レンジフードの異音

 僕も事故物件に住んだことがあるんだよ。その話を聞いてくれる?


 僕の住んでいたアパートはね、台所からの出火で火事が起こり、その部屋にすんでいたおじいさんが亡くなったんだ。そのアパートは改装されて、綺麗なアパートに生まれ変わったよ。でも、おじいさんが亡くなった部屋は、気味悪がられて、誰も借りる人がいなかったんだ。家賃はまあまあ安くてね、五万くらいだったよ。


 僕はその頃幽霊とか信じていなかったから気にしなくて、安さに飛びついて借りたんだ。大家さんは喜んでいたね。やっと借りる人が出てきたって。僕が住んで何もなければ、変な噂も消えるだろうってさ。住んでみて、夜中に変な物音がするとか、視線を感じるとかそんなことはなかったね。


 でもね、一つだけおかしなことが起こったんだ。それは僕が料理をしているときだよ。僕はその頃よくカレーを作っていてね。野菜を切って肉を炒めて煮込んでカレールをぶち込むお手軽料理だけど、煮込んでいる間は暇だからスマホゲーで遊んでいたんだ。

 夢中になっていると、台所のレンジフードがドカドカと音が鳴りだすんだ。台所に戻ると音は鳴り止むけど、離れるとまた鳴り始めるんだ。故障かと思って大家さんに報告したけど、レンジフードは新品同様だからあり得ないと言われたね。でもレンジフードからの異音はカレーや煮物を作るたびにするんだよ。しつこい僕に根負けして大家さんが業者を呼んでくれたけど、どこにも異常は見当たらなかったよ。僕は仕方ないと、レンジフードの異音を諦めることにしたんだ。カレーや煮物を作らなければいい話だしね。


 僕はある日お肉を焼いていたんだ。その日はボーナスだったから、奮発して分厚いお肉を買ったのさ。焼いている間、僕はスマホを見ていたんだけど、日頃の疲れがたまっていたせいかな、うとうとして眠ってしまったんだ。

 夢心地の中、ドカンドカンと激しい物音で僕は起きたよ。レンジフードの音だよ。今までのより激しかったんだ。そして、僕は部屋が焦げ臭いことに気がついたよ。僕はお肉の存在を思い出して慌てて台所に行くと、なんとフライパンから火が噴いていたのさ。お肉を放置して丸焦げになってしまったんだ。僕はその場であわあわしていたね。消化器はアパートの外に置いてあることも忘れていたよ。


 その時だよ。レンジフードが激しく揺れだして、フィルターやファンが外れ落ちてきたよ。そしてレンジフードから大量の灰が降ってきたんだ。灰で火は消えたよ。そしてレンジフードの中から真っ黒に焼け焦げた人の頭部が出てきたんだ。その人は僕を見ると「馬鹿野郎。俺みたいになりたいのか!」そう叫びながらずるずるとレンジフードの中に消えていったんだ。部屋には大量の煤と灰が残されていたね。あの焼け焦げた人はきっとこのアパートの部屋で亡くなったおじいさんだと思うんだ。

 思い返せば、あのレンジフードの異音は僕がコンロから目を離したときに鳴っていたよ。おじいさんは僕が火事に遭わないように見守っていてくれていたんだろうね。

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