お見合いしてみた 7


「魔石作りはウィザードクラスの中でも下位の実力の者がやる仕事です。それを公爵家のご令息にお薦めするなど……」

「いいのです。僕ができることがあり、それが僕の体調を楽にするものだと実感ができました。僕は学園にもまともに通っていなかったので、こんな仕事があるのだということも初めて知りました。教えていただけて、本当に嬉しかったです」


 ぺこり、とルビに頭を下げるジェラール様。

 公爵家のご子息が、お見合い相手の侍女に頭を下げるなんて!


「あの、実は僕は明後日、領地に戻るのです」

「そうなのですか?」

「はい。やはり雑念の少ない自然魔力が豊富な郊外にいた方が、体調がいいんです。今教えていただいた魔石作りを試してみたいと思います」


 それは確かにそうだよな。

 学園にも通えないほど体調が悪くなってしまうのなら、王都から離れた方がいい。

 公爵家の領地は王都と同等の広さ。

 郊外とはいえ、王都の反対側の領地端ともなると田舎と言っても差し支えないだろう。

 実際ジェラール様のお義父様が「領地の端にある片田舎にある別荘に、住まわせているんだが」と濁す。


「なのでその、もしもフォリシア嬢が本当にジェラールに嫁いでよいと言ってくださるのなら、大変申し訳ないのだが……」

「王都から離れて領地に、ということですね」

「そ、そうなのよ」


 もしもジェラール様に嫁入りするのなら、騎士という仕事を辞めて王都を離れて片田舎の別荘に住むことになる――ということ。

 三人ともそれを非常に申し訳なさそうな表情。

 しかし、私としてはなんということもない。


「はい! なにも問題ございません! 実はホワイトローズの隊長の座は副隊長に譲って騎士団に辞表を提出済みです!」

「「「え?」」」


 てへ、と舌を出す。

 公爵家に嫁入りする以上、母上からは「覚えることが山のようにあるのですよ?」と今まで倒してきたどんな魔物よりも恐ろしい顔で言われて震え上がった。

 いや、それだけが理由ではないけれど、公爵家の妻になる気満々だったからな。


「今引き継ぎ中ですが、再来週には完全に退職となります」

「そんな……! まさか僕のために……!?」

「はい!」


 驚いたジェラール様。

 そんなジェラール様に満面の笑顔で元気よく答えた。

 ショックを受けたようなジェラール様。

 私が自分の仕事を辞めたことを「僕なんかのために、そんな……」と瞳を揺らす。

 なぜジェラール様がそんなお顔をされるのか。

 椅子から立ち上がり、ジェラール様の横に寄って膝を折る。

 胸に手を当てた私にジェラール様は体の向きを変えて、ちゃんと真正面から私と向き合ってくださった。

 好き。


「私は私の意思で、主人を決めたのです。私をジェラール様を生涯守る騎士にしてください」


 左手を握り、その手の甲に唇を落とす。

 そうして見上げたジェラール様の顔は真っ赤。

 か、か、か、かわいいーーーーーー!


「ほ、本当に僕なんかで、いいのですか? 僕は弱くて、頼らなくて、戦う力もないのに……」

「なんの。ジェラール様が戦う必要などありません。私が戦います! それに、ジェラール様が弱くて頼らないなんて思いません。それに私は頼るよりも頼られたいのです! 恥ずかしながら母に『お前は嫁ぎ先がない』と絶望した表情で言われたので、正直女主人としてお屋敷を回せる自信が一切ありませんので、そこだけは申し訳ないと申しますか!」


 と、素直に言うとジェラール様とお義父上とお義母上が目を丸くしている。

 ルビから突き刺すような視線。

 ヤバい。

 余計なことを言ったらしい。

 母上に少なくとも二回はド突かれる。


「お屋敷のお仕事でしたら、僕もお手伝いします。あの、だから……フォリシア嬢は、僕のお仕事をお手伝いしてくださいますか?」

「え?」

「僕はあまり、外で働けないので……。その、例えば領地の見回り……視察や、魔物の討伐など……」


 と、言って目を泳がせるジェラール様がかわいい。

 こ、こんなにかわいい人がこの世に存在するのか?

 唸れ、私の鼻の血管。

 まだ破裂する時ではない。

 ここで破裂したらジェラール様に鼻血がかかってしまう。

 耐えろ、耐えぬくんだ!


「魔物討伐なら得意分野です! 事務仕事も騎士団で最低限はできます!」

「っ、お、お父様、お母様……あの……」

「――ふむ、ここまで言ってくださる女性はもう、現れないだろうな」

「そうね。わたくしたちはあなたたちがそれでいいのであれば反対はしません」


 と、いうことは――!


「お受けくださるのですか? 私との結婚のお話を!?」

「あの、でも、僕は本当に弱くて……戦うことなんてできなくて、剣も握るとすぐに血が出るような軟弱者で……ほ、本当に……それでもいいのですか?」

「あなたがいいのです!」


 この世に、この人よりも愛らしく守りたくなるような存在はいないだろう。

 もちろん犬や猫や赤ちゃんや幼児なども全力で守るべき愛すべき存在だが、それと成人男性でこんな――合法的に愛らしい人に二度と出会える気がしない!

 我が国のいい男の基準は武力だ。

 例えば父や兄たちのように、筋肉ムキムキの胸筋ピクピク力こぶモリモリの。

 けれど、そんなの毎日見てきた私には……筋肉より可愛さの方が必要なのだ!

 ジェラール様のような、合法的ショタ感のある美少女が! 成人男性だけど!


「――では、あの……どうぞよろしくお願いします」

「っ! よろしくお願いします!」


 結婚! 決まったー!!







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