お見合いしてみた 3
一週間後。
私は無事にホワイトローズをやめる宣言と隊長の引継ぎを行い、母上に「お見合いのための練習をしましょうか」とにっこり微笑まれて今、私は天を仰いでいる。
お見合い――ジェラール様との!
そんな喜びでうっかり母上の口車に乗ってしまったことを、心底後悔している。
コルセットで締め上げられ、動きづらいことこの上ないヒラッヒラのドレス。
髪は左右ハーフアップにさせられて、ドレスと同じ生地のリボンで結われた。
「お見合いは何種類かパターンがあるけれど、ジェラール様は婚約を白紙にされたばかりですからお茶会形式で婚約者候補を数名呼び、その中で選んでいただく形が望ましいでしょう。しかし、その形式ではなくお家に招き一対一でのお見合いをご所望くださいました。この場合家格の低い我が家がジェラール様の家へ足を運ぶのが礼儀です。聞いていますか?」
「ふぁい」
「よろしい。公爵家へ直々にお招きいただくのです。つまり、嫁入りするかもしれない家に行くのですよ。この意味がわかりますか? わたくしや旦那様のお力添えもなく、あなた一人で公爵様や公爵夫人とも会ってお話しするということです。この意味が本当にわかりますか?」
「そ、それは――」
母の鋭い眼差し。
まずい、今「義理のお父様とお母様にお会いできるということです!」と言おうとしたけれど、目が笑ってない。
こーれ、ふざけたら奥義で鳩尾突かれる。
母上の突きの速度は、私でさえ未だに超えられていないのだ。
母はなにもただ愛らしい小動物系美魔女ではない。
その小柄な体躯を活かした高速の突き技は、この国でも右に出る者はいないだろう。
そんな高速突き技で鳩尾を突かれたら、いくらコルセットをしていても大ダメージは不可避。
まずい、答えがさっぱりわからない。
「すみません、わかりません! 教えてください!」
こういう時は素直に教えを乞う!
腰を九十度に曲げて頭を下げると、母が「仕方なのない子ね」と溜息を吐く。
セーーーーーーーーーフ。
「あなたの義父、義母となられるかもしれない公爵様と公爵夫人にも、あなたの一挙手一投足が見られる――ということです」
あれ?
私正解していた?
「つまり親御さんが『次期公爵夫人に相応しくない』と判断すれば、いくらあなたとジェラール様が『お互いがよい』と思ったとしても反対されるということです」
「はっ!!」
それは、まずい!
未来の義父上と義母上に嫌われてジェラール様との結婚を反対されてしまうかもしれない――!?
そんなのまずい!
それだけは! 回避しなければ!
「それでなくともあなたは淑女教育を徹底して逃げ回っていたのですから、公爵夫人としてやっていけるとは到底思えません。健康なところと、ジェラール様をお守りできるくらいしかないのよ? 夫人の仕事は夫が外で働くのに問題がないよう、屋敷を守ることです。しかし、あなたの場合“物理的に”守ることに特化していて家を継続させる、という点をさっぱりわかっていないではない。コルセットとドレスを着てめかし込んだ程度でもう根をあげているのが、その証明です」
「ウッ!」
ぐうの音も出ないド正論!
「そういうことも、本当は覚えていかなければいけないのよ? まあ、マリーリリー様のことを思うと、あなたとどっちもどっちのような気もするけれど」
あのジェラール様に暴行を働こうとしたマリーリリー様と、私は同じレベル扱い!?
そ、それはさすがにクレームを入れますよ!?
「は――」
「そうよ。嫁として貰うのなら、どっちもどっちと思われているのよ。あなたの母に」
「くぅ……」
入れようと思ったクレームは真正面から打ち返された。
さ、さすがは母上。
あまりのどストレートにルビを振り返ると、ルビにも「それはそう」と強く真顔で頷かれた。
誰か嘘だと言ってほしい。
私はジェラール様のことを蹴り飛ばすような我儘と有名な王女と同類だと思われているなんて、そんな!
「さあ! わかったら公爵家で粗相しないようにドレスで庭を歩く練習よ! まずはドレスで転ばないこと! そのあとはお茶会の練習! 奥様にみっともない姿を見せて『とてもではないけれど息子の嫁には無理!』と思われないようになさい!」
「は、はいいいい」
と、いうわけで――さらに一週間後……。
「ジェラール様、この度はお見合いのお話を受けてくださりありがとうございます」
「は、はひっ」
私は無事に婚約破棄を済ませたジェラール様の王都のお屋敷にご招待に預かった。
そこにはジェラール様のお父様とお母様、大型犬も!
あれは、ジェラードとドーベルマンではないか!
優秀な番犬を飼っておられる!
可愛い!
だがそんなわんこたちを上回る、上擦った声で直立するジェラール様がもっと可愛いいいい!
ふわふわの髪、潤んだ瞳、緊張からか紅潮した頰、一生懸命に背を正す姿!
抱き締めたい。
いや、急に抱き締めたら私の腕力で折れてしまう。
こんなに可愛らしい姿のジェラール様を前に、魔力の制御が失敗するかもしれない。
「ええと、初めまして。私はジェラールの父でローゼン。こちらは妻のナーシャルだ。親が同席するのは堅苦しく感じるかもしれないが、どうか許してほしい」
「はい、それはもちろん!」
「ありがとう。……ええと、それで……その格好は、制服、かね?」
「はい! 私の正装といえばやはりホワイトローズの制服ですので。私が普段どのような仕事をしているのかも、ぜひジェラール様とジェラール様のご両親に知っていただければと思いまして」
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