水談
サイトこわいはなしあつめました
情報提供ページより
3: 20/09/05(木)02:26:24 IDハヤカタ
私が知人のSさんに聞いた話。Sさんは父親を幼い頃に亡くし、母と二人で生活していた。父の記憶は全く無いし、母も生前の父についてあまり語らなかった。一応、父の遺産ということでお金はあったのだが、それでも生活は厳しかった。母は生活費を稼ぐために仕事で忙しく、一緒に遊んだり、何かをした記憶は無い。幼少期のSさんはずっと一人で過ごしており、寂しかったという。
母は、Sさんが水に近付く事を極端に恐れていた。お風呂でさえ一人で入ることは禁止され、入るときもシャワーのみだった。学校のプールの授業も仮病を使って休まされていた。もちろん海なんて行った事はない。一度、あまりの制限に苛ついたSさんは、母に反抗したことがあったのだが、母は気が触れたように怒り狂い、暴れたので、それ以降反抗しないことにした。
早く家から出たかったSさんは、高校を卒業した後、大学には進学せず、別の県で働く事にした。母は家を出ることにもの凄く反対したのだが、就職もすでに決まっていることもあり、「水には注意する」という約束を必ず守るのであれば、と渋々納得してくれた。家を出る前、Sさんは母にずっと思っていた疑問をぶつけてみた。
「なぜ、母さんは私が水に近付くことをそんなに怖がっているの?」
母は一瞬困ったような顔をしたが、
「あなたが小さい頃に死んだ父親はね、事故で溺れ死んじゃったの。それから私は水が大切なものを奪っていくような気がして怖いんだよ」
と語った。正直、そんな理由であんな理不尽を強いられていたのか、と思ったが、母の気持ちを考えて口には出さなかった。
家を出てからは、束縛から開放され思いっきり自由にした。海にも行くし、温泉にも行く。プールだっていくし、仕事が終わって疲れた身体で湯船につかる。母からは定期的に約束を守っているかの連絡が来ていたが、しっかり約束を守ってると伝えていた。
家を出てから一年もした頃、母が自宅で亡くなっているとの連絡がきた。自宅内の浴室、トイレ等にはゴミが詰められ、蛇口は針金で巻かれており、母自身も極度の脱水状態であった事も確認されたのだという。
死因は【溺死】だった。
亡くなった母の手には、父と二人で川の前に立ち、微笑んでいる写真が握られていたのだという。
―――――――
この投稿をしてくれた方にお願いして、実際にSさんとコンタクトを取ることができた。
「どうもはじめまして。Sです。」
Sさんは明るい雰囲気の女性だった。すぐに件の話を伺うと、笑いながら話してくれた。
「なんですかそれ、私のお母さんは元気ですよ」
よくよく話を聞くと、幼少期の事と、父が亡くなった事は事実なのだというが、Sさんの母は地元で元気に過ごしているという。
「水に対して異常に敏感なのも確かです。幼い頃、私が川でおぼれかけてしまって。それ以降水の近くには行かないように注意されていました。お父さんが亡くなったのは水については関係無いですよ」
参ったなー、とSさんは頬に手を当てて笑っていた。まぁ、怪談を探していたり、取材しているとこんな事も多い。実際の話に尾ひれ背びれがついて大層な話が出来上がるもんである。
「でも、父と母が写っていた川は本当にありますよ。〇〇市の山奥です。昔キャンプで行ったみたいで。」
これ以上Sさんからは変わった話も聞けそうにないので、最後にその川へ行って帰る事にした。川はキャンプ場の中にあり、さして特別な所もない。水は透き通っており綺麗な川だった。
川を見ながらふと想う。
誰がSさんを紹介してくれたんだっけ?
なんでわざわざ取材しにこようと思ったんだっけ?
スマホを開く。
通話履歴を確認すると
【ハヤカタ】
とかいてある。
誰だこれ。Sさん紹介したのってこいつだっけ?
なんだかこの場に居ることが怖くなり、早々に川を後にした。
後日、Sさんからメールが届いていた。
【母が亡くなりました。溺死です。】
メールには葬儀に関しての連絡事項も書いてあった。
嘘だろ、と思うと同時に、
(何で一度しか会ったことのない私を葬儀に呼ぶのだろう)
と違和感を覚えたが、変な内容でSさんに取材を申し込んだ後の出来事という事もあり、葬儀に参加することにした。
「遠い所からありがとうございます。すいません、まさか本当にこんな事になるとは…」
葬儀場で泣きながら話しかけてきた女性は、以前会ったSさんでは無かった。雰囲気が違う等ではない。少し面影はあるが、全くの別人だった。
話をしていると、どうにも会話が噛み合わない。Sさんと私はどうも二年ほど前からの付き合いだったようである。
Sさんと出会ったのは、ほんの数日前だと私は認識しているのだが。
「失礼ですが、誰かを私と勘違いしていませんか?」
Sさんに問うと、Sさんはキョトンとした顔をした後、しばらく考え込んで答えた。
「すいません、【ハヤカタ】さんですか?」
私の表情を見て、間違いだと気付いたSさんはものすごい勢いで謝りながら慌ててその場を去っていった。
狐につままれたような気持ちで葬儀場を後にしたのだが、何だかスッキリしない。
自宅に帰り、メールを確認すると【ハヤカタ】から画像が届いていた。
画像を開くと、そこには川の前で微笑みながら男性と写っているSさんの姿があった。以前取材した、私が知っているSさんだった。【ハヤカタ】に電話をかける。
すぐに繋がったのだが、電話口からはザーザーと川の音が聞こえるだけであった。
――――――――――
【ハヤカタ】より
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