天文24年
第44話 加賀出兵
雨が降りしきる梅雨の時期。一乗谷に越後の長尾家からの使者が訪れた。
『加賀の一向宗を殲滅したい』
両家共に上洛を邪魔をしている、加賀国の一向宗を殲滅させたいため、長尾家は朝倉家にも協力をお願いしてきた。
「稲刈りを終えた、9月頃に加賀に侵攻すると言う事です」
「……そうか」
宗滴の代理として、私は朝倉館にて、会議に参加し、当主の義景の意向を、寝たきりになっている宗滴に報告した。
骨折して以降、宗滴は急激に衰え、今では布団から体を起こすのも精一杯になってしまった。
「儂は、あとは時が来るのを待つのみ。若殿をしっかりと支えるようにの」
「はい」
昨年の景鏡と同盟を結んで以降、私は宗滴に色々と教わり、私に刀の基本を教えてくれた、富田五郎左衛門に再び剣術を習い、宗滴のような人物に近づけるよう、今日まで鍛錬を続けた。
「戦に負けは許されぬ事と、儂はずっと凛殿に説いて来た」
「後の卑怯者、悪人と呼ばわれようが、戦にはどのような戦法を使ってでも、一向宗に勝ちます」
宗滴にそう告げてから、刀と一乗滝にて精神の修行に明け暮れる日々を送っていると、あっという間に夏が終わり、一乗谷は秋に移り変わった。
朝倉家は長尾家の要請を受けて、長年加賀国を支配し続ける、一向宗を殲滅させるため、1万5千の兵で出陣することになった。
私も、福岡吉清、高橋甚三郎などの宗滴の家臣も率いて、そして毛屋猪助の兵も率いる事になり、私の兵は総勢で2千人の軍で、一向宗を攻める。
「先方は、山崎殿をお願いしたい」
出陣する前、朝倉館内で、義景を中心に、一門衆と家臣で軍評定を行う。闇雲に兵を送り込んで、一向宗の拠点を攻撃するわけではなく、ちゃんとどの軍がどの拠点に攻めるのか、しっかりと話し合ってから、戦を行う。
「凛は、
「はい。任せてください」
「良い返事だ」
義景が、嬉しそうに頷いた時、評定が行われている部屋に、宗滴の侍従をしている、青年が入って来た。
「殿。一大事な事を報告したいのですが、よろしいでしょうか」
「聞こう」
先に加賀の一向宗が攻めてきたなら、私はまだ良かった。
「宗滴様が、昏睡状態になり、わずかに心音が聞こえるだけであります」
宗滴の侍従の人が来た時点で、私は嫌な予感がしていた。士気をを上げないといけない状況で、一気にみんなを不安にさせるようなことを、今報告しないでほしかった。
「……そうか」
義景も相当ショックを受けているようで、あれだけ盛り上がっていた軍評定も、一気にお通夜のような雰囲気になってしまったが。
「宗滴様と、一向宗とは因縁の相手でもある。これで一向宗との決着をつけるため、皆で奮闘し、宗滴様への最高の土産話にする。だから皆は、一向宗の勢いに圧されることなく、大国越前を守り抜く」
義景の言葉に、再び軍評定は活気づいて、朝倉家の士気は最高潮になった。
出陣式を行い、朝倉家の氏神様を祭る、赤淵神社、下城戸近くにある、春日神社に参拝してから、9月上旬に、朝倉家は一向宗を殲滅するため、宗滴の養子、朝倉景紀、景鏡を総大将とし、加賀に向けて侵攻した。義景は、まだ戦経験が少ないせいか、加賀には入らず、金津の溝江家の居城に留まった。
「凛様は、どう動くんですかね?」
戦の時に共に行動してくれる、毛屋猪助に、今回の一向宗討伐に向けての動きを聞かれる。
「国境付近にある、大聖寺城の出城を落とします」
加賀国を一帯を支配している一向宗。守護大名だった冨樫氏を追放し、今は農民たちで国内を治めてるようだが、それぞれの派閥があるようで、内乱は避けられないようで、一つの派閥が信者を増やそうと、度々隣国の越中や越前に侵攻して、信者を得ようとしているようだ。
「3つほど出城があると聞きました。一つは私、残りは景紀様、魚住様で攻めます」
景鏡、山崎家などの、朝倉家の精鋭の軍は、更に進軍して、手取川まで軍を進め、最終的に一向宗の拠点でもある、尾山御坊を落とすのが目的らしい。
「なので、私たちはかなり需要な任務を任されています。出城を落として、尾山御坊を落とすために、道を切り拓いて、朝倉家の士気を高めることが、私たちの最大の任務です」
「かっかっかっ! 面白れぇじゃねえか。孫次郎様の御膳立てになれるよう、俺たちが奮闘しないといけねえなっ‼︎」
私の軍も何とか士気を上げる事が出来、私も堂々と大聖寺に向けて進軍する事が出来た。
朝早く出て、昼過ぎに越前と加賀の国境付近に到着、そのまま加賀に入り、大聖寺城の北を守る出城を、私は取り囲んだ。
「どうしますか? 相手はずっと籠城を続ける気です」
2千人ほどの軍で包囲しても、出城に動きはない。吉清の言う通りに、こちらが痺れを切らせて強行突破してくるまで、籠城するつもりらしい。
「前に話した通りです。一向宗に情けをかける必要はありません。朝倉家が一向宗に勝つには、たとえ後世で非道と言われるような事をしないといけません」
天気は快晴。秋晴れで、時折赤とんぼが楽しげに飛んでいるのは、朝倉家が量産化に成功した、火縄銃の威力を最大限に発揮出来ると言う証拠だ。
「火縄銃用意」
私の指示に、火縄銃を構えた足軽の兵たちが、一斉に出城向けて構える。
「こちとら発砲音が、開戦の狼煙だっ‼︎」
私がサインを送ると、足軽兵は一斉に火縄銃を発砲した。
火縄銃の弾が、少し離れた出城に当たらないのは分かっている。まだ爆薬に火が付き、爆発する音に馴染みがない、この時代の人たちを動揺させるには、うってつけの作戦だ。
「一向宗が出てきたら、一人残さず駆逐してくださいっ‼︎ 」
残党を残してはいけない。それが後に大きな脅威となるから、どんな手段を使っても勝つべきであると。宗滴にそう教えてもらった。
「全軍、各々の武器を構えてくださいっ‼︎ ここで一向宗を根絶やしにするつもりでお願いしますっ‼︎」
しばらくすると、蜂の巣を棒で突いたように、続々と一向宗が出城から降りてきた。
私たちみたいに、防具を身につけておらす、ただ農具を片手に、私たちに抵抗する姿に、私は心の片隅に心を痛めながら、弓、槍と火縄銃で、遠距離から一向宗を倒していき、手薄になったところで、出城に進軍する。そして数時間で、私の軍は、大聖寺城の北の出城を制圧し、一番乗りで朝倉軍の勝利に貢献した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます