大切

「なんか、顔赤くないか?」


久しぶりに一緒に帰ることになった海結が隣を歩いているが、顔が赤い。そもそも今日は一緒に帰る予定は無かったのに、六時間目が終わった瞬間教室に入ってきて強引に連れ出されたのだ。


「え!?ほんと!」


そのことを指摘すると両手で顔を覆った。


「なにがあったんだよ。」


「いや...別に、なんでもない。」


「なんでもないならいいんだけど...」


なんでもない訳がないと思うが、無理に聞き出そうとするのも良くない。話したくないことは話さなくてもと思う。

それから、お互いが一言も発することなく歩き続けた。


夜ご飯を食べてお風呂に入り歯も磨き、あとは寝るだけのところで、ずっと静かだった海結に話しかけられた。


「この後、ちょっと時間いいかな?大丈夫だったら私の部屋に来て。」


それだけ伝えて部屋に行ってしまった。時間的には何も問題が無いので少し間をおいて海結の部屋の扉をノックした。


「入っていいよ。」


返事をまってから部屋に入り、空いてるスペースに誤字を下ろす。


「それで、話ってなんだ?」


「翔太くんが体育のときに、変なこと言ってたって教えて貰ったんだけど、なんて言ったの?」


「体育のとき?」


「うん。」


なにも思い出せない。今日の体育といえば金髪と勝負したことくらいしかない。


「ほら、私に相応しいのは...みたいな?」


その一言で思い出した。身体が熱くなるのを感じる。恐らく顔も赤くなっているだろう。


「確かに言ったけど、それは...」


「それは?」


「ちゃんと本心だ。だって海結のことが大切だから。」


勢いで口走った言葉かもしれないが確かに本心だ。自分の気持ちを偽ったつもりは無い。


「それって...」


「大切な家族だから。」


海結が話だそうとするのを遮ってしまったけどそのまま話し続ける。


「もちろん、紗季さんも大切な家族だ。碧や凪砂さんも大切な友達で、隣に立つのは金髪よりも俺の方が相応しいと思った。それだけだよ。」


「え?」


海結か目を丸くする。またおかしな事を喋ってしまったのか?

そうしてしばらく固まって動かなかった。俺が目の前で手を振ってみると、それに反応して意識がこちらを向いた。


「私も翔太くんもお義父さんも大切な家族だと思ってるよ!じゃあね。おやすみなさい!」


急に話を打ち切られて部屋を追い出された。もう少し話がしたかったけど、自分の思いは伝えられたから良かった。そう思い自分の部屋に戻って眠りにつく。


翔太が居なくなった部屋で海結はさっきの言葉を思い返していた。


「大切な家族か...。そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が聞きたかったのは...」


部屋の電気を消し、暗闇と静寂に包まれた部屋で独り言ちた。その表情が複雑に歪んでいたのを、翔太はもちろん知らない。

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