第10話
美咲は夜を徹して研究を進めた。兄・翔平の思考がどうして牛のようになってしまったのか、その理由を解明しようと試みた。何日も何日も、彼女は紙に数式を書き留め、図を描き、仮説を立てては検証した。
そしてついに、彼女はある重要な発見をした。それは、翔平の思考が牛のようになってしまったのは、合体マシーンの効果が徐々に脳へと広がったためだという事実だった。彼女はその原因を突き止めることができたが、それを逆転させる解決策を見つけるのは容易なことではなかった。
そんなある日、美咲は研究に行き詰まった瞬間、翔平が彼女のもとへやって来た。
「美咲、大丈夫だよ。」翔平は淡々と、しかし穏やかに告げた。「君がこんなに頑張ってくれるなんて思ってもいなかった。でも、僕は今、不自由さを感じていない。草を食べ、昼寝をして、静かに過ごす。これが僕の新しい生活だ。」
美咲は翔平の言葉に驚き、そして深い感謝の気持ちを覚えた。「でも…」
翔平は微笑んで美咲の言葉を遮った。「君が自分の研究に取り組むこと、それが一番大事だよ。僕は、君が僕のために研究を続けるより、君が自分自身のために研究を進めることを望んでいるんだ。」
美咲は翔平の言葉に深く感動し、彼の決意を尊重することにした。そして彼女は、新たな気持ちで自分の研究を再開し、その日からは翔平の生活を支えることに専念した。
美咲と翔平の生活は、それぞれが自分の道を進むという新しい形で進んでいった。翔平は自身が半ば牛としての生活に適応していく中で、美咲は彼をサポートし続けた。
美咲は、彼が草を食べることができ、自由に歩けるように彼のためのエリアを作った。そして、翔平の牛の体と心がもたらす新しい問題に対応すべく、彼女の研究は進み続けた。一方、翔平は自然と共に静かに過ごすことで、牛としての生活に満足感を覚え始めた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんが喜んで草を食べている姿を見ると、何だか嬉しくなるよ。」美咲はそう言って笑った。
「美咲、君が僕のことを見て笑ってくれると、僕も幸せだよ。」翔平はその言葉を言うと、ゆっくりと牛のように頷いた。
このように、彼らは日々を過ごしていく中で、お互いが新しい生活を受け入れ、お互いを尊重し、愛することを学んでいった。
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