第41話 エックス

 大広間のベールの向こう。

 「オール・ワン」の四天王が話し合いをしていた。

『人柱の一つが破壊された。どうやらアイテムも回収することは出来なかったようだ』

『なんというざまだ。おまけにヘリクゼンも更なる進化を遂げたようじゃないか』

 四天王の一人は怒っているようだ。

 その声にビクビクとするジーオーとフォージ。どうやら命だけは助けてもらったようである。

『これは早急に残りの人柱を投入する必要がありそうだ』

『しかし、何とかなるのか?』

『そこは無能にやってもらおうではないか』

 そういって顔のシルエットがジーオーとフォージに向く。

『これから「プロシージャ」を使って人柱を送り込む。その混乱に乗じてヘリクゼンを討て。これが出来なかったときはどうなるか、分かっているな?』

「も、もちろんです」

「わ、分かっています」

「名誉挽回のチャンスを作っていただき光栄です」

『口だけは達者なトーシローにならないように注意するんだな』

「はっ」

 そういってジーオーとフォージは大広間を後にする。

 彼女らが去ったのを確認すると、四天王の一人が溜息をついた。

『残りの人柱は3体。果たしてヘリクゼンの完全な覚醒の前に仕事をしてくれるか……』

『我々に出来ることは少ない。今は手駒を使って対処するしかないだろう』

『最後の手段は使わないに越したことはないだろう』

 そして再び息を潜める。

 一方、インスタンスではミネ博士がシータ用の制御デバイスの開発を進めていた。

 その様子を見たジョーは、次のように説明した。

「まるで修羅の国を見ているようだ」

 ジョーは呑気なことを言っているが、かなりマズい状況であるのには変わりない。格闘者として変身出来るのはジョー一人であり、これがレジスタンスにおける最大戦力でもあるのだ。

 それを回避するためにも、ミネ博士はデバイスの開発を急いでいるのである。

「しかし、アレどうするんだ?」

 ジョーと一緒にいるカイドウが、親指である場所を指す。その先には、すっかり中身が抜けきったようなイツキの姿があった。

「あのままじゃ、例え制御デバイスが出来たとしても戦えないぞ?」

「そうだな……。だが今の俺たちに出来ることはないだろうな。ああいうのは、自分と向き合って残酷な運命を受け入れる時間が必要だ」

「そんなものか?」

「お前さんも人のこと言えないぞ? 新しいバックルが開発中だからって、それが出来るまでは無力な存在だ」

「そうだな。だが、戦う方法は一つだけではない。俺は傭兵だからな、あらゆる戦い方を心得ている」

「そういう図太い精神を、イツキも持つべきなんだがなぁ……」

 ジョーとカイドウは遠くから見守ることしか出来ない。

 すると、甲高い金属音が鳴り響く。

「東の森から大人数が襲来ー!」

「敵襲だ。行くぞ」

 そういってカイドウは、レジスタンス所有の銃を持って走り出す。その背中を見て、ジョーも走り出した。

 外に出ると、案の定「プロシージャ」の信者と人柱がいた。

 しかも人柱は3体いる。

「こりゃ面倒そうだな」

 そういってジョーはバックルを装着する。そしてアイテムを二つ取り出した。

「ジョー、それはシャープ・プラスへの変身アイテムだぞ? エックスはどうした?」

「あ、あぁ、ちょっと野暮用でな」

 そういってジョーはシャープ・プラスへと変身した。

「じゃ、ちゃちゃっと片づけるか!」

 そういって、ジョーは人柱に向かって走り出す。

 人柱の周りには、「プロシージャ」の信者がワラワラといた。それをレジスタンスが小銃で攻撃する。その先頭にいるのはカイドウだった。

「中央は後退! 左右は前進せよ!」

 逐一指示を出し、信者と交戦する。信者は何も考えずに突撃してきた。そこを包囲するように銃撃を行っていくレジスタンス。完全に一方的な攻撃である。

 一方で3体の人柱と戦っているジョーは、若干劣勢になっていた。

「くそっ! 面倒な奴らが増えると余計面倒だ!」

 そうは言うものの、止まることなく剣を振るい続ける。

 人柱の攻撃は数は少ないものの、一撃が重い。ジョーは攻撃を食らわないように回避を中心にしていた。

 何発かの攻撃を回避していると、いつの間にか人柱に囲まれるという状況になる。

「しまっ……」

 ジョーは足に力を込め、ジャンプで回避しようとしたが、その前に人柱からの拳が体の横に入った。

「ガァッ!」

 ジョーは攻撃を食らって、地面を転がる。ダメージを食らった反動で、ジョーは体を動かすことが出来なかった。

「くそ……」

 ジョーがのたうち回っていると、あるものが目の前に転がり出る。

 シャープ・エックスだ。

 ジョーはシャープ・エックスを手に取った時、とある想像が脳裏をよぎった。それは、イツキと同じように暴走するかもしれないというものだ。

「……っ! あり得ない……、そんなことは……!」

 しかし、自分だけ例外という甘いことはないだろう。確率的にはあり得なくないのだ。

「ぐっ……!」

 そんな葛藤をしている間にも、人柱はジョーに接近する。

「ジョー!」

 カイドウはジョーの援護に入ろうとするものの、信者が接近してきているため、移動もままならない。

 人柱はジョーの目の前まで接近し、その拳を振り下ろそうとした。

 その時だった。

「うぉぉぉ!」

 雄たけびと共に、人柱に弾丸が何発か命中する。

 ジョーが後ろを振り返ると、そこには怪我なぞ無かったように全力で走ってくるイツキの姿があった。

 そしてイツキは、ジョーの前に立つ。

「ジョーさん! 無事ですか!?」

「イツキ……、お前……」

「自分は誰かのために犠牲になると決めました。ですが、今はそれが出来ない。誰も守ることが出来ないのなら、自分の命をぶん投げてでも敵を止める!」

 そういって、銃を人柱に向けて構えるイツキ。

 それを聞いたジョーは落ち着いていた。

「確かにそうだ……。俺たちは命を投げ出してでも人々を守る役目を持っている……」

 ジョーは起き上がって、シャープ・エックスを握る。

「俺は俺の役目を果たす……!」

 そういって装填していたアイテムを外すと、シャープ・エックスを装填した。

『シャープ・エックス!』

 ドアノブのように、出っ張った板が二つ目のスロットに覆いかぶさる。

 そして、グリップを回して抜刀した。

『ドローイング!』

 バックルから流体状の金属が螺旋のようにあふれ出し、ジョーの体を覆いつくす。

 そして装甲が装着され、シャープの新しい形態が出現する。

『ソードマン シャープ・エックス!』

 これまでと違って、スリムな見た目になっている。

「ジョーさん……」

 イツキは銃を下ろす。

「俺はもう大丈夫だ。さぁ、どっちが強いか確かめようか!」

 そういってジョーは剣を構えた。

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