあからさまに視線を逸らし別の人にボールを渡していた。どうしてそこまでして、凪沙が私のものじゃないとわからせたいのか……


「……結は………凪沙の事どう思ってるの?」

「好きだよ。大好き。凪沙ちゃんは覚えてないかもしれないけど、入学式の時に一度話したことがあってそれからずっと……」


結は照れたように笑う。


そんなに前から?

結も私と似たような状況だったってこと?ずっと見ているだけだった凪沙と友達になって、私は凪沙の恋人になれた。もしかしたら今の状況が逆だった可能性も……


私はこれ以上聞いていいのか躊躇ったが、核心をつく質問をすることにした。


「その好きって……恋愛感情だったりするの?」


私を見つめる結の目が大きく見開いた。考えるように手に持っているペットボトルに視線を落とす。


「………そう、なのかな?私……人をそういう意味で好きになった事ないからわからないけど……もしかしたら私、凪沙ちゃんの事――」

「結」


私はそれ以上聞きたくなくて結の言葉を遮った。

手元を見つめていた結が視線を上げて私をみた。


「やっぱりこの勝負絶対負けられない。凪沙は私のだから、今もこれからも……」


結の眉がググッと寄って皺を深く作った。


「それはこっちのセリフだよ!絶対この勝負勝つから!」


コーチの声が聞こえてくる。後半に向けた作戦会議が始まったみたいだ。視線をコーチに移して私は内心で自分の後半の動きを考えていた。



「悠木」

「は、はい!」


コーチの話を聞きつつ、自分の後半戦の動きを考えていたらコーチから名前を呼ばれた。


「それとー、大塚。交代だ」


「え……」



私は後半に入る前に交代。後半戦中に出番が来るかもしれないが、いつになるかはわからない。

マークされ上手く動けなかったせいで、点差も思うように広がらなかった、その打開策としてのメンバーチェンジ。


もしこのまま試合に出られなければ私の負けは確実で、そうじゃなくても結は前半に引き続き試合に出ているから私との得点も大きくなって、取り返せないかもしれない。


試合に出られなければ勝てない。


私は椅子に座ったまま、コート内に視線を送る。

出られない苛立ちから私が履いているバッシュからキュッキュッと音が鳴る。



遠くで見ている凪沙と視線があったような気がする。

凪沙が初めて試合を見に来てくれているのに、思うように点数も取れず動けなかった不甲斐ない私はタオルで顔を隠した。

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