第7話 歯車
翔太は夢から覚めた。ゆっくり立ち上がり本棚を見た。『歯車』に目が留まる。
『歯車』は、芥川龍之介の小説。『玄鶴山房』、『蜃気楼』、『河童』、『或阿呆の一生』と並ぶ晩年の代表作である。この時期の作品には自身の心象風景を小説にしたものが多いが、この作品もその一つと言える。執筆期間は1927年3月23日から4月7日までとされる。「話」らしい「話」はなく、芥川を自殺に追い詰めたさまざまな不気味な幻視、関連妄想が描かれている。芥川は1927年(昭和2年)服毒自殺を図るが、生前に第一章が雑誌「大調和」に発表され、残りは遺稿として発見された。遺稿中では唯一の純粋な小説である。
ギアは『歯車』のことかも知れない。
あらすじは次の通りだ。
「僕」は、知り合いの結婚披露宴に出席するため、東京のホテルに向かう。途中、レエン・コオト(レインコート)を着た幽霊の話を耳にする。その後、事あるごとに、季節はずれのレエン・コオトが現れ、「僕」は段々と不気味になってくる。披露宴後、そのままホテル[2]に逗留して小説を執筆しだしたとき、「僕」は、義兄がレエン・コオトを着て轢死したことを知る。
ときおり「僕」の視界には半透明の歯車が回るのが見える。やがて東京に耐えきれなくなった「僕」はホテルを出て妻の実家へ帰るが、そこでも不吉な現象は続く。激しい頭痛をこらえて横になっていると、妻は「お父さんが死にそうな気がした」と言う。「僕」はもはやこの先を書き続けることも生きていることも苦痛となり、眠っているうちに誰かが絞め殺してくれないだろうかと望む。
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