第59話その2

【『新たなる忍者、その名はビスマルク』】


 オープニング終了直後、松原団地のシーンが流れたと同時にサブタイトルが出てくる。


 つまり、そういう事なのだろう。


「もう一度だけ言う。お前たちは、そのガジェットの最大の弱点を把握していない。長所だけで使おうと考えていたのだとしたら、後悔するぞ」


 目の前の敵らしき人物に対し、ビスマルクは再度の警告を行う。


 まるで「大事なことなので二回言いました」的な流れと言える。


 しかし、それを言われても「はい、そうですか」と受け入れる気配もないし、ビスマルクに対して攻撃を仕掛けようという気配もあった。


「ARフィールド展開、システムをダンジョンに……」


 そのビスマルクの一言で、周囲の光景が一瞬にしてARダンジョンのようなテクスチャータイプのフィールドバリアが展開、まさかの流れにギャラリーの方が驚いている。


「何と、周囲にARダンジョンのようなフィールドが……」


「これもいわゆる、ダンジョン配信の新たな可能性……!」


 周囲のギャラリーの関心は、ビスマルクのなりすましと思われる人物よりも、ARダンジョンが様々な場所で観戦できるという個所に向けられている。


 これが別所で言及された『ダンジョン配信の可能性』と言うものだろうか?


「忠告ついでに名乗っておこうか。自分は、忍者構文に言及された忍者とは違うが、間違いなく忍者だ」


 ここまでで30秒が経過し、ビスマルクの右隣に、コンテナと思わしきものが下から現れる。


 まさか、ここでもコンテナギミックが存在したとは……敵側が考えていなかったのは、そこだろう。


 コンテナが設置されている場所はアプリなどで向こうも把握しているが、まさか……と言うような表情を感じ取れる相手のリアクションだ。


「悪いが、手加減はしないぞ!」


 そして、コンテナから取り出したのは……いわゆるタネガシマ的なライフルだった。


 更に言えば、そこには複数のビーム刀が収納できるスペースも見える。


「そんなことが、あるというのか?」


 ビスマルクのなりすましと思われる炎上系配信者は、自分の行った事を後悔することになった。


 更に言えば、この様子は配信もしていたので、全世界に向けて公開することになるというダブルミーニングとなったが……。


「お前たちが公開した忍者構文、そこに書かれた競技は架空競技ではない……」


 何かを知っていると思わしきビスマルクは、タネガシマライフルの一射だけで自身の偽物だけではなく、数十人はいるであろう忍者アバター及び炎上勢力を一掃した。


 引き金を引いただけで瞬時に無力化していく様子は、正に……と言う具合だったといえる。



「忍者ダンジョンRTA……それは実在する競技だ」


 そのビスマルクの一言を聞くことなく、なりすましの人物はガーディアンに拘束された。一部の逃走した炎上勢力の配信者などもいたが、そっちは特殊詐欺などの容疑で警察が逮捕する。


(一部は警察に捕まったが……まぁ、末端の人物がアレを知るわけがないか)


 ビスマルクは、とある物の存在を追っているのだが、今の人物がそれを知っているわけはないだろう、と確信はしている。


 そうでなければ、前半パートで倒されたかませ犬なモブキャラが後半パートで重要な伏線を握る人物だったら……それはそれで危機感がある展開だろう。


 実際の忍者構文では、そういったシーンがあったかも疑わしいが、架空競技と思ったら実在競技だったというオチは『実在』する。



「まさか、ビスマルクがあちら側の人間だった……」


 炎上系配信者の配信していたチャンネルの中継経由で一連の場面を見ていたのは、一人の女性だった。


 口調を踏まえて陰キャタイプの人物にも見えるが、そうではない。喋り方はそう認識されそうな雰囲気だが……。


 配信に関してはスマホ経由ではなく、パソコン経由である。部屋の内装を踏まえると、ここにパソコンがあるのは異質だが……詳細は後述。


 その彼女の服装は昔風のくノ一ではなく、ピッチリ系のインナースーツ的な物であるのに加え、その上にカジュアル系の私服を重ね着。


 いざとなったらくノ一として……というのがあったかどうかは不明だが、そういう可能性もゼロではないだろう。


 実際、部屋の中は明らかに忍者グッズのそれが飾られており、古今東西の忍者作品を集中的に集めている疑いもある。


 いわゆる忍者マニアか忍者オタク化と言われると、それも否定されそうな場所に……彼女はいるのだが、こちらも後述とさせていただく。



「忍者ダンジョンRTAを検索していたら、この配信に当たって、こういう展開になるとは」


 この配信に付けられたタイトルは『忍者ダンジョンRTAは実在する? 今の時代に話題なのはARゲームではなく……』と言うタイトルだ。


 若干途切れているのは、タブブラウザの文字数が限界で表示できないのだろう。


 後に続くのは実在競技であり、いわゆる『Aと言うコンテンツを炎上させ、そのファンを全てBと言うコンテンツへ強奪する』と言う手法だろう。


 このような手法でコンテンツを維持しようという勢力は完全に根絶するべきだ、という考えに至ったのは……あのダンジョンしんが原因と思われる。


 ただし、ダンジョン神はAIアバターであり、人間の手によるものではない。若干の学習内容に人の手が加わっていたのは否定しないが。



蒼影そうえい……まさかの展開になっていたというか。予想の斜め上になっている気配もする)


 彼女は蒼影に関しても何かを知っていた。


 忍者構文にあった忍者、それは祈羽おりはね一族の記述であり、蒼影の記述ではない。


 それを踏まえれば、忍者構文の全容解明も一種のRTA化しているような気配もする。


 更に言えば、それを一種のエンタメのようにして楽しむという勢力さえいるような……と。


 それが、いわゆる炎上系配信者や『バズり』目的の二次創作者……なのだろう。


「あの文章……祈羽一族の文献は、誰にも好きにはさせない」


 彼女の名前は、ヒャクニチソウ。当然だが本名ではない。祈羽の名字は間違いないだろう……が。


 あくまでも、この名前に関してはハンドルネームの類で……彼女のいる場所、それは埼玉県内にある祈羽一族の屋敷。


 そして、彼女の言葉には何か含みがあるように思える。忍者構文は実在する、つまりノンフィクションと言える存在だ。


 それを「好きにはさせない」と言うのはどういうことなのか? 架空戦記、歴史創作、それこそソシャゲの題材にでも使われそうなものではあるはずなのに。


 噂では祈羽一族が認めた存在にしか忍者構文の許諾を出さない……と言うようなことまでささやかれる始末で、これがきっかけで炎上した炎上系配信者も多い。


 逆に言えば、忍者構文に関して様々な悪評を拡散し、それが原因で壊滅した組織は無数にあるという事だ。


 しれっとだが、忍者構文を特殊詐欺に転用して壊滅したジャパニーズマフィアも存在する。


(あの中身が有用であるのは、一族の認識からも明らか。それなのに……)


 ヒャクニチソウは、忍者構文の秘密こそ、祈羽一族の復活に必須という事を進言したことがある。


 しかし、父親は……。



『忍者構文は実在する。その事実だけで十分なのだ。あの内容は、人が……それこそ独占していいような領域ではない』


 祈羽一族の屋敷の一部を忍者博物館として開放し、一族の活動を広める活動をしている父親でさえ、内容の公開は反対していた。


 これにとどめを刺したのが……祈羽おりはねフウマのアトラクション番組への出演だった。


 忍者構文の存在をアピールし、そちら方面で認知されればよいと考えたヒャクニチソウに反し、フウマは自身の鍛え上げた身体能力を披露する道を選んだのである。


『300年前に起きたあの事件、それが後の昭和初期に起きたロボット同士の競技大会……アレにつながった』


 忍者構文に書かれていた記述が原因で、世界各地に巨大ロボットが製造され、それを利用した競技大会が行われ、歴史から戦争と言うものが消えた。


 それこそ、戦国時代以降、つまり関ケ原の戦いで人と人が命を賭けるような戦いは終わった……と言うのである。


『我々は争いの道具に忍者構文が使われることは望んでいない。だからこその……』


 普通であれば、この段階でヒャクニチソウは父親を暗殺でもしようと言う展開、それこそ忍者ものではよくある展開になるのだろう。


 しかし、対電忍はいわゆるホビー系アニメなどをモチーフベースにしているので、人が物理的に消える描写は一切ない。


 大事なことなのでもう一度言う。対電忍で登場人物が物理的に消える描写は一切ないのだ。令和日本の情勢を踏まえれば、当然の話だが。


 実際、ここで聞いた発言がきっかけで、ヒャクニチソウが取った行動は暗殺などの物理的な手段ではなかったからだ。そうしたもので解決できるレベルではないのもその証拠だろう。

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