第22話 ルナはバスに乗った、そして……

「あのね、うちの教会の牧師様は、昔は木を見るたびに、どの枝にロープをかけて首を吊ろうかって思ってたんだって……」


 あたしはいつの間にか、若牧師様から聞いた話を語り出していた。

明日の日曜礼拝に、ルナさんは出席できない。でも神様はルナさんにどうしてもあの話を聞いて欲しかったのだ。


 だからあたしはあの時、若牧師様から話を聞かなきゃならなかったんだ。


 心砕かれたものの死の際の祈りと、神様はその願いを叶えてくれるということを。だってダイアナさんは必ず祈ったはずだもの。

『神様、ルナを守ってください』って。


「私お姉ちゃんに祈ってもらったのね。お姉ちゃんとずっと一緒なんだ」

“今だって側に立ってるよ”とは言えない、見えないから。


 ルナさんは、握り締めていた4個目のスコーンを食べ終わると、立ち上がった。


「私、次のバスに乗る。それがお姉ちゃんが私に作ってくれた未来だもの」


 ダイアナさんはあたしににっこり笑って、両手でハートの形を作った。

そして天国へと旅立っていった。

 ルナさんの乗るバスが入ってきた。


「スコーンたくさん食べちゃってごめんね。お金払うわ」

 ルナさんはそう言って、財布を出そうとした。


「お金なんていいよ、まだ一個残ってるし。そのかわり有名になったら、あたしのこと絵に描いてよ。その頃には凄い美人になってる予定だから」


「うん、約束する」

 ルナさんは今度こそバスに乗り込んだ。


 ルナさんの乗ったバスを見送ったすぐ後に、長距離バスが入ってきて、

背の高い男の人が一人、降りてきた。 


「メアリー、なんでここに!」

あたを見るなり男の人はママの名前を呼んだ。


「ダニエルおじさん?」

写真の中のおじいちゃんにそっくりの顔だった。

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