第32話 新たな一歩、最初の一歩

「あまりにも自分勝手だよ、カナ。1人になりたくないから、いろいろ命令して、一緒にいるようにさせるなんて。1人は怖いよ。私にはわかる。1人でいると不安で、みんなになんて思われてるか気になって。でも、どんなにみんなと一緒にいても、結局はみんな1人ぼっちなんだよ。だから、1人を恐れちゃダメだよ」

なんでこんな言葉が自分の口から出たのかはわからなかった。気がついたらもう声になっていた。

「碧彩にはわかられたくない!知られたくなかった!わかったふりしないでよ!」

カナは顔を真っ赤にして叫んだ。

「みんなと馴染めなくて、学校に行けなくなって。勉強だってついていけるか不安で。また学校に行き出してもみんな裏では悪口言ってるんじゃないかってすごく不安だった。それなのに、みんなと楽しそうに過ごして、勉強も運動もできる碧彩が私の気持ちなんてわかるわけないじゃん!」

昔の自分を見てるようだった。誰のことも信じられなくて、部活を辞めて逃げ続けていた自分に。

「わかるよ。私だって1人だった。辛かった。前の日に私の悪口を言って笑ってた人が次の日には友達だよって顔して話しかけてくるんだよ。怖かったよ。嫌だったよ。誰も信じられなかったよ。だから、同期が誰もいない1番治安が良いって言われてる学校に入って、またテニスやろうとして。どうしても怖くてすぐ辞めて。いろんな人に迷惑かけて。でも、先輩たちが1人じゃないって教えてくれたから。もう、逃げないって決めたから。だから私はここに帰ってきたの。何も知らないのはそっちの方でしょう。どれだけ人を傷つけたかわかってるの?もしそれで一生人を苦しめたらカナはどうするの?カナに何ができるの?カナは学校に馴染めなかった。でも、また学校に行こうって。一歩踏み出そうって思えたからきたんでしょ。理果たちがいたから来れたんじゃないの?誰にだって心の支えは必要で。それが人なのかモノなのかは本人にしかわからないよ。でもカナにも心の支えがあるんでしょう。辛い時、苦しい時、どんな時でもグッと踏ん張れる支えがあるでしょう。今はまだ見つけられてなかったとしても、きっともう出会ってるはずだよ。怖くても動こう。先が見えなくて不安なのはみんな一緒。でも、その怖さは一人一人違ってて誰も本当の意味で理解し合えることなんてないのかもしれないよ。でもね、それでも分かり合える時は必ずくるから。永遠に1人なんてことはないから。だから、1人を恐れないで。周りを信じて」

カナは俯いたままで、動かない。この言葉がカナに響いたのかはわからない。それでも、自分の気持ちを相手に伝えられたから。私にとっての新たな一歩。大事な一歩を踏み出せたんだと思う。あとは、カナも踏み出してくれるのを待つだけだ。

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