第76話 テレパシー(4)
100枚の画像の中から10枚を順番に選び、地球側とQP側で同じ順に並べる実験は1分とかからずに終了した。実験の後は検証のために地球とQPとで交信をするのだが、2天文単位(Astronomical Unit: AU)離れているために重力波通信を使用しても送信から受信まで16分38秒ほどかかってしまう。したがって検証の時間だけが無駄にかかってしまっていた。ホールに集まった科学者たちにとっては退屈なだけだ。
本来なら科学者たちも自分たちの見解を述べあったり、成功か失敗かの予想を立てたりするのだが、成功は火を見るよりも明らかだった。見解も超心理学がポピュラーな科学分野ではないだけに、門外漢がほとんどだ。自分たちも科学者である以上、門外漢からのいい加減な見解は聞きたくはないししたくもない。必然的に言葉数は減り、退屈な時間だけが過ぎていった。
「どうだろう、全ての実験だけを先に済ませてしまい、検証は後ほどまとめて行ってみては?」
場の空気にたまりかねたアビオラCUEOが発言する。他の科学者たちも同意した。科学者たちは検証など後回しにして、人形のような可憐な少女がテレパシーという魔法を奏でる姿をもっと見たいのである。
「・・・わかりました。次の実験を始めましょう」
その後のテレパシー実験は和やかな雰囲気で進行していった。
最早誰もユリとパートナーのテレパシーに疑う者はおらず、逆に成功するのが当たり前のようなほっこりした空気になっていた。
少々異変があったのは味覚の実験の時ぐらいだろうか。
「すみませんが、こちらの実験だけは同時にはできません。こちら側は地球側が食した後にします」
ユリが実験のルールを拒否したのだ。これまで地球とQPでの同時テレパシー実験がリアルタイムで成功していただけに、ホールの全員が訝しがった。
「・・・理由をお聞きしてもよろしいかな」
CAVAPの審査官が困惑を滲ませるような声でユリに聞く。
「地球側は極上のステーキですよ。なのにこちら側はクッキーだなんて・・・お肉とクッキーを同時に食べる人がいますか?」
ユリの理由にホールの一同は一瞬静まり返り、その後笑いを堪えるものが続出した。
CAVAPによる長時間の検証後、テレパシー実験は「全て成功」という成果を上げて終了した。
ヴィクトールが壇上に上がる。
「今回の実験はテレパシーや超心理学の証明のための実験ではありません。テレパシーというのは霊子による通信です。つまり『霊子通信』を超能力者に頼らず工学的に開発できれば、距離を問わないリアルタイムでの通信が可能になるということです」
「「おおっ!!」」
研究者たちの目の色が驚愕と共に変わる。
「皆さんは霊子について、反霊子化させアンチマターとしてのエネルギー利用の研究をされていると思いますが、ダークマターである『霊子エネルギー』もまた、人類が今まで制御できなかった未知のエネルギーなのです。超心理学では霊子はエネルギーとして認知しています。反霊子もまたエネルギーとして、未知の可能性を秘めています。何しろ反霊子の力により『発火』や『発電』さらに『空間転移』も可能なのですから。今までは検証できないオカルト科学でしかなかった超心理学も、最近では検証可能な科学としての地位を固めています。先入観や既存の法則に捕らわれず、科学に革命をもたらしてください」
ホールに盛大な拍手が巻き起こる。
クワメ・アビオラは改めて『ヴィクトール・クローネル』という人物のカリスマ性を垣間見るのだった。
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