七方美人はやがて反旗を翻す。

焼迷路

第1話 八方美人の裏

 炎天下。太陽がジリジリと俺を照らす。

 大声量。セミが俺の耳を破壊する程の大きさでしつこく鳴く。

 そんな環境でトンボ、セミ、バッタ、カブトムシ、クワガタetc....を捕まえようと奮闘している無駄に元気のある子供(多分小学生)たち...


「いいなぁ...小学生に戻りてぇ...」


 俺は元気に遊んでる小学生を凝視しながら呟いた後、溜め息を吐いた。

 すると、小学生はまじまじと見られていることに気づいたのか、俺と目が合う。そして3秒後には一目散に走って逃げていった。

 ・・・なんか、年下に追っかけてもいないのに逃げられると悲しくなる。

 そんな事を考えていると後ろから声をかけられる。


「あーあ...かわいそうにねぇーあの子。こんな怖いお兄さんに睨まれちゃって...あ、はい。コーラね」


 いつの間にか後ろに回っていて、大げさな声でそう言いキンキンに冷えたコーラを渡してきたのはお隣さん――幼馴染の楼葉ろうは千夏ちかだ。


「この爽やかルックスのどこが怖いんだよ。あと睨んでなんかねぇ。羨望の眼差しで凝視していただけだ。」

「あーはいはい、そうね。で、何か言うことがあるんじゃない?」


 千夏は俺のボケを全力でスルーして俺に問う。


「渾身のボケを流さないで下さい。」

「違う。私はツッコミ担当じゃないわ。変な役やらせないでくれる? 解答権は残り1回」


 そうか。ツッコむ側じゃなくてボケる側だったか。そうかそうか。

 じゃなくて、解答権はあと1回だ。どうするべきか...どうするべきなんだ?...ん?なんか辺りが「ざわざわ」と言い出したぞ。空耳だ。きっとそうに決まってる。

 俺は辺りのノイズを押し潰して消した。そして俺は千夏に向き直り、脳内会議で見事に採用することが議決された渾身の解答を繰り出す。


「俺の好みの飲み物分かってるとか流石、幼馴染だな。もし、これがフィクションや二次元だったら見事正妻ヒロインとして君臨し続けれるな。その性格を改善すればだが...」


 ・・・なぜこのような深い意味ありげな恥ずかしいセリフが即決されたのだろうか...議員を交代させたほうがいいのでは?

 彼女は最初は頬を朱く染めていたが、最後の余計な一言が決め手となった様で......


「茶化す上にふざける。終いには余計な一言。買ってきてもらったお礼の一言すら無いの?」


 千夏は眉間にしわを寄せながら眉をヒクヒクとさせている。めっちゃ器用だな...

 どうやら千夏はお怒りでいらっしゃるご様子だ。


「すいません。ごめんなさい。買ってきてくれてありがとうございます。」


 千夏は怒らせると後々面倒くさくなるので、ここで謝っておく(土下座付き)


「はぁ...律樹...あんたはプライドも成績と共に捨ててきたの?」

「おいおい...俺の成績は結構良い方だぜ?でも、まぁそのために俺はプライドを捨てたが...」

「そうね。内申点だけは良かったわね。」

「そうだ。内申点はトップクラスに良い方なんだよ。ついでに人望も。」


 千夏が何故か呆れたようにそう言葉を漏らすが俺は、胸を張って「えっへん」的な感じで言う。

 そう。俺はクラスで...いや、学校でいい子に振る舞っているのでその辺りはとても良いのだ。


「でも、テストの点数はどうかしら?」


 ちっ...その話を切り出してきやがったか...やめだ。やめ!!

 俺はまだほんのりと冷えていて冷たい、表面に無数の水滴が付着している缶コーラの栓を持って勢い良く引き起こす。すると、缶は「プシュッ」と爽快な音と共に泡が溢れてくる。それを逃さまいと急いで口に運び、一気に飲み干す。


「ぷはーっ。やっぱりコーラはたまんねぇな。背徳感やべぇ...最高だ...」

「背徳感より危機感を感じたほうが良いと思うわよ...だって律樹、テストの点数悪いじゃない。だから、私はともかく律樹はサボってないで今すぐ夏期講習に行った方が良いわよ。」


 千夏は呆れつつ俺を叱る。どうやら「塾に行け」とのこと

 でも、確かにそうだ。今、俺らは中学三年生。そして季節は夏。そろそろ真面目に勉強しないとマズいのだ....


「いや、大丈夫だ。明日から勉強する。そうすればきっと、点数も上がる。」


 俺がそう言うと、千夏は「それ、昨日も言ってたじゃない...」と一蹴して呆れる。


「じゃあ、玲子さんに「律樹くんは夏期講習をサボって私と背徳感を感じてました」って言っとくね」


 玲子とは俺の母親の名前だ。チクられると悪い事が起こる予感がする...


「なんか語弊ありげ.......俺にあらぬ罪をかけられるから本当に言わないで下さいお願いします」


 俺が本日三度目の土下座をすると、彼女は「さっきの報告に「私は無理やりコーラを奢らされました」って付け加えとくね」とサラッと爆弾(俺専用)を投函して踵を返す。

 時刻は11時57分。もうすぐ夏期講習午前の部と俺の人生の終焉を迎えるのであった。


「これ...マジでチクられたら終わったな...」


残念ながら俺はそう考えるしか無いのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る