第58話その3

 その一方で、蒼影そうえいの出現していないフィールド上でも忍者アバターは出現しており、そちらに対応していた人物もいた。


 その場所とは、竹ノ塚のARダンジョンのオープン記念イベントの会場である。


 別の場所でも忍者アバターは暴れているのだが……そちらはガーディアンが対処していた。


 むしろ、蒼影が出現していないことは炎上系配信者にとっても、それに抵抗している人物にとっても都合は良いのだが。


「ARチャフグレネードが、こういう手段に転用されるとは……」


 ARガジェットに乗っているアバターでも容赦なく切り捨てていくのは、フードを被った謎の配信者、ビスマルクである。


 忍者アバターがARガジェットに乗っているといっても、この場合は無人操作に近いか?


 実際のシステムを知らない人からすれば、無人機の暴走と認識するだろうが……。


 逆に無人機の暴走と認識された方が、無人ドローンによる軍事転用などの案件を踏まえれば炎上系配信者には、都合がよいのだろう。


(厳密にはARチャフグレネードの技術というか、あちらの原理を利用しただけに過ぎないだろうが)


 ARチャフグレネードはARガジェットやカメラなどに対して誤動作を発生させるようなもの、と言う認識を受けている。


 これを利用し、ARカジノなどでブラックマネーを得る、SNSにおけるなりすましに使用するという事で開発されていた、と思われていたが……実際は違っていたのだ。


 チャフグレネードを使用し、ガジェットに更なる威力を持たせる……と言うのが正しいのだろうか?


 ある意味でもARガジェットを軍事転用と言うような事であり、到底許されるようなものではないだろう。


 どちらの流れに転んだとしても、ビスマルクにとっては……都合が悪かった。


(とにかく、急ぐべき案件なのは間違いないだろう)


 ビスマルクの持っている武器を踏まえると、明らかに何か含みがあるような気配だが……彼の持っているのもARガジェットだ。


 ただし、その形状は他のガーディアンが持っているような物とは大きく異なるので、他のエリアで使用されているものを持ち込んだ可能性もある。


 何故にビスマルクがそのようなものを持ち込んでまで……というのは不明な箇所が多い。



「どちらにしても、彼らのやろうとしていることに正義はない!」


 ビスマルクは先ほどまで使用していたARガジェットを収納し、槍の形状をしたガジェットに持ち替えた。


 先ほどまでのは大剣タイプのもので、左肩のアタッチメント部分に2つに折りたたんで格納される。


 そして、その直後に持ち替えた槍は……明らかに先端の形状が異質だった武器なのだが、ビスマルクが腰のホルダーにあるプレートを取り出した段階で、何なのかギャラリーの一部は把握する。


 プレートには何も書かれていないのだが真っ白なわけではなく、何かのラインが刻まれていた。


 おそらく、あのプレートは開発中の技術なのでは……と。


『貴様は、まさかあの世界線の……』


 忍者アバターの一人が、ビスマルクの持っている武器の変化に対し、動揺をしている。


 槍なのは間違いないだろう。しかし、その先端……明らかな神殺しともいえる武器に変化したようにみえた。


「この世界に、神と言う存在は必要ない!」


 その忍者アバターは、真っ二つになった後にポリゴンの塊となって消滅する。


 この光景を既視感がある、と認識しているものもいた。過去にダンジョンしんがバラバラにされたときに使用された武器、チェーンソーに。


 しかし、チェーンソーの機能を持った槍などあっただろうか? あの光景を見て、カスタマイズしたガジェットであれば……と脳裏によぎるかもしれないが。


 その槍の一突きは、瞬時にして忍者アバターをバラバラにしたのは分かった。突きなのにバラバラとは……矛盾する演出かもしれない。



「どの世界にも、コンテンツ炎上で儲けようという配信者はいる、という事か。アニメ版でも実写版でも……」


 ビスマルクの行動を目撃していたのは、草加支部の支部長であるアルストロメリアだった。


 彼女がさしている配信者とは忍者アバターの方だろう。向こうが暴れている状況で、騒動を鎮圧しようと姿を見せたのがビスマルクだったからだ。


 しかし、ここで指すアニメ版と実写版とは……どういうことだろうか?


(あの槍使いの使ったARガジェット、明らかにチェーンソーだった)


 アルストロメリアは、ビスマルクの使用したガジェットがランスタイプのチェーンソーだという事を見抜いていた。


 それでも、槍にチェーンソーの機能を持たせるのは無茶な話だろう。神に対してチェーンソーが効果があるのは、一部の神だけのはずだ。


 しばらくして、事件の方も解決に向かっていったこともあり、アルストロメリアは、その場を離れる。


「いずれ、あの勢力とも戦うことになるかもしれない、か」


 アルストロメリアには、ビスマルクの所属が何となくだが分かっていた。


 SNS炎上勢力でもなく、かといってガーディアンでもない。 


 かつて、ブラックバッカラ事件で存在していたとされる、AIアバターに対抗していた謎の組織……それがビスマルクの正体なのだろう。


 アルストロメリアが立ち去ろうとしている場面ですでにエンディングテーマは流れている。


 エンディングテーマが流れている中、別エリアでの忍者アバターが暴れていた件に関しても解決していた。


「これはどういうことでしょうか?」


 救援で駆けつけたガーディアン北千住支部の男性メンバーは、フィールドを見ても忍者らしき姿のアバターがいないことに疑問を持つ。


 今、この場にいるのは駆けつけたガーディアン数名と一部の炎上系配信者のみ。いわゆる遠隔操作だったアバターは、存在した形跡も発見できなかった。


「すでに先客は姿を消した……という事か」


 周囲を見回して、誰もいない事を確認したのは北千住支部の支部長であるパフィオペディルムだった。


 彼女としては、忍者構文に記されている忍者伝説も半信半疑であり、完全に信用したわけでもない。


「しかし、これで炎上勢力も弱体化するでしょう」


 このメンバーの発言に対しても、パフィオペディルムは若干疑問を持つ。


 炎上勢力は、忘れたころに動き出す傾向がある。それも、無数に存在し、ジャンルごとに……。


「どちらにしても、ダンジョン配信が炎上勢力にとっても都合のいいフィールドと認識されてしまったのは……事実みたいね」


 そして、メットを外していたパフィオペディルムはARメットを被り、別の場所へと向かった。その方角は西新井方面か?



『次回、アバターシノビブレイカー、対電忍は……』


 もはやお約束のナレーションは秋葉原本部の男性本部長だ。


 次回予告ではあるが、エンディングテーマは流れている。



【ビスマルクの行動が、ダンジョン配信に新たな動きを呼ぶ!】


 このテロップが表示される該当のシーンは、ビスマルクの手配書とも言えるような画像だった。


 明らかに炎上勢力が賞金を懸けているような展開でもある。その賞金が支払われる保証もないが。


【それに反応したのは、スノードロップ】


 このテロップの表示されたシーンでは、スノードロップと言う女性ハッカーが何かのデータを探している場面が映し出されている。


 その画面は、明らかに忍者構文にも見えなくもないが……。


「ビスマルクの正体……そういう事ね」


 スノードロップは、検索したデータを見て何か思う部分がある。


 ブラックバッカラ事件にも関係があるのは確実だが、それ以上に彼女が関心を示したのはガジェットだった。



【確実に変化し続けているのは、ダンジョンだけではない】


 このテロップが表示されたシーンでは、ARダンジョンで展開されるリアルパルクールの様子が映し出されている。


 ランナーの中には、どこかで見覚えのある人物もいるようだが……。


「ARパルクール、大丈夫かなぁ……」


 ARガジェットに乗っていたのは、ライセンスを若干取りたてにも見える月坂つきさかハルカだった。


 彼女はプロゲーマーなのでプロガジェットライセンスは持っているだろうが、大型ARガジェットは別ライセンスが必要である。


 つまり、これがライセンスを取っての初実戦という事にもなるだろう。



【次回:『新たなる忍者、その名はビスマルク』】


 サブタイテロップは画面下、このテロップ表示後に姿を見せたのは黒い忍者だった。


 かつて、蒼影そうえいをコピーしたかのようなハンゾウと言う忍者ロボットがいたのだが……それとは別にカラーリングが黒い忍者なのかもしれない。


 その証拠に、ハンゾウとは意匠が明らかに異なっていた。


 まさか、あのビスマルクが忍者構文の忍者とでもいうのか?



【ビスマルク、遂に本格介入か!?】


【ダンジョン配信に、また新たなる波乱が訪れる!】


 提供の上下にあるスペースでは、上に最初のテロップ、下には……。


 またもやダンジョン神と同じような便乗勢力にも似た介入者が姿を見せるのか?


 その詳細は次回まで待ちたい。



 実写版にはエンドカードは存在しないが、ここでは先週にSNS上で投稿されたコスプレ写真をご覧いただこう。


 内容はアニメ版と実写版のガンライコウのツーショット。しかも、アニメ版はスマホ型の着ぐるみ、実写版はメイドのコスプレと言う具合だ。


 まさか、お互いに中の人が同じになるとは予想もできていなかったので、この異質なツーショットになった、のかもしれない。


 背景は秋葉原駅。デジタルサイネージの告知などもあるのだが……いつに撮られたものだろうか?


 この写真の投稿にも数万のいいねが付けられており、どれほどの反響があるのかが分かる。


 対電忍自体、コスプレイヤーが多いかと言われると、そうではなかった。


 あまりにも小道具関係の確保が大変と言うのもあるかもしれないが……この辺りはお察しいただきたい。

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