【配信】バニーガール先輩の異世界ダンジョン配信教室! 〜初心者JK配信者にイロハを叩き込みます〜

生方冬馬

バニーガール先輩が配信を始めたようです

第1話 *ダンジョン配信! 紫紺の洞窟  序 1*




 今日も今日とて私はバニーガールのアバターを被り、ダンジョンを徘徊する。





 なんのためだって?


 そんなのみんなも知ってるでしょ。


 今日の宿代と借金返済のためだよバーカ。





「20時になりましたー。今日もアリスちゃんのダンジョン徘徊始まるよー」


 白いバニーガール姿の【アリス】がマスコットの白うさぎ【マーチ】に向かって話しかけている。


 アリスの目の前に浮いている白うさぎのマーチは彼女の配信カメラ兼コメント読み上げ係兼アイテム持ちだ。


 マーチの目に向かって微笑み手を振る。


 するとマーチの口から次々にコメントが流れてきた。


『ばんわー』


『ばんわー』


『ぽろり! ぽろり! ぽろり!』


『まだ始まってないの?』


「今日はねー、昨日の続きでーす。レベル3の紫紺の洞窟。アイテムつきちゃったんで、せっかく見つけた扉開けられなかったんですよねー」


『レベル3とか雑魚じゃん』


『だっさ』


「うっさいわ黙ってろこっちは命懸けで慎重に進んでんだよ、あ、ゆんゆんさんいつもポーションありがとーホントゆんゆんさんのポーションが命綱だよー」


 コメントに返事をしつつアリスはメイスを肩に担ぎ、歩き出す。


 目指すは第三階層の深奥「紫紺の洞窟」である。






 紫紺の洞窟は特に特別なギミックがない初心者向けのエリアだ。


 その代わりリポップが速いアンデットと宝箱が多く配置されている。ベテラン配信者からは戦闘実況の練習フロア扱いされているが、うっかりするとスケルトンの大群に囲まれて事故死するビギナーが多いエリアでもある。


 アリスはすでにレベル5までは登れるのだが、諸事情あってここにこもっている。





 アリスの目の前には簡素な石造りの扉がある。ちょうどアリスの胸の下あたりの位置に紫色のクリスタルがはまっていた。


「あーやっと昨日の扉まできました! もうスケルトンの湧きうざいよね。前回のアプデは本当にクソアプデだよ」


『湧きが遅いと配信者同士食い合うし』


『その代わり宝箱も増えたで』


『過疎ってるから囲まれる定期』


「まーね、そのうち仲間募ってスケルトン一掃配信とかするかなー」


『さっさとレベル6行け』


『5の雷の峰の攻略まだー?』


「雷の峰は行くよ! 事前告知するから待っててね、じゃ、扉開けましょー。実はこの扉は前回のアプデで追加されたエリアだから私は初見です。スケルトン出るなよ、出るなよ」


 アリスが紫のクリスタルに触れると、振動と共に扉が奥へ開いていく。


 一歩、中へ踏み込む。天井付近の夜光虫の輝きの中、ギチギチギチギチギチギチと骨と鎧の擦れ合う音がして、スケルトンの群れが現れた。


「出るなっていったのにーーー!!」


『www』


『www www』


『ぽろりチャンス』


『待ってました』


「もう何匹? ひぃ、ふぅ、みぃ、十匹? 多いよーもー」


 アリスは重いメイスを担ぎ上げ構える。走り出して、先頭のスケルトンの顔面めがけてメイスを振り下ろした。







「ほあっ!!!」


 アリスのメイスが最後のスケルトンの顔面を粉砕するのと、スケルトンのボロボロの(ほとんど棒状態の)剣がアリスの首を吹っ飛ばしたのはほぼ同時だった。


『いったー』


『一ぽろり』


『今日はぽろりが少ない』


【オーシャンさんが1000ルクス課金しました】


【ひみこさんが500ルクス課金しました】


【あんこさんが500ルクス課金しました】


 マーチが続々と課金者と課金額を読み上げていく。


「みんなーーーありがとーーー」


 アリスは生首状態のまま感謝の言葉を叫ぶ。


「いって」


 てんてんてん、と首が地面をころがる。マスコットのマーチにはモザイク機能があるので自動的にアリスの生首にはモザイクがかかっているが、痛みはある。実はかなり痛い。


『今日はぽろりが少ないので期待はずれです課金しました』


『伝説回超えよ❤︎』


「伝説回超えってあと十二回首落とすってこと? みんなひどくない? 課金ありがとはーと」


 いててて、と呟く生首にむかってバニーガールの体がフラフラと近づいてくる。


 アバターのコアは心臓付近にあり、コアを破壊されない限り配信者は死ぬことはない。それでも痛みは普通にあるし、首と体が離れてしまうと体の操作が覚束ない。マーチの視界と同期させ体と首の距離感を測る。


「あと首まで二メートル、かな。結構飛んだね」と実況していると、側道からドタドタと何かが走ってくる気配があった。


「あれ、なんか来る?! やだーーピンチだーー」


 この足音はまた別のスケルトンの群れだ。


「首! はやく取ってーーーやだーーー」


「ヒ、ヒットアンドウェーーーイ!!!!」


 女アバターの絶叫がアリスの悲鳴にかぶる。


 アリスの首の角度では、側道からやってくる何者かは見えない。


 黒いスカートがアリスの首を飛び越え、アリスの顔面に革靴の爪先が迫った。


「あぁーーー!!!」


「これでもくらえぇぇぇぇ!!」


 初期設定の女アバターの声が何やら絶叫し、アリスの首をスケルトンの群れめがけて蹴り飛ばした。


『事故か?』


『ここはPvPエリアじゃねぇぞ』


『うーんこれは神配信』


「いやぁぁぁ、目がまわるぅぅ!」







***   ***




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