第90話 コスタリア貧民街の日常6

「ゴブ~」(今週も遊びにきたゴブよ~)


わたしとライアンは今週も貧民街に朝から遊びにきている


「ゴブ~」(あれ~孤児院に誰もいないゴブ?)


孤児院の扉が開いているが呼んでも誰もこない

いつもは小さな子供たちやお姉さまたちがわいわいとにぎやかにしているのに

中をのぞくと人の気配がしないばかりか机やイスも無くなってしまっている

そして壁が壊され奥の方などは床もメチャクチャにめくられていた


「ゴブッ」(これは・・・事件発生の臭いがするゴブッ)


わたしはライアンに視線を送り[強化]の付与をした

わたしは歩き出したライアンに背中合わせにくっつき後ろを警戒しながら一緒にゆっくり歩いていく

孤児院のみんな・・・無事でいてくれ


「そんなに警戒しなくてもよさそうっスよ、ほら」


ライアンが指さした先には大きなタンスを運び出そうとしている黒服さんたちがいた


「ゴブ~」(孤児院全員の人さらい事件発生じゃないのかゴブ)


汗だくの黒服さんたちが会釈をしながらタンスを運んでいった


「ちわっス、ライアン様、ミセッティ様もご機嫌よろしくっス。ちょっと今は孤児院の引っ越しで手が離せないから後で来た事を伝えておくっス。それでは」


孤児院の引っ越しだと~。

そういえば来るときに教会の裏側に小綺麗な宿屋みたいのが建っていたな

そして教会の孤児院の反対側は更地になってなんだか大量の木材が積んである

密集していた家がほとんど壊されて教会の前が馬車2台でも余裕で通れる広さの道になっているし

大浴場の計画は打合せしたけど1週間で工事が進みすぎてるんじゃないでしょうか


「これはこれはライアン様もいらっしゃっておりましたか。申し訳ありません、まだ1週間ほどですので工事が終わっておらず埃っぽいですがこちらに新居を移しておりますのでご案内いたします。ボス・・シスターライラも首を長くしてお待ちです」


教会の脇を進んで裏側にまわると真新しい2階建ての建物が完成していた


「あ~、ゴブリンさんだ~、いらっしゃ~い」


入口を入るとすぐにある食堂のようなホールでテトたちがイスを運んだり拭いて掃除をしたりしている


「ゴブ~」(きれいな新しい建物に引っ越したゴブ~)


「えへへ、そうだよ~。新しくなったんだよ~。前の孤児院は工事してお風呂になるんだって~。楽しみ~」


なるほどね、貧民街の中で教会の次に大きな建物だった孤児院を改修して大浴場にするのか

壁や床がぼこぼこだったのは浴場に改修するためだったのですな


「フフフ、まずは教会に併設した一般用の大浴場にて集客・・・いや癒しの必要な方々に来ていただいて教会の負担を軽減するということだったですからね」


「ゴブ!」(おおっ、その通りゴブ。会計士さんはよく理解しているゴブ)


「ライアン様、今週もようこそお越しくださいました・・・まだ片付けが途中で見苦しいのですが、2階の奥にのお部屋も用意しています。ご実家に比べれば見劣りするかと思いますがどうぞゆっくり休んでいってくださいませ」


またライアンの奴はシスターと奥で打合せとか言って休憩していくのか

黒服さんたちに案内されて奥の方へ二人で行ってしまったゴブ

せっかく身体強化と戦意高揚の魔法をかけたのに無駄になってしまった

まぁ平穏な日常が一番だし、よしとするか


「今日はね~、遊びたいけどいろいろやることがあるのでお仕事続けま~す」


テトも小さいながらも自分の仕事をしようと張り切っているな


「ゴブブ~」(そういえばチュー太はいないゴブか?)


「あはは~、チュー太は今はね~、赤ちゃんが5匹も生まれておっぱいあげなきゃいけないからお休み~」

「生まれてきた子供たちもね~みんな白くてかわいいんだよ~何か少し光っててすごくきれいなの~」


何と・・・チュー太、お前もメスだったのか・・・子どもの名付けは残酷だな

わたしも”未設定”からのミセッティだから人のことは言えないが・・・

チュー太・・・強く生きろよ。

自分の名前の意味を理解できているかは知らんがな

そして聖魔法で強化されたネズミが増殖しているような話ですが・・・気のせいですよね、まぁ仮に増えたとしても小動物だし特に問題ないゴブ


「フフフ、ミセッティ様、それでご相談なのですが井戸から水をくみ上げお湯に沸かす設備はもう整えております。あとは・・・」


「ゴブ」(分かっているゴブ、聖水にする設備を設置するゴブ)


「ゴブリンさんがね~聖水にするから水を沸かすところに案内してだって~」


テトがしっかりとわたしと会計士さんの意思の疎通をフォローしてくる

チュー太がいなくてもきちんと仕事が出来る子ですな、偉いぞ


「ククク、こちらになります、ここはこの施設の最重要な心臓部になりますから厳重に警備をさせて例え貴族であっても立ち入りを制限させるつもりです」


入り組んだ地下道に扉を3回程を抜けて進んだ先にあった小部屋の先には配管が組まれた新しい井戸があった

会計士さんがレバーを上げるとポンプのような働きをする魔道具が稼働しジャバジャバと井戸から水を汲みあげて水槽に水が溜まっていく


「ゴブ!」(任せるゴブ!井戸の水を聖水に変えるスペシャルな像を造るゴブ)


わたしは用意されていた銀の塊を前に聖魔法[神界]を発動する

銀塊が見る見るうちに形状変化し像になっていく


「おおっ、まさに女神の奇跡です、この目で見ることが出来ようとは」


じゃじゃーん。今回はあまり目立たないところに建てるということでわたし自身をモデルにしてみました~。

人知れずせっせとただの水を聖水にしている隠れた功労者・・・いいゴブな。

像のモチーフは地球では誰もが知っている噴水の像!

そう”小便小僧”のポーズを忠実に再現してみました!どうだ!!


「う~ん・・・これはひどいですね」

「こういうのはね~えっとね~良くないの~」

「ミセッティ様・・・卑猥です」


うおおぉい、立ち会っているみんなからは評価が低すぎるぞ

これは村に仕掛けられた爆弾の導火線を危険を顧みずに小便をかけて消火したとかいう小さな英雄を称える像だったはず・・・

こっちではその情報が無いためただの放尿をしている扱いになるのか!


でも背景を知らなくても結構ユーモラスな像だと思うんだけどな~

かわいいTNTNをちょいとつまんで気持ちよさそうにしている子供の像・・・

って、しまった~。わたしは現在は女の子だった~!!

前にまわりこんで見ると幼女がお股に手をあてて立ちションしている像だった


おっふ・・・これはマズいゴブ。すれすれどころか完全にアウトですな

これはアニメ化案件が一瞬で消滅する程のコンプラ違反だゴブ


「ゴ、ゴブ~」(少しふざけてみただけゴブ~。作り直すゴブ~)


わたしはそそくさと神界を発動し像を造り直した


富士山のような台座に噴火口から噴水のように水を噴き上げるようにしてピッタリおさまる透明のガラスのような浄化した球体をその上に乗せた。

水が吹き上がるのに合わせて球体がわずかに光ながらくるくると回って神秘的だ

水を聖水化しているのは固定された台座の方だが初めて見ると球体が水を浄化しているように見えるという心理を付いた防犯的にも安心な仕様だゴブ


「はぁ~きれいです。神秘のオーブによって水が聖水になっています~」

「やった~、ゴブリンさんすご~い」


ふふふ、皆も先程のことは無かったことのように感動しているゴブ

わたしが立ちションなんて下品なことをする訳ないゴブからな~

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