自分の気持ちに向き合う事をがんばる事になった【後編】

12月22日(1)

ちさきちゃんがお弁当の卵焼きを箸で摘んで一口食べた。


「今日も凪沙のお弁当は美味いなー」


あまり感情がこもってるように聞こえないお世辞を言ってくる。


「………」

「………」


目の前にある自分のお弁当を眺める。まだ一口も手をつけていない綺麗に整った中身。

今日のメインは一口ハンバーグで涼ちゃんが1番最初に食べた手作りだ。笑顔で美味しいと言ってくれた。


「……もうお弁当作ってこなくていいんじゃないのか?」

「………」


「はぁ……あいつ毎日この量食べてたの?おかずの他におにぎり二つ。毎日食べてたらあたしが太りそうなんだけど……」

「………ごめん」


「いや、謝ってほしいわけじゃなくて……はぁ」

「………」


ちさきちゃんは困ったようにポリポリと頭をかいた。


遊園地のダブルデートは楽しかった。涼ちゃんと手を繋いで食べ歩きして、ちさきちゃんと亜紀ちゃんと楽しくおしゃべりしながら色んな乗り物に乗って……2人きりになった時には私の気持ちを伝えるんだというドキドキもあった。


2人きりの観覧車は絶好のタイミングだと思っていた。


最後に乗った観覧車の中で涼ちゃんに告げられた。


――お互いを恋に落とす事やめよう


その日から私と涼ちゃんはただの友達になった。


ダブルデートが終わった次の月曜日から涼ちゃんはお昼休みに教室に来なくなったし、廊下ですれ違った時は挨拶を交わす程度になった。


バイト終わりに家まで送ってもらっていたそれも、あの日から何だかんだ理由をつけられては喫茶店にも来なくなった。美月さんも特に涼ちゃんのことで何か言うこともなかった。


「亜紀ちゃんも図書委員の人たちのところに行っちゃったし……ごめん」

「そんなのはいいんだって!」


亜紀ちゃんもあれから図書委員の人たちのところでお昼を食べるようになった。

私たちも自分たちのクラスでお昼を食べるようになったし、涼ちゃんと知り合う前のような状態に戻っていて、余計私は沈む気持ちを抑えきれなかった。


それでも毎日お弁当を作ってくるのは、ちょっとでも涼ちゃんが戻ってきてくれるんじゃないかという自分勝手な気持ちからだろう。


それで結局お弁当はちさきちゃんに食べてもらっている。


「すぐに忘れろとは言わないけどさ……あまり落ち込みすぎるなよ?」

「だ、だって……」


私だって驚いている。好きだと自覚してフラれてこんなにも気持ちが沈んで、辛い気持ちになるなんて思わなかった。


こんなに涼ちゃんの事が好きだったなんて思わなかった。


「ちょっ!!泣くのは無し!泣くのは無し!!」


気づいたらポタッと机に水滴が落ちていた。


「あーーーもう!!ほら!!」


ちさきちゃんがティッシュで目元を押さえてくれる。

涼ちゃんもタオルで押さえてくれたなって思い出して余計涙が出た。


「なんで!?」


増えた涙に慌ててティッシュを増量してくれたちさきちゃんはずっとアワアワしてて申し訳ない。

クラスメイトの人も私たちの様子に驚きを隠せていなかった。


「ホント一発殴りに行こうかなー」


多分冗談なんだろうけどちさきちゃんが呟いていてちょっと笑った。


「大丈夫?凪沙さん」

「あれ?亜紀」


気づけばすぐそばに亜紀ちゃんがやってきていた。図書室でもうお昼を済ませてきたんだろうか?お弁当箱は持っていない。


「もう戻ってきたのか?いつもより早いな」

「うん。今日涼さん来てなくて」


「ん?別のところで食べてるのか?」

「そうじゃなくて、お休みしてるみたい」


「休み?また体調不良?」

「そこまではわからないけど……」


涼ちゃんが休み……


今度こそお見舞いとか行けないかな……


涼ちゃんと話がしたかった。涼ちゃんの顔が見たかった。涼ちゃんの声が聞きたかった。


友達でもお見舞いに行っても普通だよね。

今日はちょうどバイトもある。美月さんに聞いてみようかな……


「凪沙」


笑みを浮かべながらちさきちゃんが言う。


「悠木涼とちゃんと話してこいよ」


お見舞いに行こうかなどと考えているのは筒抜けだったらしい。


「うん……」


私は頷いた。





喫茶みづき


「美月さん!」


「あ、おはよう。凪沙ちゃん」


笑顔で振り返ってきた。美月さんに単刀直入にお願いした。


「涼ちゃんのお見舞いに行きたいんです」


私の圧に目を丸くして驚く美月さんは、すぐに苦い顔になった。


「お見舞いは大丈夫だから」

「で、でも、涼ちゃんが学校休むなんて……2回目だし」


「本当に。心配しなくて大丈夫よ。凪沙ちゃんに移しちゃっても悪いし、それでバイト休まれちゃうのも私が困っちゃうもの」


「移されないようにマスクもします!だから……」


美月さんは私の肩に手を置いた。


「ホントに大丈夫だから」


私を見つめる美月さんは普段と違って少し悲しそうで、困ったような表情をしている。

私の言動で美月さんを困らせているんだと気付かされる。


「わ、わかりました……」


お見舞いじゃなくてもいい。

明日涼ちゃんが学校に来た時に2人きりになって話せば良い。


私は美月さんの言葉に従うしかなかった。



バイトの帰り道は寂しかった。1人で帰るのは心細かった。

涼ちゃんと2人で帰るのがあんなに楽しかったのに、あんなに心強かったのに。





私の携帯がバイブする。

携帯の画面を見ると久しぶりの人からの着信だった。


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