お見合いしてみた 5


 病弱だなんて、ジェラール様って薄幸の美少女だったのか?

 あまりのことにますます守らなければ、と誓いを新たにする。

 ジェラール様のお話をまとめると、ジェラール様は先天性の魔力過剰症。

 自然魔力が常に多く体に取り込まれて、過剰気味になる。

 人の多い場所――例えばここ、王都のような場所は魔石道具などで常に自然魔力が消費され、ジェラール様は少ない自然魔力を取り込みづらくなりそれなりに適量の魔力になる。

 それはいいことのように思ったのだが、都会は雑念が自然魔力に交じって魔力質が悪く、体内に入っていく質の悪い魔力で体が入ることで体調を崩してしまうそうだ。

 なので普段、王都郊外にある領地の自然が多い場所に建てた別邸で過ごしている。

 王都にある学園に通うと、週末には起き上がれないほど体調を崩してしまう。

 魔力が多いからこそ、取り込む魔力も多くてその魔力質が関係する。

 なるほど……。


「魔力が多くて困ることはないのですか?」

「自然魔力の質の方が関係しているんです。溢れる魔力は――それはそれで周りの人が僕の魔力で魔力酔いさせてしまうのです」

「わあ……」


 やはり色々問題があるのだな、と話を聞きながら思う。

 マリーリリー様は生まれつき魔力がからっきし。

 ジェラール様の体質を考えると、まるで魔力のないマリーリリー様なら側にいても魔力酔いにはならない。

 地位的にも釣り合うし、我儘放題で世話役のメイドをクビにすることもあるマリーリリーを城から追い出したい王家としては、王都郊外に領地のある公爵家に嫁に出した方がいいと思っていたようだ。

 穏やかなジェラール様と一緒なら、あの苛烈な性格も丸くなるかもしれない。

 そんな期待も寄せながら、二人の婚約は結ばれた。

 けれど、その結果があの婚約破棄。


「しかし、それほど魔力が多いのであれば魔導師として活躍できたのではないですか?」

「我々も最初はそう期待したのですが……」

「僕には……ウィザードの適性がなかったんです」

「え」


 この国に限らず、この世界では王侯貴族は大きく七つの『クラス』と呼ばれる“分類”適性がある。

 私のクラスは『ナイト』――騎士だ。

 ナイトの分類適性を持つ者は身体強化魔法が使えるが、逆に言うと身体強化魔法しか使えない。

『ウィザード』――魔導師の適性があれば、攻撃魔法や補助魔法が使えるはずだが……その適性がないとは。


「では、もしかして『セイント』の適性が?」


『セイント』――聖なる者。

 回復魔法や補助魔法、結界魔法、封印魔法などが使える。

 この適性を持つ者は大変珍しいが、魔力が多いのも特徴の一つ。

 ジェラール様ならばむしろセイントでないとおかしいかもしれない。

 しかしその物珍しさと善性から、たかられやすくて周りの人間がわざとセイントであることを隠す傾向にもある。

 ど直球に聞くべきではなかったか、と慌てて「答えなくても大丈夫です」と両手を振ったが、ジェラール様は首を横に振った。

 あれ?


「セイントでもないのです」

「そ、そうなのですか。でも、では、ええと……」


 残るクラスは『キング』『クイーン』『デビル』『プロフェット』。

 デビル以外はセイントよりもレア。

 レアというか、一国に一人、現れるかどうかのクラス。

 え、まさか、そ、そうなのか?


「まさか……小悪魔……?」

「こあくま?」

「ぐぅっ! な、なんでもございません」


 それなら納得、と思った瞬間後ろからルビのド突き。

 あまりにもひどい。

 こんなに可愛いのだからジェラール様は小悪魔かもって思うじゃない?


「実は……プロフェットなのです」

「っ!」


『プロフェット』――預言者。

 未来のことを予知、または予知夢で知ることができる超特殊クラス。

 その特殊性からキングやクイーンと同等かそれ以上の出現確率で、国に一人現れればその国はプロフェットがある間、あらゆる災を回避できる。


「でも、僕は今申し上げた通り魔力過剰症で体調と精神が安定せず、予知も予知夢も見たことがなくて……」

「そうなのですか」

「マリーリリー様も最初は僕がプロフェットのクラス適性と聞いて喜んでおられましたが、結果的にはこんな感じで……だからあの、フォリシア嬢にはきっと、がっかりされると思うのですが――婚約については本当に考え直していただいて構わな……」

「では、質の良い自然魔力の土地で過剰な魔力をなにかで消費して整えればよいということですね。魔石作りや魔石浄化などいかがですか!?」

「え?」

「え?」


 そうなんだ、大変だな。

 魔力量が多い人がやる仕事といえばこれだよな、と提案したら目を丸くされた。

 ジェラール様だけでなく、ご両親まで。

 あ……公爵家のご子息が魔石作りや魔石浄化など、確かにやるべきではないな!


「も、申し訳ありません! 変なことを……!」

「い、いえ、あの……魔石というのは魔物から出てくるのですよね? 人の手で作れるのですか?」

「え? あ、はい。むしろ人の手で作られた魔石の方が、市民の手に届きやすく安価で出回っております。魔物を倒した時に出る魔石は、どうしても浄化の過程が必要となり内包魔力も多いので軍事用に回されがちなので」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る