第79話 クローン転生実験(1)

 クローン体への転生実験とは、どういうことか。

 クローン体には「幽子(Spectron)」が無い。つまり魂が存在していないために、生きてはいるものの自我がなく目を覚ますことがない。

 そもそも魂というのものは、まず「幽子(Spectron)」と「霊子(Spiritron)」で構成された「魂核子(Psycho Nucleus:PN)」があり、「魂核子(PN)」が連なって糸のようになったものが「魂糸符(Psycho Strands Code:PSC)」となる。この「魂糸符(PSC)」が綿のように無数に集まったものが科学に於ける「魂」である。人間の場合、「魂糸符(PSC)」は128個の「魂核子(PN)」が連なっており、「魂核子(PN)」は「幽子(Spectron)」の数により4種類(A,B,C,O)に分類されていた。つまり「魂糸符(PSC)」は4の128乗(4^128)の種類があり、このことがそれぞれ人間の魂の個性を現している。

 クローン体の場合「幽子(Spectron)」の代わりに「空白子(Empteron)」があり、「魂核子(PN)」の代わりの「空核子(Void Nucleus)」が、「魂糸符(PSC)」と似た「空糸符(Void Strand Code)」を構成していた。なおクローン体の「空糸符(VSC)」はオリジナルの「魂糸符(PSC)」とは、「魂核子(PN)」と「空核子(VN)」の違いはあれど、128個すべて同じ配列である。

 魂のエネルギーとなる「霊子(Spiritron)」がクローン体では全く活動していないために「クローン体には魂がない」と見なされているのだ。

 クローン体への転生実験とは、オリジナルの魂を幽体離脱によりクローン体へと憑依させ、クローン体の「空白子(Empteron)」をオリジナルの「幽子(Spectron)」に置き換えることによる、言わば「魂の移植」実験なのである。


「そのためにアビオラさんは、ボクに『幽体離脱装置』を作らせたのさ」

 QP所長は研究開発室中央に置かれた装置を指し示す。

「でも幽体離脱だけでは転生はできないよ。『魂の緒』が魂と肉体を繋いでいるために、幽体離脱で一時的に肉体から魂が離れてもすぐに肉体に戻ってしまうのさ」

「「「魂の緒???」」」

「あれ?ボクの故郷だけなのかな?『魂の緒』が伝わっているのは。割と一般的だと思ったんだけどな」

 QP所長曰く、「魂の緒」とは別名「プシュケとソーマを繋ぐ糸(Psyche-Soma Linking Thread)」と呼ばれているとのことだった。「プシュケ:Psyche (Ψυχή)」はギリシャ語で「魂」や「心」を意味し、「ソーマ:Soma (Σῶμα)」はギリシャ語で「肉体」や「身体」を意味している。「魂の緒」とは魂と肉体を繋ぐ糸やひもなど細長いもの、あるいは魂と肉体を結びとめるものである。

「学術的用語ではないし、PGC(Psycho Genome Capture)デバイスでも肉体の陰に隠れて見えないものだから、認知度が低くても仕方ないけど・・・でも『死神の鎌』は『魂の緒』を斬るためのものなんだから、知識として知っておいてほしいよね」

 言われてみれば、と「死神の鎌」から「魂の緒」を理解できたものが多くいた。

「ボクの作った装置に名前を付けるとすると『魂の緒を切り離し、オリジナルから射出し、クローンに憑依させ、再生を確実にするための装置(Device for Detaching the Psyche-Soma Linking Thread, Projecting it from the Original, Possessing the Clone, and Ensuring Rebirth System)』と呼ぶべきかな」

 QP所長作製の装置の効果の前に「装置の名前が長すぎる」と誰もが思ってしまった。


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