27 アルダーの魔法習得

 最初に魔法の存在を知ったのは書庫で見つけた魔法書を読んでからだ。



 夢のような技能。それが大なり小なり個体差はあるものの、人間誰しもが使えるという。

 しかし前世では完全にファンタジーとして描かれていたそれをどう知覚するのか、どう運用するのか。皆目見当がつかないし、書庫で読んで得られる情報だけでは限界がある。



 三歳になった頃。 思いがけず早く、実際の魔法を見る機会は訪れた。

 誰しも使えるとの言葉に違わず、アルダーの傍付きであるメイドの一人 マーサも魔法が使えたのだ。



 「これはですね、【発光ラ・レイ】という魔法です」


 

 夜、寝入る前に傍付きに強請ったところ見せられたのが、指先に光を灯す魔法だった。

 マーサは光を灯した指先を、ヘッドボード脇に立つランプの中にある石のようなものに擦りつけた。すると光は石の方へと移り、そのまま控えめに光り続けている。


 体系的には習得が難しいとされる【光】系統ではあるが、初歩の初歩である【発光】は生活においては欠かせない魔法の一つと言えるほどありふれたものらしい。

 確かに電力インフラなど存在しない世界で、夜間の光をどうしているかとは思っていた。

 自然と点いているから馴染みすぎていて疑問に思わなかったが、どうやら常夜灯は魔法が用いられていたらしい。



 「マーサは魔法を使えるんだね」


 「私たちメイドは貴族様の身の回りのお世話をするために、あらゆる生活魔法を習得しているんです」



 深く聞くと貴族家のメイドは魔法技能――特に生活魔法の分野においてはエリートらしい。メイドという響きだけで正直侮っていた。



 「どうすれば魔法が使えるようになるの?」



 相当に目を輝かせてそう訊ねたと思う。

 一方のマーサはそんな僕を見て何とも申し訳なさそうな顔をした。



 「魔法はやはり、独学では入りが難しいので人に師事するのが一般的です」


 「じゃあ……っ」



 「マーサが教えてよ!」と続けようとした僕をマーサは苦渋の顔で制した。



 「申し訳ありません、私はアルダー様に魔法を教えることを許可されていないのです」



 マーサは色んなことを教えてくれた。

 書庫に行くときはいつもついて来て、分からないことがあれば都度教えてくれた。いつだか充てられていた名ばかりの教育係とは違い、本当に色んなことを教えてくれた。


 それだけに、その申し訳なさそうな顔は本心なのだろう。

 誰でも習得できると云われる魔法を教えることを殊更に「許可されていない」と言うのは、恐らく「教えるな」と命令されているのだ。


 やっぱりな。どういう意図かは分からないが、僕を教育したくないという思惑があるらしい。



 「そっか……じゃあ魔法はまたいずれにする」



 それはもう残念だ。

 やっと触れられるのか、やっと学べるのかと期待が膨らんだだけに落差が凄まじい。


 が、マーサは命令に忠実なだけで彼女が意地悪で教えてくれないわけじゃない。彼女を責める訳にはいかない。



 (せめていつか習えたときのために、座学だけでもやっておこうかな……)

 


 翌日から、僕は書庫にある魔法に関する本をひたすらに読み続けた。




※ ※ ※


今年も一年ありがとうございました!

よいお年をお過ごしください。

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