苦手分野のテストは苦痛でしかない――3
あのあと、俺は蓮華に付き添われて保健室へ向かった。
「月見里さんが、交流のない山吹をどうしてあんなにも心配しているんだ?」
と、クラスメイトたちが俺と蓮華の関係に疑問を持ちはじめたので、
「俺の心配をしてくれるなんて……月見里さんは優しいんだな」
と発言して、『優しいから、蓮華は俺のことを放っておけなかった』とミスディレクションしておいた。俺たちの関係を追求しようとする者が現れなかったので、上手く誤魔化せたと思う。
俺の手首を看て、養護教諭は捻挫と診断した。ただ、骨に異常がないか定かではないので、医者に診てもらったほうがいいと勧められた。
放課後、俺は病院に行くことにしたのだが、ここでも蓮華はついてきた。
「ひとりで平気だ。心配してくれるのはありがたいが、過敏すぎる」
と遠慮したのだが、
「いまの秀次くんをひとりになんてできません! なにかあったらどうするんですか!?」
と、蓮華は決して譲らなかった。
幸い骨に異常はなく、安静にしていれば一週間程度で治ると診断され、心配性を発揮した蓮華が支払いなどを代行したあと、俺たちは同棲している部屋に帰ってきた。
「いまドアを開けますね」
「……なあ、蓮華?」
「靴を脱がせますので、そこに座ってください」
「いや、そこまで気を回す必要はないって」
度を超えて
「いえ。お医者さまから安静にするように言われたじゃないですか。わたしがします」
それでも蓮華は首を縦に振らなかった。
蓮華の
「責任でも感じでいるのか?」
蓮華がビクッと肩を跳ねさせた。どうやら図星らしい。
「どうせきみのことだ。『俺のカッコいい姿を見てみたい』と頼んだから、俺が無理をして、結果としてケガをしてしまったんじゃないかと考えているんだろう?」
ばつが悪そうな表情で、蓮華が小さく頷いた。
俺は苦笑する。
「気に病む必要はない。俺が無理をしたのは、きみに頼まれたからじゃなく、最後まで真剣に取り組もうと考えたからだ。ようするに自業自得。俺が勝手にヘマをやらかしただけなんだよ」
「ですが……」
フォローするも、蓮華の表情は晴れない。親に叱られた子どもみたいに、シュンと肩を落としたままだ。
なんとかして蓮華を励ましてあげたい。「うーむ……」と顎をさすりながら、俺は思考を巡らせて――ひとつの方法に行き着いた。
もう一度溜息をついて、俺は口を開く。
「本当に気にしなくていいんだ。むしろ、きみに落ち込まれたほうが居心地が悪い。なんというか、その……きみの悲しむ顔は、見たくないんだ」
告げると、蓮華が目をまん丸にして俺を見つめてきた。自分の口にした言葉と蓮華の視線がむず痒くて、俺はそっぽを向いて、赤くなっているだろう頬を
「……そうですね。いつまでも落ち込んではいられません!」
俺の励ましが功を奏したのか、うなだれていた蓮華が背筋を伸ばし、ギュッと両手を握りながら、「ムッフー!」と鼻息を荒くした。
「いまこそ、未来の妻としての役割を果たすときです! 秀次くんの捻挫が治るまで、わたしが全力でサポートしますね!」
キッ、と眉を立てて蓮華が宣言する。完全に吹っ切れたようだ。
けど、ちょっと張り切りすぎじゃないか? 俺が風邪を引いたときも過保護なまでに看病していたし……なんか不安だな。
ありがたいけれど、そこはかとなく嫌な予感がする。
冷や汗をかきながら俺は言った。
「まあ、ほどほどに頼むよ。ほどほどにな」
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