第81話 コスタリア領都の日常10

今日は午前中に急なお客様が来て仕事が出来なかったから仕方なく午後から仕事をしているゴブ。

全く・・・偉い人たちは自分の予定にまわりの人間が合わせるのが当たり前だと思っているからタチが悪いゴブ。

こちらは毎月のお給金がきちんと満額もらえるかを評価されるため常に失敗を許されず100%の成果を要求されるってのに・・・ふぅ、雇われの身分はつらいゴブ。


「ゴブゴブ・・・」(ふぅ、働かざるものは食うべからず・・・どこにいても生きるってのは大変だゴブ)


社会人の期間は短かったが上司からは使える部下だと評価されていたはずゴブ。

日本人として就労の義務を果たすべく社会に出て恥ずかしくないようしっかりと教育を受けてきたからな。

異世界に来て少し常識が違ったとしても充分通用するのだ。

日本の教育レベルを舐めるなよ。


「働かないと食べられないですか・・・別にお母様の執務の手伝いをこなさなくても私の従魔でいるだけで毎月のお給金は渡されるはずですけど」


「しっ、お嬢様。ミセッティ様がそのようにおっしゃっているのでそれはそれ、お互いが納得するカタチで相互に益があれば良いのです。それが社会というもの」


「まぁ、本人が納得しているなら別にいいんですけどね、誰も損していませんし」


なんだかお嬢様とカタリナさんがこそこそと話をしているがはっきり聞こえない。

もうすぐ終わりそうだからこっちは仕事に集中したいってのに。


「それにしても王・・ライアー子爵たちは遅いわね。もう3時間くらい経ったかしら?時間が掛かるのはしょうがないとしてもそろそろ心配になる時間ですね。少し様子を見てきた方がいいかしら?」


奥方様が日当たりのいいサロンでつぶやく。

日課のマッサージと読書が一段落ついて暇になってきたんだな。


「ゴブ」(こっちも今日きた書類は終わったゴブ)


「ほほほ、今日の仕事も終わりそうですし、どちらにしても私たちも清めの湯浴みをしなければいけませんから大浴場に向かいましょうか。むんっ」


奥方様は机の上に置かれた書類の束に慣れた手つきで1回ハンコを押すと仕事をやり切ったどや顔で背伸びをしながらメイドたちに湯浴みの指示をだした。


おおっ、20枚はあった書類に1回で刻印を刻むとは・・・修練の賜物だゴブ。


「はぁ・・・そういうことのコツを掴むのは素晴らしく早いですね」


カタリナさんも奥方様の仕事の早さに感嘆しているようだゴブ。


~~~~~~~~~

「ゴブ~」(お風呂~、お風呂~)


わたしは聖水になってしまった大浴場に浸かることはできないが替わりに大きい花瓶にお湯を張ってもらって個人専用のお風呂でゆっくり温まるのだ。

温泉ではないのが残念だがやはり日本人としてお風呂は外せないゴブ。


大浴場に着くとまだ王妃様一行は中におられるようだ。

貴族ってこんなに長風呂するんだゴブな~、温泉でもないのに。


「くっ、王妃様。この聖水風呂はすごいですよ!ずっと浸かっていると浸かっているだけ肌が若返っているような気がします、シミもだんだん薄くなっていますし」


「私の髪もどんどん艶が戻っていますわ。少し湯あたりして全身を浸けるのがつらくなってきましたが・・・少し休んでから最後にもう1回全身をくぐらせるわ。休んでいる間も髪に聖水を掛け続けてちょうだい」


王妃様が湯船のそばでリクライニングチェアのようなものに寝転んで休んでおられる

その傍で裸の侍従さんたちが扇で仰いだり、お湯に髪を浸けたりしている。

南国旅行でプールを楽しむセレブか?

いやこの国一番のセレブで間違いは無いが。


そして女神像の噴出口近くで湯船に足を入れたまま顔を真っ赤にして汗だくの女騎士さん2人が目をつぶったまま熱さに耐えている。


「ゴブ~」(何をやっているゴブ~。倒れそうゴブ)


「はぁはぁ・・・、いやなにこのお湯は万病に効きそうだからな、私たちを長年悩ましている水虫をこの際に完治できないかと思って耐えているのだ」


「ちょっとー!このあと私たちもこのお湯に入るんですけど!」


確かにこの聖水は回復だけでなく浄化の効力も持たしているので病原菌が原因の病にも多少の効果がありますが・・・水虫と宣言されて足をずっと付けられるとなんだかそのあと入るのに抵抗がでるゴブ。


「カタリナ、料理長に言って冷たい飲み物を用意させなさい。このままでは脱水症状で倒れる人が出るわよ・・・」


しばらくたってメイドさん達が冷たい飲み物を大浴場に運んできた。


「今日の飲み物は3種の柑橘を細かく砕いた氷で割ったフローズンジュースです。隠し味に微量の塩を入れております」


おおっ、熱射病や脱水症状に効きそうな飲み物だな、さすがうちの料理長。

いつも季節を感じたりや体が欲しがるような絶妙な飲み物を用意してくれるんだよな


「あら~、おいしそう。火照った体に染み渡るわ~。のどが渇いていたからこの聖水を飲もうか本気で悩んでいたのよ」


「皆さまの分もご用意していますからどうぞ早めにお召し上がりください」


侍従さんや女騎士さんたちに振舞うとおいしそうに飲み干していた。

みなさん結構限界に近かったらしい。

水分補給して元気になったからもう少し粘るそうだ。

出るまで待てないので私たちも一緒に入ることにした。


「ゴブ~」(今日はお風呂に入りながら冷たい飲み物があるなんて最高ゴブ~)


「本当ですね、たまには長風呂してゆっくりするのもいいですね」


アイラお嬢様と乾杯のあいさつをしてゴクゴクとフローズンを飲み干す。


「ゴブ~」(ぷは~、仕事のあとの一杯は最高ゴブ)


「よぉ~し、あと3時間は浸かっていくわよ~」


「アナスタシア叔母様・・・私たちが出る時に一緒に出ますわよ、これ以上居座ると残りの者が湯浴みできません。さすがに貴族でないものが一緒に入ることは許されませんからね」


「ええぇ~。サイネリアちゃんは毎日でも入れるからいいじゃない。私たちは今度いつ来れるか分からないし」


王妃様がまたわがまま言い出したゴブ。まわりがまた困ってしまうゴブな。


「そうですよ、この聖水風呂は全ての女子の憧れになります。王妃様のおっしゃる通りです。ところでコスタリア家では優秀な侍従など足りておられますか?自分本位ですが私達はかなり有能な者ばかりですし、中央の有力貴族とのつながりもある者ばかりなのですが」


「ああっ、それなら私たちも女にしては結構腕が立つと自負しておりまして・・・」


「あっ、こら~。主人を裏切ってここに置いてもらおうなんて許さないわよ~」


なんだか王妃様側が騒がしいゴブ。

さっきまで湯あたりしてフラフラしていたのがうそのようだゴブ。

相変わらず異世界の女性たちはたくましいゴブな~。


「ミセッティ、あのままじゃ王妃様が浴場からまだまだ出なさそうです」


「ゴブ~」(しょうがない王妃様ゴブ~)


わたしは女神像から出ている聖水を手桶に1杯汲んで聖魔法を発動した。


聖魔法レベル5[祝福]・・・聖水にさらに限界まで聖魔法を付与する


「ゴブ」(出来たゴブ、これでいつでも聖水風呂に入れるゴブ)


手桶に入った聖水が底が見えないぐらい虹色にキラキラと輝いている。


濃縮聖水(1000%)

1000倍に薄めると聖水になる。

原液のまま流すと生態系に影響が出るので取扱いには十分注意しよう。

通称:女神の涙

この世の不条理を嘆いた創造神が心の清らかな者たちを思い流した涙

実際は特殊な状況下で永い年月をかけ水分のみが気化し成分が濃縮された聖水

エリクサー、ネクターなどの作成に必要な最上位の錬金の材料でもある。


「ゴブ~」(温泉の元を作ったゴブ。これをお土産にして帰るゴブ~)


「「「・・・・・」」」


あれ?さっきまで騒いでいたのになんだか静まりかえってしまったゴブ。

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