配信11:生徒会長の配信部

 話もまとまり、俺はいったん教室へ戻ることに。

 田村さんと桜島先生に別れを告げ、俺は保健室を去った。


 教室へ戻ると、倉坂が俺を呼び出した。


「猪狩、話がある」

「……げぇ」


 クラスは自習になり、俺は倉坂に連れられて廊下へ。


「お前、あれで誤魔化せると思ったのか?」

「な、なんのことです? 田村さんは本当に体調不良で……」

「本当のことを話せ」


 詰め寄ってくる倉坂。参ったな……。このままでは田村さんが大ピンチだ。

 どうする……どうすりゃいい。

 焦っていると、教室内から誰かやって来た。

 ……女子?


「あの~、倉坂先生」

「なんだ、牧野。先生は今、田村の件で猪狩と話し中でな」

「そのことなんですけど、田村さんは本当に体調不良ですよ」

「――なに?」


 お、この牧野って女子、助けてくれるのか……!

 救世主かよ!


「私、彼女の隣の席なので」

「……うむ、確かに牧野はそうだったな。分かった、生徒会長のお前がそう言うのなら信じよう」


 倉坂は納得した様子だった。おぉ、助かったぞ!!


「先生、行っちゃったね」

「あ……ありがとう、牧野さん」

「ううん、いいよ。えっと……猪狩くん!」

「俺の名前覚えてくれていたんだ。ちょっと感動した!」

「いや、今先生が名前を言っていたから」


 ですよねぇ……。

 俺は影薄いからなぁ。

 けどこうして田村さん意外の女子と話すのは初めてだな。というか、まさか助けて貰えるなんて思いもしなかったわけで。


「どうして助けてくれた?」

「田村さんのことを知りたくてね。胡桃なんでしょ?」

「――ッ! そ、それは……」

「その反応。確かみたいだね」


 これはもう誤魔化しきれないな。それに、牧野さんには助けてもらったから、その恩がある。


「そうだ。今、ネットを賑わせている謎の美少女・胡桃は田村さんだ」

「だろうね。あんな可愛いコ、他にいないし。顔がそっくりだとは思ったけどさ、やっぱり本人か~」

「このことは内密に……」

「言いふらす気はないよ。でも、みんな薄々気づいているんじゃないかな」


 そうだよな。胡桃=田村さんと怪しんでいる人が大多数だろう。けど、それでも俺は……なんとか誤魔化したいんだ。


「他人ということにしておいてくれ」

「事情がありそうだね。分かったよ」

「理解があって助かる」


 教室へ戻ろうとすると、牧野さんは俺の服を引っ張った。


「ちょっとまった」

「んぁ!? なんだい、牧野さん」

「配信のことで困っているんだよね?」

「そ、それはそうだけど……大丈夫。やり直すって決めたから」

「そうなんだ。でも、せっかくの縁だし、ウチの部活においでよ」

「部活?」

「うん、ウチは『配信部』なんだよ。ほら、今ってGスポーツとか流行ってるじゃん? プロゲーマーを育成したり、VTuberを目指したりとかしてる」

「へぇ、そんな部活があったんだな」


 知らなかったぞ、そんな配信部なんて部活。でも、興味あるな。特に、田村さんを育成するにはいいかもしれない。


「放課後、三階にある教室に来てよ」

「分かった。田村さんと共に向かう。だから……」

「もちろん、プライバシーは守るよ」


 これで決まりだ。

 俺はさっそくスマホのメッセージアプリで田村さんに連絡をした。すると直ぐに反応が返ってきた。



 田村さん:え! 配信部?

 猪狩:そうなんだ、放課後行ってみよう

 田村さん:てか、猪狩くん……他の女子と話したんだ

 猪狩:いや助けて貰ったんだよ。おかげで田村さんも助かったんだぞ

 田村さん:そうかもしれないけど、ちょっとフクザツ

 猪狩:なんて不満そうなだよ。喜べよ

 田村さん:牧野さんだよね

 猪狩:そそ、田村さんの隣の席らしいね

 田村さん:うん、知ってるよ。あのピンクのインナーカラーのコだよね。生徒会長の牧野さん。明るくて可愛い

 猪狩:まさか生徒会長だとはね

 田村さん:頭も良いからね。てか……裏切ったら許さないよ



 ちょぉ!? いきなり怖いな。そういえば、田村さんはちょっと病みやすいところがあるというか、針で俺を刺そうとしたこともあったし……あんまり余計なことは言わない方が良さそうだな。



 猪狩:信じろ。俺は田村さん一筋だ!

 田村さん:許す♡



 ほっ……大丈夫そうだな。

 あとは放課後を待つだけ。

 配信部かぁ、どんなところなんだろうな。

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