【短編 アラン視点 1-2】

アランはセントリアの街を抜け、ランタンフォレストの中腹部から南側へと進み、グロームスワンプへと足を踏み入れた。

この地は幻想的な陰影に包まれており、薄暗い光が湿地帯に広がっていた。繁茂した植物が水面に映り、不気味な静寂が漂っている。広がる沼地は暗い色合いを帯びており、浮かぶ水草や腐敗した木々が周囲を埋め尽くしている。湿気た大気が重く立ち込め、モノトーンの風景が幻想的な魅力を放っていた。


アランは馬を安全な場所に向かわせ、自らの脚で探索する事に決めた。

濃い霧が立ち込め、視界が制限されるため、冒険者たちは方向感覚を失いやすい場所だ。しかし、アランは経験と訓練に裏打ちされた洞察力で地形を見極め、安全な道筋を見つけて進んでいく。泥濘に足を取られることもなく、確かな足取りで前進していく。


しばらく進むと、彼はかつての訓練場所である洞穴を見つけた。

洞穴は過去にノアと共にこの場所で訓練をしていた懐かしの場所である。

その洞穴には最近まで誰かが滞在していた痕跡があり、それがノアのものであることをアランは察知した。洞穴の奥で忠実に主人の帰りを待っているミルカを見つけた彼は、頭を撫でるとすぐに洞穴を後にした。


「どうやら教えた通りに動いているようだな」


アランは周囲を見渡しながら呟く。

どうやらノアはアランに教えられたように自分の痕跡を極力残さないように行動をしているようだった。足跡が途切れ途切れになっており、追跡を困難にしている。

アランはほんの僅かな痕跡や粗からノアの道筋を辿っていく。


「この足跡は……」


アランは複数の人間が特定の場所に向かっているような足跡を発見した。


「パーティーメンバーは五人か……軽装な女が二人と重装備の男が三人と言ったところか」


彼はその足跡を追いながら進んでいくと、広間に到達した。その場所には明らかな戦闘の痕跡があり、冒険者の遺体が横たわっていた。

獣や魔物に食べられてしまった痕跡がある為遺体は激しく損傷しているが、その様子はまるで巨人に投げ飛ばされたかのように壁に張り付いている。


「まだ新しいな……殺されたのはつい最近か。身長は180近い大柄で筋肉質な男か、盾を構えたまま死んでいるという事は最初に殺されただろうな……。フルプレートを着ているのにこの損傷は凄まじいな」


アランは遺体を調べていく内に、プラチナランクの冒険者であることが分かった。冒険者全員が肌身離さず持ち歩いてるバッジを手に取り、ポーチにしまう。


「しかし中型のデスクローラーであればプラチナランクの冒険者が5、6人も集まれば倒せるのにどうして死んだのだ……? 実力不足だとしたら魔法を使った痕跡が多少なりともある筈だが――見当たらないとなると混成パーティーの可能性が浮上してくるな。だとしたらこいつ等も規約違反って事になる」


アランは離れた場所でポーチから煙草を手に取り、火を点けた。彼の息が白い煙となって口から吹き出し、悠然と漂っていく。

再び捜索に出る準備をしようとしたその瞬間、泥の中から突如として巨大な鯰のような怪物が姿を現した。

その魔物は巨大な体躯を持ち、泥の中から次第に姿を現していく。その皮膚は湿ったぬめりとした触感を帯びており、腐敗した植物や腐敗物の匂いが辺りに漂っていた。怪物の眼光は鋭く、闇の中で光る瞳が恐怖を誘う。


その魔物の姿はまるで鯰と蛙が奇妙に融合したようなもので、その不気味な形態は見る者の背筋に寒気を走らせる。頭部は鯰のような形状をしており、大きな口は鋭い牙と舌で構成されていた。その胴体は太くて筋肉質であり、泥の中から威圧的にせり出している。足元には巨大な鰭のような器官があり、泥地を踏みしめるたびに深い音を立てた。


アランは身を守るため、急速に後退し安全な場所へと身を移した。その際、泥地の中から立ち上る濁流のような波に押されながらも、彼は冷静さを保ちながら適切な距離を保った。魔物の急襲をかわすため、彼は素早く身体を動かし、泥の飛沫を避けるようにしていた。

巨大な魔物の存在感は圧倒的であり、その姿はまさに恐怖そのものだった。アランは静寂の中で怪物と対峙し、次なる行動を慎重に考えながら、その存在と戦いに備えた。


アランは冷静な表情で銀の剣を抜き、身構えました。

巨大なぶよぶよとした体躯は約5メートルもの大きさで、圧倒的な存在感を放っている。


「巨人種のナマズガエルか……。先を急いでいるもんで早めに終わらせるぞ」


アランは静かに呟きました。

彼は身体のバランスを保ちながら、銀の剣を握りしめました。剣身は冷たく輝き、光がその刃先を舐めるように踊る。彼の眼光は獣のような野性を秘め、自信に満ちた闘志が燃えていた。

周囲の空気が緊迫感に包まれていく。今まさにアランとナマズガエルとの間で死闘が始まろうとしていた。

アランの心は冷静だった。集中し、ゆっくりと呼吸をして相手を見据える。剣を振るい、戦いが幕を開ける瞬間を静かに待っていた。


ナマズガエルは巨大な口を開け、異音を立てながら獰猛な咆哮を放つ。その声は湿地帯に響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立つほどのものだった。

ナマズガエルが攻撃を繰り出そうと僅かに口を開けた瞬間だ。


「天狼疾走」


瞬きをするようなほんの僅かな時間。

彼は奇跡的な速さで距離を一気に縮めた。銀の剣が光を纏い、ナマズガエルの首に向かって一刀を放つ。剣が肉を切り裂く音も、血飛沫を出す事も無く、まるで一本の線を引くようにして剣が一閃した。

ナマズガエルの首が重力に引かれ、ゆっくりと地に落ちていった。

後から死んだ事に気付いたかのように切り口からどくどくと血が溢れ、地面を赤く染めていく。アランは銀の剣をゆっくりと鞘に納める。


「やれやれ……まさかこんな面倒事になるとはなあ……」


薄々感づいてはいたが……やはり群れていたか。

アランが呟く。彼は薄々と感じていたが、やはりナマズガエルは群れを成していたのだ。

煙草に付けた火が口元まで迫り、彼は口から残りの煙草を吹き出す。その煙と共に、彼を取り囲む霧の中から無数のナマズガエルが姿を現した。

アランは冷静な眼差しで彼らを見つめ、ため息を深々と吐く。


奴らは仲間の死体を気にする事無く、威風堂々とした姿勢でアランに迫っていった。巨大な身体はゆっくりと泥の海を進み、その一歩ごとに地面が微かに揺れる。

泥濘の中で跳ねる飛沫は光に照らされ、より不気味さを醸し出す。


アランは抜刀し、臆することなくナマズガエルの群れへと突っ込んでいった。

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