22 存分にモテる世界②

 産まれたての乳幼児の頃は食欲と眠気に突き動かされ、とにかく生存のために泣いては乳を飲み、泣いては寝るを繰り返すのでいっぱいいっぱいだった。

 一歳頃、新しい自分という存在と、身の回りの世界をぼんやりと認識し始めた頃、あぁここは僕が知っている世界と違うぞということをはっきり知覚し、それを機に急に頭がえた。両親や姉たち、お世話係の目にはそれが大層「お利口」に見えたという。


 そして何やらおかしなことに気付く。視界に映る人間がただひたすらに女である。

 そしてやけにチヤホヤされる。


 誰が僕を着替えさせるか、お風呂に入れるかで毎日揉めに揉める。最初、それは幼い自分の面倒を誰が見るか庇護欲で躍起になっているのかと思ったが、周囲の視線が分かるようになるにつれ、どうやら違うようだと分かった。

 


 股間めっちゃ見てくる。



 というか股間しか見ていない。



 よく女が「男の視線はよく分かる」というが、視線が明らかに下向きなので分かってしまう。胸元をチラ見とかのレベルじゃなくて股間をずっとガン見なのだ。



 いや何が楽しいねんと思ったが、確かに周りにこれだけ女しかいなければ異性の身体に興味があったりするものかとその時は納得した。



 その後も身の回りにはずっと女しかいなかった。


 確かに男の身体で生まれてきてはいるが、こうも男らしい男を見かけないと、自分が本当に男なのか心配になってきた。



 しばらくして不思議に思ったので教育係に訊いてみた。



 「男の人はどこにいるの?」


 「男性なんて滅多にいませんよ」



 急に何を言い出すんだこの子は、とでも言いたげな顔で言われた。


 「滅多に」とはまた強い言い回しだなと思ったが、深く訊いてみるとどうやら本当に滅多にいないらしい。

 詳しくは領民約30万人に対し、内男性が約2000人らしい。


 はぁ?

 思わず前世で見かけた誇張しすぎるモノマネ芸人のような声が出た。


 男女比がどうやらおかしい。

 その話を鵜呑みにするなら、この世界では男女比が1:150ということになる。

 150分の1? 道理で見かけないわけだ。 確かに「滅多にいない」は正しい表現だ。



 いや、何故?


 何故そうも男が少ない?



 「男性は産まれにくいのです」


 「何故?」



 僕は無邪気にそう訊ねたが、教育係は「人類一同皆「何故?」と思っています。有史以来ずっと」とどこか達観したような顔で答えるだけだった。

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